【試用】信用スコア政策

 霞んだ視界の中、僕はボーッとしながら目の前の黒板に目を向けていた。

 始業前のため、先生はおらず、女子生徒がチョークを使って黒板に絵を描いている。彼女らの楽しいやりとりを目にしつつ、意識は別の方へといっていた。

 一体、ヒカルはどこに行ってしまったのだろうか?

 昨日のヒカル失踪から僕の頭の中はその事だけに囚われていた。おかげで、全く寝付くことはできず、視界は霞み、瞼は重い状態が続いている。

 今までヒカルが段ボールから出て、どこかへ行ってしまったという事は一度も経験がなかった。もしかすると、僕がいないタイミングでお出かけ程度に散歩して、留守になるという状況があったのかもしれない。たまたま僕がその時に遭わなかっただけで十分にあり得ることだ。

 だが、今朝の登校前に河川敷に行ってみたが、やはりヒカルの姿はなかった。

「新田くん、おはよう」

 ボーッとしていると、誰かが僕に挨拶をしてくれる。彼女の僕を呼ぶ声に反応して、顔は無意識に彼女へと向く。

「おはよう、滝森さん」

 滝森さんはいつものように笑顔で僕の方を見ていた。

「昨日はありがとうね。別れる際に言えなかったと思うから。ごめんね、ぶっきらぼうな別れ方になって」

 昨日のハロウィンパーティが終わった後、僕と滝森さんは一緒に電車に乗っていた。滝森さんは鬼頭の言葉にひどくショックを受けており、帰りの僕たちの会話はほぼ皆無だった。

 別れ際も、滝森さんは自分の家の最寄り駅に着いたのに気がつかず、僕が唆すことで降車した。時間がなかったため、その際は「さよなら」の挨拶程度だったと思う。

「うんうん、気にしてない。滝森さん、その、大丈夫?」

「……そうだね。昨日よりは少し楽になったと思う。新田くんも大丈夫? 目に隈ができているけど」

 滝森さんに言われ、ハッとする。寝不足の影響が身体にも出てしまっているみたいだ。

「ちょっと、ソシャゲで昨日までに終わるクエストを周回していたら、寝る時間が遅くなっちゃったんだ」

 目を擦り、照れたように彼女に言った。ここで『ヒカルが失踪した』なんてことを言って、滝森さんの不安をさらに募らせるようなことを言うのは得策ではない。

 もしかすると、今日の授業後には戻ってきている可能性もまだ否定できない。

「そうだったんだ。前にアミューズメントパークで遊んでいた時も熱中してたもんね。今日はその分、ゆっくり休まないとだね」

「うん、そうしようと思う。流石にこの状況じゃ、何もできそうにないから」

 和やかに話す僕と滝森さん。彼女に声をかけられたことで元気が出てきた。

「静、おっはよー」

 すると、後ろから勢いよく鬼頭が滝森さんへと抱いてきた。滝森さんは最初は驚いたものの鬼頭であることを知ると穏やかに微笑んだ。

「おはよう、恵」

「おはよう! ついでに、新田もおはよう」

「相変わらず、僕はついでなんだな」

「まあ、新田だからね」

『僕だから』という理由では、もうどうにもならなさそうだ。

「昨日はありがとう。おかげで大盛況だったよ。『お疲れ様会』を再来週以降の休日のどこかで開きたいと思ってるんだけど、二人の予定は大丈夫そう?」

「うん、私は大丈夫」

「僕も」

「よっしゃ! じゃあ、具体的な日程は燈や肇も含めてグループチャットで決めようと思うからよろしくね」

 そういうと、鬼頭は滝森さんから離れ、自分の席の方へと走っていった。ちょうど、そのタイミングで朝のホームルームを告げるチャイムが鳴った。滝森さんももう一度僕に挨拶すると自分の席へと歩いていく。

 僕は再び前を向いた。二人とのやり取りで眠気は覚めかけたのだが、一人になると隙を見つけたかのようにやってくる。反動で思わず、欠伸が出てしまった。

 ひとまず、今は学業に専念しよう。気持ちを新たにして、僕はホームルームに臨んだ。