授業後。僕は重たい身体を引きずって、帰路を歩いていた。
帰りの電車で、空席だったため座ってしまったのが運の尽きだった。意識を取り持とうと必死に体に言い聞かせていたが、どこかのタイミングでまるで全身に麻酔を撃たれたかのように意識を失ってしまっていた。
気がつけば、電車は終電まで辿り着いており、逆回りの電車に乗る羽目になった。時間はいつもより三十分ほど遅れてしまっていた。
終電まで乗ってしまったことに驚愕し、突然目覚めた体は徐々に元気をなくしていった。最初はそこまで感じなかった体の怠さを今は大いに感じている。
まるで象が歩くかのように、重たい足を一歩ずつ前に進めながら、僕はヒカリのいる河川敷へと近づいていく。
ヒカルは今どこにいるのだろうか。またいつものように暖かい毛布の上で気持ち良さそうに眠ってくれているだろうか。
期待と不安を胸に抑えつつ、橋の下に向かって歩いていく。
西に沈む夕日の光によって、真っ赤な幻想的な空が浮かび上がる。光は川にも侵食し、いつもは青色を描く川は赤色に照らされていた。
神秘的な光景を見ながら歩いている。
ヒカルの居場所である橋の下に近づいていくと視線は自然に川辺へと近づいていく。
そこで僕は思わず、目を剥いた。終電に着いた時以上の驚愕が僕を襲った。
僕は河川敷につながる道端とは逆方向へ徒歩を進める。橋の下にいる彼らたちに気づかれたくなかったのだ。反対方向の傾斜を駆け下り、下の歩道へと飛び降りる。
石の壁にもたれかかると、募る不安を出すように大きく息を吐いた。
なぜ、加藤たちがあそこにいたのか。
そして、なぜ彼らの前に滝森さんがいたのか。
深呼吸を繰り返し、強く脈打つ鼓動を落ち着かせる。新たなる酸素が全体に行き渡るのを感じるとゆっくり思考を研ぎ澄ましていった。
一つ一つ整理していこう。
まず、なぜ加藤と滝森さんが一緒にいるのか。一緒ではなく、別々にやってきたのか。滝森さんが最初にヒカルの場所へ行き、ヒカルがいないため探しているところに加藤たちがやってきた。いや、それは考えられない。ヒカルの場所を知っているのは僕と滝森さんのみ。加藤たちが知っているわけがない。となると、滝森さんが彼らを連れてここにやってきたというのが一番筋が通っている。
そうなると、なぜ滝森さんが加藤たちをヒカルのいる場所へと連れてきたのだろうか。そういえば、鬼頭たちと初めて遊んだ際に、加藤が滝森さんに告白したという話を耳にした。もしかすると、それで二人の間に何かの関係ができたのかもしれない。あの時の滝森さんは罰の悪そうな様子を見せていた。
これだけではまだ滝森さんが加藤たちを連れてきた理由にはなっていない。では、何のために連れてきたのか。
答えは、単純。僕への『いじめ』のため。
目の奥がじわりと痛む。精神的苦痛を受け、体が危険信号を出しているみたいだ。僕は左目を手で覆いながらもさらに思考を深めた。
加藤たちは僕をいじめたことで信用スコアが下がることとなった。逆に僕の信用スコアが上がることとなった。もしかすると、何らかの伝達で加藤たちは僕が信用スコアが高くなっていたことを知ったのかもしれない。そして、その原因がいじめであることを知った。だから、鬼頭たちと遊ぶこととなったあの日、加藤たちは僕に話しかけず、帰っていったのだ。これ以上、自分たちの信用スコアを下げないために。
だが、彼らの中では腑に落ちなかったのだろう。自分たちの信用スコアが下がり、僕の信用スコアが上がった状態で終わるのを彼らが納得できるはずもない。
そこで彼らは滝森さんを使って、僕の情報を得た。僕の一番に大事にするヒカルの存在をキャッチし、そのヒカルに……
僕は反射的に自分の思考を止めた。その先を考えたら、僕の精神がもたないと思ったのだ。加藤たちなら、やりかねない。僕にとっての一番のバッドルートだ。
思考を一度スライドさせる。肝心なのは、滝森さんがなぜ彼らにこの場所を教えたかだ。何か弱みを握られていた。『滝森さんが過去にいじめに遭っていた件』に関して知られていた。いや、あれは僕と彼女だけの秘密だ。僕が公言していない以上、伝わるはずもない。
別の原因があるのか。だとしても、あの滝森さんが人を売るような人間だと思えない。将来の夢が警察官であり、それに向けて日々頑張っている彼女が正義感に反するような行動をとるはずがない。
だが、事実は変わらない。ヒカルはいなくなり、ヒカルの居場所に滝森さんと加藤たちがいたという事実は何も変わらないのだ。何か絶対理由がある。
記憶を遡ると、一つだけ気にかかることがあった。昨日のハロウィンパーティの件だ。パーティが終わり、滝森さんに声をかけようとした際、少しだけ彼女のスマホの中を覗いてしまった。その時、僕の目に間違いがなければ、彼女の信用スコアは『574』であった。元々、590ポイント代をキープしていた彼女がなぜ、大幅に下げる結果となったのか。
目の奥の痛みは激しさを増していく。沈んだはずの鼓動は再び大きくなっていく。鼻呼吸では対応しきれず、口で大きく息を吸って吐く。それでも酸欠状態となり、もたれかかった背中を引きずり、地面へと落ちていった。通り過ぎる人が心配する様子を見せるが、僕には彼らを気にする余裕がなかった。
僕は、自分の思考を根本的に変える必要がありそうだ。
滝森 静は可憐な聖人ではなく、非道な極悪人である可能性があるのかもしれない。
帰りの電車で、空席だったため座ってしまったのが運の尽きだった。意識を取り持とうと必死に体に言い聞かせていたが、どこかのタイミングでまるで全身に麻酔を撃たれたかのように意識を失ってしまっていた。
気がつけば、電車は終電まで辿り着いており、逆回りの電車に乗る羽目になった。時間はいつもより三十分ほど遅れてしまっていた。
終電まで乗ってしまったことに驚愕し、突然目覚めた体は徐々に元気をなくしていった。最初はそこまで感じなかった体の怠さを今は大いに感じている。
まるで象が歩くかのように、重たい足を一歩ずつ前に進めながら、僕はヒカリのいる河川敷へと近づいていく。
ヒカルは今どこにいるのだろうか。またいつものように暖かい毛布の上で気持ち良さそうに眠ってくれているだろうか。
期待と不安を胸に抑えつつ、橋の下に向かって歩いていく。
西に沈む夕日の光によって、真っ赤な幻想的な空が浮かび上がる。光は川にも侵食し、いつもは青色を描く川は赤色に照らされていた。
神秘的な光景を見ながら歩いている。
ヒカルの居場所である橋の下に近づいていくと視線は自然に川辺へと近づいていく。
そこで僕は思わず、目を剥いた。終電に着いた時以上の驚愕が僕を襲った。
僕は河川敷につながる道端とは逆方向へ徒歩を進める。橋の下にいる彼らたちに気づかれたくなかったのだ。反対方向の傾斜を駆け下り、下の歩道へと飛び降りる。
石の壁にもたれかかると、募る不安を出すように大きく息を吐いた。
なぜ、加藤たちがあそこにいたのか。
そして、なぜ彼らの前に滝森さんがいたのか。
深呼吸を繰り返し、強く脈打つ鼓動を落ち着かせる。新たなる酸素が全体に行き渡るのを感じるとゆっくり思考を研ぎ澄ましていった。
一つ一つ整理していこう。
まず、なぜ加藤と滝森さんが一緒にいるのか。一緒ではなく、別々にやってきたのか。滝森さんが最初にヒカルの場所へ行き、ヒカルがいないため探しているところに加藤たちがやってきた。いや、それは考えられない。ヒカルの場所を知っているのは僕と滝森さんのみ。加藤たちが知っているわけがない。となると、滝森さんが彼らを連れてここにやってきたというのが一番筋が通っている。
そうなると、なぜ滝森さんが加藤たちをヒカルのいる場所へと連れてきたのだろうか。そういえば、鬼頭たちと初めて遊んだ際に、加藤が滝森さんに告白したという話を耳にした。もしかすると、それで二人の間に何かの関係ができたのかもしれない。あの時の滝森さんは罰の悪そうな様子を見せていた。
これだけではまだ滝森さんが加藤たちを連れてきた理由にはなっていない。では、何のために連れてきたのか。
答えは、単純。僕への『いじめ』のため。
目の奥がじわりと痛む。精神的苦痛を受け、体が危険信号を出しているみたいだ。僕は左目を手で覆いながらもさらに思考を深めた。
加藤たちは僕をいじめたことで信用スコアが下がることとなった。逆に僕の信用スコアが上がることとなった。もしかすると、何らかの伝達で加藤たちは僕が信用スコアが高くなっていたことを知ったのかもしれない。そして、その原因がいじめであることを知った。だから、鬼頭たちと遊ぶこととなったあの日、加藤たちは僕に話しかけず、帰っていったのだ。これ以上、自分たちの信用スコアを下げないために。
だが、彼らの中では腑に落ちなかったのだろう。自分たちの信用スコアが下がり、僕の信用スコアが上がった状態で終わるのを彼らが納得できるはずもない。
そこで彼らは滝森さんを使って、僕の情報を得た。僕の一番に大事にするヒカルの存在をキャッチし、そのヒカルに……
僕は反射的に自分の思考を止めた。その先を考えたら、僕の精神がもたないと思ったのだ。加藤たちなら、やりかねない。僕にとっての一番のバッドルートだ。
思考を一度スライドさせる。肝心なのは、滝森さんがなぜ彼らにこの場所を教えたかだ。何か弱みを握られていた。『滝森さんが過去にいじめに遭っていた件』に関して知られていた。いや、あれは僕と彼女だけの秘密だ。僕が公言していない以上、伝わるはずもない。
別の原因があるのか。だとしても、あの滝森さんが人を売るような人間だと思えない。将来の夢が警察官であり、それに向けて日々頑張っている彼女が正義感に反するような行動をとるはずがない。
だが、事実は変わらない。ヒカルはいなくなり、ヒカルの居場所に滝森さんと加藤たちがいたという事実は何も変わらないのだ。何か絶対理由がある。
記憶を遡ると、一つだけ気にかかることがあった。昨日のハロウィンパーティの件だ。パーティが終わり、滝森さんに声をかけようとした際、少しだけ彼女のスマホの中を覗いてしまった。その時、僕の目に間違いがなければ、彼女の信用スコアは『574』であった。元々、590ポイント代をキープしていた彼女がなぜ、大幅に下げる結果となったのか。
目の奥の痛みは激しさを増していく。沈んだはずの鼓動は再び大きくなっていく。鼻呼吸では対応しきれず、口で大きく息を吸って吐く。それでも酸欠状態となり、もたれかかった背中を引きずり、地面へと落ちていった。通り過ぎる人が心配する様子を見せるが、僕には彼らを気にする余裕がなかった。
僕は、自分の思考を根本的に変える必要がありそうだ。
滝森 静は可憐な聖人ではなく、非道な極悪人である可能性があるのかもしれない。



