ハロウィンパーティの当日となった。
場所は町内の集会所の一室を貸し切って行うこととなった。僕たち運営側は先に会場入りをし、装飾物の準備を行っていた。
僕は袋の中から自分たちが作ったハロウィン用の装飾を取り出し、壁に貼っていく。事前にどのように貼るかを紙に明記していたので、それを参考にした。大部分が完成しており、後もうひと踏ん張りというところだった。
それにしても……
僕は装飾しながらも、自分の衣装をマジマジと見つめていた。黒色の布で全体を覆われ、つけられたフードはかけることなく、ぶら下がっている。 足元が女番長のようにロングスカート状となっているので、僕としてはいつもよりも歩きにくい。
ハロウィンパーティまでまだ時間はあるが、テンションの上がった鬼頭と諏訪さんは待ちきれず、各々衣装に着替えてしまった。それの巻き添えで僕と庄司も衣装を着ることになってしまったのだが、着なければ良かったと後悔した。
「私は、キョンシーだ!」
後ろから諏訪さんの声が聞こえる。見るとキョンシーの衣装を着た彼女は、両手を前に出し、足をくっつけた状態で両足飛びで前へと進む。彼女なりに役になりきってはいるが、笑顔微笑ましい表情のため、恐怖はあまり抱かない。手に付けられた包帯はすっかりとなくなっていた。
「出たな、キョンシー。これでもくらえ」
諏訪さんの向かった先には鬼頭の姿があった。ポリスの衣装を着ており、半袖、ミニタイトスカートと10月下旬のこの時期には寒そうな衣装ではあるが、本人の心の厚さ故か寒そうな感じは一切しない。
鬼頭は向かいくるキョンシーに拳銃を向ける。当然ながら弾は入っていないので「バン、バン」と鬼頭自身の声で発砲している様子を表現していた。諏訪さんは発砲されても、攻撃を受けた様子は見せず、両足飛びで前へと進む。
「くそっ。なら、これでどうだ!」
そう言って、鬼頭はポケットの中から何かを取り出す。出てきたのは黄色のお札だった。お札を一枚握りしめ、近づいてくる諏訪さんに向かって走る。ミニタイトスカートのせいで、走りにくそうな様子である。
お札を諏訪さんのデコにつけると、彼女の動きが止まった。
「勝ち取ったり」
鬼頭は銃口を上へと向けるとキリッとした表情で言った。声を低めにして、大人っぽい女性の声を出す。お札を貼っただけで銃はほとんど意味をなしてはいなかったと思うが。
彼女たちの様子に対し、「微笑ましい気持ち」と「仕事をしてほしい気持ち」の相反する二つの感情が湧く。なんとも言えない表情で見ていると不意に視界が真っ暗になった。
「だーれだ?」
「庄司、それは手で覆ってやるものだよ。僕のフードをうまく利用しないで」
かけられたフードを取り、後ろへと目をやると笑顔を浮かべる庄司の姿があった。
「不正解。正解は『ドラキュラ』でした」
庄司は後ろにつけたマントを前へとやり、両腕を右方向に寄せて、格好よく一礼をする。彼のドラキュラの衣装は男の僕でも目を惹かれるほどのものだった。
僕は庄司の答えに対し、ジト目で彼を見た。その解答は、いくら何でも納得がいかない。
「うそうそ。そう怒るなって。もうすぐハロウィンパーティ何だし、楽しく行こうぜ」
「もちろん、そのつもりだけど……」
「滝森のことが心配か?」
僕は彼の言葉で心臓を張りで突かれたような感覚に襲われる。
滝森さんは、いまだハロウィンパーティに姿を見せていない。
昨夜、二人で鬼頭家まで行くことを約束し、昼の13時に僕の家で待ち合わせることにした。だが、『急用ができた』と約束時間の前に連絡があり、現地集合という形になった。そして、16時45分となった今もなお、滝森さんは姿を見せていない。17時受付開始のため、残る時間は15分。
「間に合うって連絡は来てるんだろ。なら、心配ないって。滝森のことだから、トチるみたいなことはないだろうし」
「うん、それは分かっている」
トチることはない。面倒くさがって休むことを滝森さんがするはずはない。だが、彼女の心の弱さゆえに会場に来れないということは十分にあり得る。
彼女にとって、今日はハロウィンパーティだけが目的ではない。それが終わった後、彼女だけに特別なイベントがある。今後の彼女の人生に影響するかもしれないのだ。怖気付いてしまう可能性は否定できない。
滝森さんを心配すると、それを裏切るかのようにスリッパで地面を蹴る音が聞こえてくる。全員がその音に反応し、扉の方へと目を向けていると勢いよく扉が空いた。
「はあ、はあ。ごめん、お待たせ……」
滝森さんは扉を開けて、中へ入ると疲れたように両腿に手をやり、顔を俯ける。呼吸を落ち着けたところで前へと向いた。
Tシャツ姿にジーパンと動きやすい格好をしており、寒さ対策にチェック柄の薄着を羽織っていた。前が空いていたため白色のTシャツがあらわになっている。
本当に急いでいたようで額から汗が流れているのが窺える。
「静ー、待ってたよ」
鬼頭は滝森さんが姿を見せると、勢いつけて彼女へと抱きついた。
「ごめんね、お待たせして」
「全然。来てくれただけでありがたい。はー、静の匂いは癒されるわ」
「今は、汗臭いかもだけど……」
「そこも含めて癒されるのよ。そうそう。時間がないから、早く衣装に着替えよ」
鬼頭は滝森さんからはなれると、自分の荷物の元へと歩いて行った。
「滝森さん」
そのタイミングで今度は僕が声を掛ける。滝森さんは僕の方を向くと、申し訳なさそうにこちらを見た。
「今朝はごめんね。急に一緒に行けなくなって」
「うんうん、全く気にしてない。会に間に合ってよかったよ。用は大丈夫だった?」
「うん……一応、何とか。ごめんね、迷惑かけちゃって」
何だか様子がおかしいが、やっぱり緊張しているのだろうか。ここは僕が勇気づけてあげなければ。
「滝森さん、大丈夫だから」
僕の言葉に彼女は瞳を大きくする。そして、穏やかな表情でこちらに微笑みかけた。
「はーい、仲良くしているところ悪いのだけど、これから静はお着替えタイムに入るので、男子のお近づきは禁止になります。まもなく会が始まるので、新田は受付の準備をお願いしまーす」
僕と滝森さんの間を割くように鬼頭が割り込む。彼女は僕の方を向いて、受付用紙とペンを差し出した。人の気持ちも知らないでと思いつつも、鬼頭から紙とペンをいただく。鬼頭は滝森さんの肩を持つと、二人で部屋を後にした。何が何でも、自分が最初に滝森さんの衣装姿を見たいようだ。作っている最中に事前に見ていると思うのだが、未完成品だったから不満だったのだろうか。
その点、僕はまだ彼女の衣装姿を見れていない。この時間だと、着替えてやってきたとしても、すでに会は始まり、感想を言える時間はなさそうだ。
『ゆっくり見てみたかった』という願望をため息とともに捨て、受付の仕事に専念しようと扉前の椅子に腰を掛けた。
場所は町内の集会所の一室を貸し切って行うこととなった。僕たち運営側は先に会場入りをし、装飾物の準備を行っていた。
僕は袋の中から自分たちが作ったハロウィン用の装飾を取り出し、壁に貼っていく。事前にどのように貼るかを紙に明記していたので、それを参考にした。大部分が完成しており、後もうひと踏ん張りというところだった。
それにしても……
僕は装飾しながらも、自分の衣装をマジマジと見つめていた。黒色の布で全体を覆われ、つけられたフードはかけることなく、ぶら下がっている。 足元が女番長のようにロングスカート状となっているので、僕としてはいつもよりも歩きにくい。
ハロウィンパーティまでまだ時間はあるが、テンションの上がった鬼頭と諏訪さんは待ちきれず、各々衣装に着替えてしまった。それの巻き添えで僕と庄司も衣装を着ることになってしまったのだが、着なければ良かったと後悔した。
「私は、キョンシーだ!」
後ろから諏訪さんの声が聞こえる。見るとキョンシーの衣装を着た彼女は、両手を前に出し、足をくっつけた状態で両足飛びで前へと進む。彼女なりに役になりきってはいるが、笑顔微笑ましい表情のため、恐怖はあまり抱かない。手に付けられた包帯はすっかりとなくなっていた。
「出たな、キョンシー。これでもくらえ」
諏訪さんの向かった先には鬼頭の姿があった。ポリスの衣装を着ており、半袖、ミニタイトスカートと10月下旬のこの時期には寒そうな衣装ではあるが、本人の心の厚さ故か寒そうな感じは一切しない。
鬼頭は向かいくるキョンシーに拳銃を向ける。当然ながら弾は入っていないので「バン、バン」と鬼頭自身の声で発砲している様子を表現していた。諏訪さんは発砲されても、攻撃を受けた様子は見せず、両足飛びで前へと進む。
「くそっ。なら、これでどうだ!」
そう言って、鬼頭はポケットの中から何かを取り出す。出てきたのは黄色のお札だった。お札を一枚握りしめ、近づいてくる諏訪さんに向かって走る。ミニタイトスカートのせいで、走りにくそうな様子である。
お札を諏訪さんのデコにつけると、彼女の動きが止まった。
「勝ち取ったり」
鬼頭は銃口を上へと向けるとキリッとした表情で言った。声を低めにして、大人っぽい女性の声を出す。お札を貼っただけで銃はほとんど意味をなしてはいなかったと思うが。
彼女たちの様子に対し、「微笑ましい気持ち」と「仕事をしてほしい気持ち」の相反する二つの感情が湧く。なんとも言えない表情で見ていると不意に視界が真っ暗になった。
「だーれだ?」
「庄司、それは手で覆ってやるものだよ。僕のフードをうまく利用しないで」
かけられたフードを取り、後ろへと目をやると笑顔を浮かべる庄司の姿があった。
「不正解。正解は『ドラキュラ』でした」
庄司は後ろにつけたマントを前へとやり、両腕を右方向に寄せて、格好よく一礼をする。彼のドラキュラの衣装は男の僕でも目を惹かれるほどのものだった。
僕は庄司の答えに対し、ジト目で彼を見た。その解答は、いくら何でも納得がいかない。
「うそうそ。そう怒るなって。もうすぐハロウィンパーティ何だし、楽しく行こうぜ」
「もちろん、そのつもりだけど……」
「滝森のことが心配か?」
僕は彼の言葉で心臓を張りで突かれたような感覚に襲われる。
滝森さんは、いまだハロウィンパーティに姿を見せていない。
昨夜、二人で鬼頭家まで行くことを約束し、昼の13時に僕の家で待ち合わせることにした。だが、『急用ができた』と約束時間の前に連絡があり、現地集合という形になった。そして、16時45分となった今もなお、滝森さんは姿を見せていない。17時受付開始のため、残る時間は15分。
「間に合うって連絡は来てるんだろ。なら、心配ないって。滝森のことだから、トチるみたいなことはないだろうし」
「うん、それは分かっている」
トチることはない。面倒くさがって休むことを滝森さんがするはずはない。だが、彼女の心の弱さゆえに会場に来れないということは十分にあり得る。
彼女にとって、今日はハロウィンパーティだけが目的ではない。それが終わった後、彼女だけに特別なイベントがある。今後の彼女の人生に影響するかもしれないのだ。怖気付いてしまう可能性は否定できない。
滝森さんを心配すると、それを裏切るかのようにスリッパで地面を蹴る音が聞こえてくる。全員がその音に反応し、扉の方へと目を向けていると勢いよく扉が空いた。
「はあ、はあ。ごめん、お待たせ……」
滝森さんは扉を開けて、中へ入ると疲れたように両腿に手をやり、顔を俯ける。呼吸を落ち着けたところで前へと向いた。
Tシャツ姿にジーパンと動きやすい格好をしており、寒さ対策にチェック柄の薄着を羽織っていた。前が空いていたため白色のTシャツがあらわになっている。
本当に急いでいたようで額から汗が流れているのが窺える。
「静ー、待ってたよ」
鬼頭は滝森さんが姿を見せると、勢いつけて彼女へと抱きついた。
「ごめんね、お待たせして」
「全然。来てくれただけでありがたい。はー、静の匂いは癒されるわ」
「今は、汗臭いかもだけど……」
「そこも含めて癒されるのよ。そうそう。時間がないから、早く衣装に着替えよ」
鬼頭は滝森さんからはなれると、自分の荷物の元へと歩いて行った。
「滝森さん」
そのタイミングで今度は僕が声を掛ける。滝森さんは僕の方を向くと、申し訳なさそうにこちらを見た。
「今朝はごめんね。急に一緒に行けなくなって」
「うんうん、全く気にしてない。会に間に合ってよかったよ。用は大丈夫だった?」
「うん……一応、何とか。ごめんね、迷惑かけちゃって」
何だか様子がおかしいが、やっぱり緊張しているのだろうか。ここは僕が勇気づけてあげなければ。
「滝森さん、大丈夫だから」
僕の言葉に彼女は瞳を大きくする。そして、穏やかな表情でこちらに微笑みかけた。
「はーい、仲良くしているところ悪いのだけど、これから静はお着替えタイムに入るので、男子のお近づきは禁止になります。まもなく会が始まるので、新田は受付の準備をお願いしまーす」
僕と滝森さんの間を割くように鬼頭が割り込む。彼女は僕の方を向いて、受付用紙とペンを差し出した。人の気持ちも知らないでと思いつつも、鬼頭から紙とペンをいただく。鬼頭は滝森さんの肩を持つと、二人で部屋を後にした。何が何でも、自分が最初に滝森さんの衣装姿を見たいようだ。作っている最中に事前に見ていると思うのだが、未完成品だったから不満だったのだろうか。
その点、僕はまだ彼女の衣装姿を見れていない。この時間だと、着替えてやってきたとしても、すでに会は始まり、感想を言える時間はなさそうだ。
『ゆっくり見てみたかった』という願望をため息とともに捨て、受付の仕事に専念しようと扉前の椅子に腰を掛けた。



