「ここでちょっと待っててもらっていい?」
「うん、ごめんね。いきなり押しかける形になっちゃって」
「気にしないで。じゃあ……」
僕は玄関の扉を開き、自宅へと入った。そう、自宅へと入った。
僕と滝森さんは今、二人で僕の家へとやってきたのだ。
玄関を閉め、彼女の姿が見えなくなったところで大きく息を吸った。
まさかこんなことになるなんて夢にも思っていなかった。本当に夢ではないのかと思い、頬を引っ張ってみるが、痛いだけである。間違いなく現実で起きていることだった。
今日、僕の両親は家にいない。父親はいつものごとく仕事で出かけている。そして、母親も今週のシフトに土曜日出勤が含まれていたため家にはいない。帰ってくる時間は夜の八時くらいだろう。
つまり、それまでの時間、僕と滝森さんの二人しかこの家にはいない。
心臓を押さえると高鳴りっぱなしの鼓動音が響いてくる。滝森さんから提案をいただいてからずっとこの調子だ。河川敷から僕の家まで歩いている時の記憶は全くない。何か彼女に変なことを言っていないか心配になるが、先ほどの様子から大丈夫であろうと思う。
だが、まだ安心してはいけない。この先、何が起こるのか全く分からないからだ。
あくまで滝森さんの勉強を教える。ただそれだけだ。それだけのはずで他意はないはずだ。でも、わざわざそれだけのために男子の家に来るのだろうか。変な妄想が頭の中で繰り返される。
こういう時、何をするべきか全く分からない。なんせ恋愛経験なんて皆無なのだ。
やましいものは隠しておいた方がいいだろう。いや、下手に隠すのも変だろうか。何かの拍子でありもしないところから出てきてしまった場合、滝森さんを困らせたりしないだろうか。それなら、いっそ今ある位置に置いていた方が、違和感はないだろう。しかし、その場合、見つかる確率は高くなる。
いやいや、こんなことを考えてどうする。今日は勉強を教える。それ以外に他意はない。
気持ちの整理をつけたところで、靴を脱いでリビング、自分の部屋へと赴いた。気になるようなものがないか実際にチェックだけはしておく。こういう時、罠となるのは『主観的に見てしまうこと』だ。自分としては、何も思わないことでも他人は気にするということがある。それ故に、如何に客観的に見れるかが大事だ。
チェックを終え、大丈夫であることを確認すると、急いで玄関へと戻る。最初の心の整理で時間を無駄にかけてしまったため、全く出てこない僕を変に思わないかが不安だった。
ドアノブに手をかけ、ゆっくりと扉を開けた。
「ごめんね。色々とドタバタさせちゃったみたいで」
滝森さんは笑顔ながらも困った表情をみせる。指で頬を搔き、額からは汗が流れている。
自分に気を取られているあまり、滝森さんの様子を考慮できていなかった。階段や部屋を激しく動き回る音が彼女に聞こえていたのだろう。変な気を使わせてしまったと反省しているのか。
「いや、そんなことは全く。どうぞ、汚い家ですが」
「お邪魔します」
滝森さんは僕がかけていたドアノブに自分の手をかけた。それを合図に、僕はかけた手を外すと玄関を飛び越え、廊下に足をついた。
滝森さんは玄関をゆっくり閉めると靴を脱ぎ、廊下に足をつく。一旦、後ろを振り返り脱いだ靴を揃えて半回転させ、つま先が玄関に向くように整えた。一つ一つの動作が丁寧で彼女の几帳面さが垣間見える。
「こ、こちらへ」
僕はリビングの方に手を向けるとそのまま歩き出す。世の男子は女子を自宅に招き入れる時、どのように行動しているのだろうか。今、ものすごくネットで検索したい気持ちに駆られた。
キッチン、ダイニングを過ぎ、リビングへと足を運んでいく。ぎこちなくも後ろにいる滝森さんの様子を見つつ、彼女がちゃんとついてきているか確認する。滝森さんは僕の後についてきながらも顔を四方八方に動かし、内装に目を輝かせていた。
「綺麗な家だね。床も壁も汚れや傷も一切ない。物の整理整頓もされている。今日、ご両親は? かなり静かだったけど。何か仕事に集中しているとかあったりする?」
「母も父も今日は仕事でお出かけ。だから今日は僕一人なんだ」
「そ、そうなんだ。じゃあ、二人っきりなんだね」
滝森さんは少し頬を赤らめる。彼女に釣られるように僕も体が熱くなるのを感じた。そんな照れた表情をされたら、何か起こると錯覚してしまう。今日は勉強を一緒にやるだけだ。落ち着け、僕。
「えっと、リビングか僕の部屋。どっちでやろうか。僕の部屋には、テーブルがないからリビングの方がやりやすいとは思う」
「じゃあ、リビングにしよっか。ご両親は何時ごろ帰ってくる予定なの?」
「二人とも八時くらいかな。だから、気にしなくて大丈夫だよ」
「二人とも大変そうだね。いつもその時間まで新田くんは一人なの?」
「母親の仕事のシフトが不規則だから、たまにある感じかな。それがどうかしたの?」
「うんうん、聞いただけ。もうすぐ昼時だから、昼食から先に取らない?」
滝森さんは当たり障りのない返答をすると、話題を逸らした。もしかして、これから自宅に僕しかいない場合は勉強にくるのを期待してしまったが、滝森さんの本心は分かることはできなかった。
「そうしようか。お昼は用意してある?」
「うん、さっき買い物でパン買ったから」
勉強前にまずは腹ごしらえから。僕と滝森さんはテーブルでお話ししながら、お昼を済ませることにした。
「うん、ごめんね。いきなり押しかける形になっちゃって」
「気にしないで。じゃあ……」
僕は玄関の扉を開き、自宅へと入った。そう、自宅へと入った。
僕と滝森さんは今、二人で僕の家へとやってきたのだ。
玄関を閉め、彼女の姿が見えなくなったところで大きく息を吸った。
まさかこんなことになるなんて夢にも思っていなかった。本当に夢ではないのかと思い、頬を引っ張ってみるが、痛いだけである。間違いなく現実で起きていることだった。
今日、僕の両親は家にいない。父親はいつものごとく仕事で出かけている。そして、母親も今週のシフトに土曜日出勤が含まれていたため家にはいない。帰ってくる時間は夜の八時くらいだろう。
つまり、それまでの時間、僕と滝森さんの二人しかこの家にはいない。
心臓を押さえると高鳴りっぱなしの鼓動音が響いてくる。滝森さんから提案をいただいてからずっとこの調子だ。河川敷から僕の家まで歩いている時の記憶は全くない。何か彼女に変なことを言っていないか心配になるが、先ほどの様子から大丈夫であろうと思う。
だが、まだ安心してはいけない。この先、何が起こるのか全く分からないからだ。
あくまで滝森さんの勉強を教える。ただそれだけだ。それだけのはずで他意はないはずだ。でも、わざわざそれだけのために男子の家に来るのだろうか。変な妄想が頭の中で繰り返される。
こういう時、何をするべきか全く分からない。なんせ恋愛経験なんて皆無なのだ。
やましいものは隠しておいた方がいいだろう。いや、下手に隠すのも変だろうか。何かの拍子でありもしないところから出てきてしまった場合、滝森さんを困らせたりしないだろうか。それなら、いっそ今ある位置に置いていた方が、違和感はないだろう。しかし、その場合、見つかる確率は高くなる。
いやいや、こんなことを考えてどうする。今日は勉強を教える。それ以外に他意はない。
気持ちの整理をつけたところで、靴を脱いでリビング、自分の部屋へと赴いた。気になるようなものがないか実際にチェックだけはしておく。こういう時、罠となるのは『主観的に見てしまうこと』だ。自分としては、何も思わないことでも他人は気にするということがある。それ故に、如何に客観的に見れるかが大事だ。
チェックを終え、大丈夫であることを確認すると、急いで玄関へと戻る。最初の心の整理で時間を無駄にかけてしまったため、全く出てこない僕を変に思わないかが不安だった。
ドアノブに手をかけ、ゆっくりと扉を開けた。
「ごめんね。色々とドタバタさせちゃったみたいで」
滝森さんは笑顔ながらも困った表情をみせる。指で頬を搔き、額からは汗が流れている。
自分に気を取られているあまり、滝森さんの様子を考慮できていなかった。階段や部屋を激しく動き回る音が彼女に聞こえていたのだろう。変な気を使わせてしまったと反省しているのか。
「いや、そんなことは全く。どうぞ、汚い家ですが」
「お邪魔します」
滝森さんは僕がかけていたドアノブに自分の手をかけた。それを合図に、僕はかけた手を外すと玄関を飛び越え、廊下に足をついた。
滝森さんは玄関をゆっくり閉めると靴を脱ぎ、廊下に足をつく。一旦、後ろを振り返り脱いだ靴を揃えて半回転させ、つま先が玄関に向くように整えた。一つ一つの動作が丁寧で彼女の几帳面さが垣間見える。
「こ、こちらへ」
僕はリビングの方に手を向けるとそのまま歩き出す。世の男子は女子を自宅に招き入れる時、どのように行動しているのだろうか。今、ものすごくネットで検索したい気持ちに駆られた。
キッチン、ダイニングを過ぎ、リビングへと足を運んでいく。ぎこちなくも後ろにいる滝森さんの様子を見つつ、彼女がちゃんとついてきているか確認する。滝森さんは僕の後についてきながらも顔を四方八方に動かし、内装に目を輝かせていた。
「綺麗な家だね。床も壁も汚れや傷も一切ない。物の整理整頓もされている。今日、ご両親は? かなり静かだったけど。何か仕事に集中しているとかあったりする?」
「母も父も今日は仕事でお出かけ。だから今日は僕一人なんだ」
「そ、そうなんだ。じゃあ、二人っきりなんだね」
滝森さんは少し頬を赤らめる。彼女に釣られるように僕も体が熱くなるのを感じた。そんな照れた表情をされたら、何か起こると錯覚してしまう。今日は勉強を一緒にやるだけだ。落ち着け、僕。
「えっと、リビングか僕の部屋。どっちでやろうか。僕の部屋には、テーブルがないからリビングの方がやりやすいとは思う」
「じゃあ、リビングにしよっか。ご両親は何時ごろ帰ってくる予定なの?」
「二人とも八時くらいかな。だから、気にしなくて大丈夫だよ」
「二人とも大変そうだね。いつもその時間まで新田くんは一人なの?」
「母親の仕事のシフトが不規則だから、たまにある感じかな。それがどうかしたの?」
「うんうん、聞いただけ。もうすぐ昼時だから、昼食から先に取らない?」
滝森さんは当たり障りのない返答をすると、話題を逸らした。もしかして、これから自宅に僕しかいない場合は勉強にくるのを期待してしまったが、滝森さんの本心は分かることはできなかった。
「そうしようか。お昼は用意してある?」
「うん、さっき買い物でパン買ったから」
勉強前にまずは腹ごしらえから。僕と滝森さんはテーブルでお話ししながら、お昼を済ませることにした。



