アミューズメントパークを楽しんだ僕らは帰りの電車に乗っていた。
僕は角っこの椅子にもたれかかり、その横に滝森さん、鬼頭と並んでいる。向かいには諏訪さんと磯貝が座り、庄司のみは僕たちの間で立つ形となっていた。
「今日は急なお願いに付き合ってくれて助かったよ。ありがとうね、新田くん」
「うんうん、僕も楽しかったから。もし、良かったらまた誘ってもらってもいいかな?」
「是非っ! いいよね、肇くん?」
「別に俺に聞かなくても。新田が良ければ、大歓迎さ」
滝森さんも庄司も歓迎してくれる様子だった。高校一年の頃は独り身、高校二年ではいじめのターゲットという名目でグループに所属していたため、こうして自分の意思でグループに所属したいと思ったのは、高校生活で初めてのことだった。
それもこれも全て滝森さんのおかげだろう。
「それにしても、みんな寝ちゃったね」
僕は電車内を見回して言う。鬼頭は横にいる滝森さんの肩に頭を乗せて眠っていた。向かいに座っている磯貝、諏訪さんもぐっすりと眠ってしまっている。
「いっぱい遊んだからね。テストの疲れもあっただろうし、仕方がないことだよ」
「滝森さんはまだ元気そうだね」
「こう見えても、体力には自信があるからね」
滝森さんは誇らしげな態度をとる。ぬいぐるみを両手に抱えながらの様子は、普段の彼女と違い、幼稚で可愛らしかった。
「庄司は座らなくて大丈夫なの?」
僕は前にいる庄司に顔を向けた。電車の席にはまだまだ余裕がある。それなのに、どこに座ることもなく、立ち続けている彼に疑問を抱いた。
「気遣いありがとう。でも、座ったら俺も寝ちゃいそうだから立ったままの状態にしているんだ。みんな寝ちゃって、気づいたら終電なんて嫌だろ?」
「それもそうだね。でも、滝森さんは元気そうだし、疲れたなら寝てもいいんじゃないかな? ね、滝森さ……」
僕は彼女の方へと顔を向けた。すると、彼女は自分の持つぬいぐるみに顔を預けていた。微かながらも寝息を立てているため、完全に寝てしまっている様子だ。目を逸らした瞬間に寝てしまうとは、滝森さんも相当お疲れだったのだろう。
「だろっ?」
庄司は眠る滝森さんを見て、優しい笑みを僕に零す。彼にはこうなる結末が見えていたみたいだ。
「さっきまで、あんなに元気だったのに、無理してたのかな?」
「そりゃ、学校の授業にバイトに武術の稽古、それで入試勉強とテスト勉強、やること尽くしで毎日へとへとになるまで頑張っているからな」
「武術の稽古?」
「そっか、新田は知らないんだっけか。ゲームセンターでのパンチ力見ただろ? 静、武術の稽古してるんだ。柔道、空手、剣道、加えてボクシング、護身術なんかもやっているんだってよ」
滝森さんは武術を嗜んでいたのか。それであれば、パンチングマシンでの気迫や拳の打ち方にも納得がいく。バイトをしているのも稽古にかかる費用とかのためでもあるのだろう。
「でも、どうして武術を?」
「将来の夢は、警察官なんだって。それで学生のうちにできる限りのことはしたいようで体力づくり、勉学ともに力を入れているみたいだ」
滝森さんは、もう自分の進路を確立しているのか。特に何も決まっていなくて、選択肢だけは増やしておこうと勉学に励んでいた僕とは違う。きちんと目標を立てて、それに必要なものを考え、実行している。そんな彼女に畏敬の念を抱いた。
「それでいて、俺たちの遊びにもちゃんと付き合ってくれるんだから。すごいよ、本当に」
きっと庄司も僕と同じ気持ちを抱いているのだろう。
「俺が言うのはお門違いかもしれないが、新田、滝森のことよろしくな」
「僕が?」
「さっきも見た通り、静は無理しやすい性格なんだ。俺がこうして立っているのも、先導してあげないと滝森は自分がみんなを起こす役を担おうとしちゃうからなんだ。きっと自分が一番眠いであろうはずなのに」
「滝森さんらしいといえば、滝森さんらしいのかもね」
「ああ。ただ、可愛い女の子に気を使わせてしまっているってのは、男として居た堪れないだろ?」
「間違いない」
「恵から聞いてはいるんだけど、静のやつ、新田には色々と頼っている面があるんだろ、勉学のこととか」
「勉学だけだけどね」
あとは信用スコアの特別割りとかもか。ただ、それは僕が提案したことによるものなので、ノーカウントに近い。
「それでも、新田に頼っている事実に変わりはない。普段は気遣いの静が、新田には頼るところを見せてるんだ。きっと信用されているんだよ。だから、静のことよろしく頼む」
まさか庄司から、こんなお願いをされるとは思ってもみなかった。僕はゆっくりと滝森さんの方を見入った。
きめ細やかな白い肌。首を傾けていることで髪の間からうなじが垣間見える。間近で見る無防備な姿に思わず、息を飲んだ。彼女がこんな姿を見せるのも僕が信用されているからなのだろうか。
「僕で良ければ、できる限りを尽くそうと思うよ」
「ありがとうな、新田。そういえば、お前は疲れていないのか。せっかく座ってるんだ。寝ても構わないぜ」
「実は言うと、今、結構緊張していて寝られる感じではないんだよね?」
また滝森さんと肩が触れる位置に座っているのだ。アミューズメントパークでの出来事が想起され、鼓動が高鳴っており、すっかりと覚醒状態にある。
それにもし、この状態で寝てしまった場合、寝相で滝森さんに失礼なことをしかねないかもしれない。僕もまた彼女の肩に頭を乗せてしまったりとか。
「なんだそれ、変なやつ」
庄司は僕の言葉にはにかんだ。
起きている僕らはもう少し談笑をした。みんなの中で僕の降りる駅が最初だったため、庄司とだけ挨拶を交わし、電車を後にした。
電車を降りて、改札を降りると一件の通知が来ていた。滝森さんからのメッセージだ。
『寝ちゃってて、挨拶できなくて、ごめんね。今日は楽しかった。お願い聞いてくれてありがとう。また、みんなで遊びに行こうね』
急いでメッセージを送ってくれた滝森さんに頬が緩む。今日は本当に楽しい一日だった。
高校二年の秋、僕は今年度で一番の幸福を味わった気がした。きっと、これからも味わい続けられる幸福に胸をときめかせた。
僕は角っこの椅子にもたれかかり、その横に滝森さん、鬼頭と並んでいる。向かいには諏訪さんと磯貝が座り、庄司のみは僕たちの間で立つ形となっていた。
「今日は急なお願いに付き合ってくれて助かったよ。ありがとうね、新田くん」
「うんうん、僕も楽しかったから。もし、良かったらまた誘ってもらってもいいかな?」
「是非っ! いいよね、肇くん?」
「別に俺に聞かなくても。新田が良ければ、大歓迎さ」
滝森さんも庄司も歓迎してくれる様子だった。高校一年の頃は独り身、高校二年ではいじめのターゲットという名目でグループに所属していたため、こうして自分の意思でグループに所属したいと思ったのは、高校生活で初めてのことだった。
それもこれも全て滝森さんのおかげだろう。
「それにしても、みんな寝ちゃったね」
僕は電車内を見回して言う。鬼頭は横にいる滝森さんの肩に頭を乗せて眠っていた。向かいに座っている磯貝、諏訪さんもぐっすりと眠ってしまっている。
「いっぱい遊んだからね。テストの疲れもあっただろうし、仕方がないことだよ」
「滝森さんはまだ元気そうだね」
「こう見えても、体力には自信があるからね」
滝森さんは誇らしげな態度をとる。ぬいぐるみを両手に抱えながらの様子は、普段の彼女と違い、幼稚で可愛らしかった。
「庄司は座らなくて大丈夫なの?」
僕は前にいる庄司に顔を向けた。電車の席にはまだまだ余裕がある。それなのに、どこに座ることもなく、立ち続けている彼に疑問を抱いた。
「気遣いありがとう。でも、座ったら俺も寝ちゃいそうだから立ったままの状態にしているんだ。みんな寝ちゃって、気づいたら終電なんて嫌だろ?」
「それもそうだね。でも、滝森さんは元気そうだし、疲れたなら寝てもいいんじゃないかな? ね、滝森さ……」
僕は彼女の方へと顔を向けた。すると、彼女は自分の持つぬいぐるみに顔を預けていた。微かながらも寝息を立てているため、完全に寝てしまっている様子だ。目を逸らした瞬間に寝てしまうとは、滝森さんも相当お疲れだったのだろう。
「だろっ?」
庄司は眠る滝森さんを見て、優しい笑みを僕に零す。彼にはこうなる結末が見えていたみたいだ。
「さっきまで、あんなに元気だったのに、無理してたのかな?」
「そりゃ、学校の授業にバイトに武術の稽古、それで入試勉強とテスト勉強、やること尽くしで毎日へとへとになるまで頑張っているからな」
「武術の稽古?」
「そっか、新田は知らないんだっけか。ゲームセンターでのパンチ力見ただろ? 静、武術の稽古してるんだ。柔道、空手、剣道、加えてボクシング、護身術なんかもやっているんだってよ」
滝森さんは武術を嗜んでいたのか。それであれば、パンチングマシンでの気迫や拳の打ち方にも納得がいく。バイトをしているのも稽古にかかる費用とかのためでもあるのだろう。
「でも、どうして武術を?」
「将来の夢は、警察官なんだって。それで学生のうちにできる限りのことはしたいようで体力づくり、勉学ともに力を入れているみたいだ」
滝森さんは、もう自分の進路を確立しているのか。特に何も決まっていなくて、選択肢だけは増やしておこうと勉学に励んでいた僕とは違う。きちんと目標を立てて、それに必要なものを考え、実行している。そんな彼女に畏敬の念を抱いた。
「それでいて、俺たちの遊びにもちゃんと付き合ってくれるんだから。すごいよ、本当に」
きっと庄司も僕と同じ気持ちを抱いているのだろう。
「俺が言うのはお門違いかもしれないが、新田、滝森のことよろしくな」
「僕が?」
「さっきも見た通り、静は無理しやすい性格なんだ。俺がこうして立っているのも、先導してあげないと滝森は自分がみんなを起こす役を担おうとしちゃうからなんだ。きっと自分が一番眠いであろうはずなのに」
「滝森さんらしいといえば、滝森さんらしいのかもね」
「ああ。ただ、可愛い女の子に気を使わせてしまっているってのは、男として居た堪れないだろ?」
「間違いない」
「恵から聞いてはいるんだけど、静のやつ、新田には色々と頼っている面があるんだろ、勉学のこととか」
「勉学だけだけどね」
あとは信用スコアの特別割りとかもか。ただ、それは僕が提案したことによるものなので、ノーカウントに近い。
「それでも、新田に頼っている事実に変わりはない。普段は気遣いの静が、新田には頼るところを見せてるんだ。きっと信用されているんだよ。だから、静のことよろしく頼む」
まさか庄司から、こんなお願いをされるとは思ってもみなかった。僕はゆっくりと滝森さんの方を見入った。
きめ細やかな白い肌。首を傾けていることで髪の間からうなじが垣間見える。間近で見る無防備な姿に思わず、息を飲んだ。彼女がこんな姿を見せるのも僕が信用されているからなのだろうか。
「僕で良ければ、できる限りを尽くそうと思うよ」
「ありがとうな、新田。そういえば、お前は疲れていないのか。せっかく座ってるんだ。寝ても構わないぜ」
「実は言うと、今、結構緊張していて寝られる感じではないんだよね?」
また滝森さんと肩が触れる位置に座っているのだ。アミューズメントパークでの出来事が想起され、鼓動が高鳴っており、すっかりと覚醒状態にある。
それにもし、この状態で寝てしまった場合、寝相で滝森さんに失礼なことをしかねないかもしれない。僕もまた彼女の肩に頭を乗せてしまったりとか。
「なんだそれ、変なやつ」
庄司は僕の言葉にはにかんだ。
起きている僕らはもう少し談笑をした。みんなの中で僕の降りる駅が最初だったため、庄司とだけ挨拶を交わし、電車を後にした。
電車を降りて、改札を降りると一件の通知が来ていた。滝森さんからのメッセージだ。
『寝ちゃってて、挨拶できなくて、ごめんね。今日は楽しかった。お願い聞いてくれてありがとう。また、みんなで遊びに行こうね』
急いでメッセージを送ってくれた滝森さんに頬が緩む。今日は本当に楽しい一日だった。
高校二年の秋、僕は今年度で一番の幸福を味わった気がした。きっと、これからも味わい続けられる幸福に胸をときめかせた。



