目の前に佇む巨大な装置。直方体の台。最奥に液晶のパネルが取り付けられている。パネルにはタイトルであろう『ソニック・バースト・ヒーロー』の文字が映し出されている。目の前には縮小版したサンドバッグが置かれている。土台部分は黒く、殴る部分は赤に染められている。赤に染められた部分には殴る目安となる二重丸が描かれていた。
鬼頭たちが久しぶりにみんなでやりたいと言っていたのは『パンチングマシーン』のことだった。
先に来ていた磯貝と庄司に合流する形で僕たちはパンチングマシーンの前に立つ。
「久しぶりにみんなで『力自慢大会』をやろうと思ってね。前よりどれだけパンチ力が上がっているか試してみよう」
鬼頭がみんなの前に立つと、サンドバッグ部分に手をかけながら話す。
「いいけど、俺、特に練習はしてないから変わらないと思うぞ」
「みんな練習してないわよ。日常生活でどれだけ鍛えられたか勝負しようよ。前回よりもどれだけ上がったかで勝負。最下位のやつは全員にジュース奢りな。前回のポイントはみんな覚えている」
鬼頭の言葉に僕以外の全員が頷く。
「新田は普通にやるって感じでいいかな。信用スコアで割り引いてもらっているしね」
「あ、ありがとう」
これなら、意外と気楽にやれそうだ。自慢じゃないけど、インドアの僕はパンチ力の自信は皆無だ。生まれてこの方、殴るねんて経験をした覚えがない。思ったことは何度かあるけど。
「これ、前回低得点だった恵が一番有利なんじゃね?」
「ふっふっふ。いつだって勝負はルール作成者が有利にできているのよ」
鬼頭は悪者のような笑みを向ける。
「まあ、前回は一番最低点がジュース奢りで、提案者の恵が奢ってたんだから、今回は多めにみよう」
「肇の言う通り。みんな練習してないんだから、今回も同じ査定基準にしたら、また私が奢ることになるでしょ。同じ過ちは二度と繰り返さないわよ。と言うことでやるよ」
鬼頭はスイッチを押し、ゲームをスタートさせる。パンチングマシンは特別設定のため無料でプレイすることができるみたいだ。
最初にモードを選択する。
「モードはバトルモードの3人プレイで。一人一回撃って、今回のスコアから前回のスコアを引いた数値が得点。まずは新田にやってもらおっか」
「分かった」
鬼頭にご指名され、僕は前へと出た。正直、自信は全くもってない。僕もゲーム参加者の対象となっていたら、最下位になっているだろう。
「頑張って」
前へ出た時、後ろから滝森さんの声が聞こえてきた。せめて滝森さんの期待に応えられるように頑張ろう。せっかく、UFOキャッチャーでいいところを見せられたんだから。
横にかけられた右手用のグラブを装着する。鬼頭に言われた通り、バトルモード、プレイ人数は3人を選択した。画面が切り替わり、トレーラーが姿を現す。奴を倒せと言うことらしい。
よしっ。心の中で自分に喝を入れて、台から少し離れる。緊張からか鼓動が早くなっていくのを感じた。打ちどころが悪くて掠ったり、空ぶったりしたらどうしようと悪いイメージが浮かんでくる。
でも、やるしかない。10秒あったカウントが5秒になったところで勢いよく腕を振りかぶった。拳はうまくストレートでサンドバッグを撃つ。
全身をこめてうったパンチ。その点数が、画面に映し出される。
「72っ! 低っ! 私に貸しなさい」
得点は72点。隣にいた鬼頭が噴き出すように笑った。この点数が高いのか低いのか彼女の反応から手にとるようにわかる。僕は不貞腐れた表情をしながら彼女にグローブを渡すとみんなに並んだ。
「お疲れ。最初にしてはいい点数だと思うよ。あんなこと言ってる恵だって、最初は65点だったから」
不貞腐れた僕の様子を見てか横にいた庄司が声をかけてくれる。本当に優しいやつだ。
それにしても、鬼頭のやつは65点だったのか。僕より全然低いじゃん。よくそれで横暴な態度が取れたものだ。
僕はジト目で彼女を見つめる。そんな僕を全く気に留めることなく、目の前のサンドバッグに意識を集中させている。自信たっぷりなようで口角を釣り上げ、自分の手でグローブの打撃を試している。見てくれだけはプロのようだ。
残り3秒となってタイミングで撃つ体制に入ると勢い任せにサンドバックを殴る。うまくストレートが入り、サンドバッグは台に倒れた。
「87点っ! 我ながらいい点じゃん!」
そう言って、三番手の磯貝へとグローブを渡すと浮かれるような気持ちで僕を見た。自分の方が上だと言葉にせず、僕に語りかけてくる。65点だったくせに生意気だ。一回目と二回目では点数に幅が出るのは当たり前だ。打ち方にコツが掴めるのだから。次またやる機会があったら、絶対に彼女より高得点を出してやる。
僕が鬼頭に対して不満を抱いている間に磯貝の番が終わる。彼の点数は113点だった。さすがは運動部といったところだろう。
「前回102点だったから、11点か」
「はい、おつー。私の方が11点も上だね〜」
「くそっ! スコアでは余裕で勝ってるのに」
悔しい思いに駆られる磯貝を鬼頭は得意げに見つめる。87点なのに、なんであんなに自信のある振る舞いができるのだろうか。
グローブは諏訪さんに渡る。3人でのプレイが終わったため、画面はタイトルに戻る。再度スタートボタンを押し、ゲームを始める。バトルモードの3人プレイを選択。画面が切り替わり、再びトレーラーが姿を現す。
諏訪さんは少しだけ後ろに下がると間髪入れず、構えの体制に入った、
「ドーンっ!」
明るい声かけとともにサンドバッグに拳を振るった。サンドバッグは押し込まれるように地面へと叩きつけられる。しばらくして、画面に点数が表示される。
点数は126点。運動部の磯貝よりも高い得点だ。見かけによらず、力は強いみたいだ。諏訪さんみたいなタイプは怒らせると本当に怖そうだ。
「えっと、前回132点だったから、マイナス6点か。ビリだよ〜、どうしよう〜」
諏訪さんは頭に手をやる。とはいえ、楽しいからか終始笑顔を保ったままだった。
「燈、グローブ貸して」
彼女の横に庄司がつく。諏訪さんはスコアに目を取られ、交代することを忘れていた。「ごめん、ごめん」といって、グローブを庄司に渡す。秒数が減りかけているため、部が悪くなるが、彼は一切悪い顔を見せない。
グローブをはめると、少し助走をつけ、勢いよく殴る。当たりどころが良かったのか、サンドバッグからは軽やかな音が聞こえた。
得点は156点。5人の中ではダントツだ。
「前回は133点だから、23点上か。まずまずだな。はい、静」
「ありがとう」
最後に滝森さんにグローブが差し出される。彼女は横にいる諏訪さんにぬいぐるみを渡すと、グローブをとった。
滝森さんも鬼頭と同じく70、80点代くらいだろうか。今まで徐々に点数が上がってきている最中に出番が回ってくるなんて酷だな。僕は心の中で彼女に「頑張れ!」と声を掛ける。どんな結果であったとしても、後で滝森さんに優しい声をかけてあげよう。
滝森さんはグローブをはめるとサンドバッグと一定の距離を取る。
刹那、優しかった彼女の表情に真剣さが灯る。テストの問題を解説している時に見せる表情。いや、それともまた違う。表情が変わった瞬間、彼女の周りにオーラが発されるように感じた。明らかに殺気みたいなものを纏っている気がした。
僕は思わず、息を呑んだ。普段見ている滝森さんとは別人のようだった。
「ふっ!」
構えの姿勢に入り、サンドバッグに右ストレートを放つ。ボクサーのように華麗な右ストレートがサンドバッグを撃つ。そのまま前に重心を寄せ、サンドバッグを押しつぶす。
鮮やかな一連の流れに感嘆し、驚愕した。僕が思っていた滝森さんのイメージが良くも悪くも打ち砕かれた気がした。可愛かった彼女に凛々しさが加わる。
だが、それも一瞬のこと元の体勢に戻ると瞳は穏やかになった。
「おおー、180点。流石、静だね」
滝森さんの容姿に目がいってしまっていたため、得点は鬼頭の声で分かった。視線をスクリーンに移すと、言葉通り180と言う数字が見えた。このグループの中ではダントツの数値だ。運動部の磯貝や庄司すらも凌駕した数値。滝森さんって、運動神経も抜群なのか。
「でも、ごめんね。静」
鬼頭は滝森さんのところに行くと、彼女の方をそっと叩いた。
「前回192点だったから、マイナス12点で最下位」
「はっはっは」
滝森さんは苦笑いを浮かべる。悲痛な声だった。
ダントツで一位をとったのに、前回が強すぎたが故に負けてしまったようだ。こんな悲しい結末はかつてあっただろうか。
「と言うわけで、一位は私、最下位は静に決定」
こうして、力自慢対決は力がないものが一位で、力があるものが最下位というタイトルとは真逆の結果で終わることになった。
僕はルール作成者の鬼頭を思わず、ジト目で見てしまった。
「さて、この調子どんどん遊びましょう!」
鬼頭は僕の視線を一切気にすることなく、これからの遊びに期待で胸を膨らませた。
鬼頭たちが久しぶりにみんなでやりたいと言っていたのは『パンチングマシーン』のことだった。
先に来ていた磯貝と庄司に合流する形で僕たちはパンチングマシーンの前に立つ。
「久しぶりにみんなで『力自慢大会』をやろうと思ってね。前よりどれだけパンチ力が上がっているか試してみよう」
鬼頭がみんなの前に立つと、サンドバッグ部分に手をかけながら話す。
「いいけど、俺、特に練習はしてないから変わらないと思うぞ」
「みんな練習してないわよ。日常生活でどれだけ鍛えられたか勝負しようよ。前回よりもどれだけ上がったかで勝負。最下位のやつは全員にジュース奢りな。前回のポイントはみんな覚えている」
鬼頭の言葉に僕以外の全員が頷く。
「新田は普通にやるって感じでいいかな。信用スコアで割り引いてもらっているしね」
「あ、ありがとう」
これなら、意外と気楽にやれそうだ。自慢じゃないけど、インドアの僕はパンチ力の自信は皆無だ。生まれてこの方、殴るねんて経験をした覚えがない。思ったことは何度かあるけど。
「これ、前回低得点だった恵が一番有利なんじゃね?」
「ふっふっふ。いつだって勝負はルール作成者が有利にできているのよ」
鬼頭は悪者のような笑みを向ける。
「まあ、前回は一番最低点がジュース奢りで、提案者の恵が奢ってたんだから、今回は多めにみよう」
「肇の言う通り。みんな練習してないんだから、今回も同じ査定基準にしたら、また私が奢ることになるでしょ。同じ過ちは二度と繰り返さないわよ。と言うことでやるよ」
鬼頭はスイッチを押し、ゲームをスタートさせる。パンチングマシンは特別設定のため無料でプレイすることができるみたいだ。
最初にモードを選択する。
「モードはバトルモードの3人プレイで。一人一回撃って、今回のスコアから前回のスコアを引いた数値が得点。まずは新田にやってもらおっか」
「分かった」
鬼頭にご指名され、僕は前へと出た。正直、自信は全くもってない。僕もゲーム参加者の対象となっていたら、最下位になっているだろう。
「頑張って」
前へ出た時、後ろから滝森さんの声が聞こえてきた。せめて滝森さんの期待に応えられるように頑張ろう。せっかく、UFOキャッチャーでいいところを見せられたんだから。
横にかけられた右手用のグラブを装着する。鬼頭に言われた通り、バトルモード、プレイ人数は3人を選択した。画面が切り替わり、トレーラーが姿を現す。奴を倒せと言うことらしい。
よしっ。心の中で自分に喝を入れて、台から少し離れる。緊張からか鼓動が早くなっていくのを感じた。打ちどころが悪くて掠ったり、空ぶったりしたらどうしようと悪いイメージが浮かんでくる。
でも、やるしかない。10秒あったカウントが5秒になったところで勢いよく腕を振りかぶった。拳はうまくストレートでサンドバッグを撃つ。
全身をこめてうったパンチ。その点数が、画面に映し出される。
「72っ! 低っ! 私に貸しなさい」
得点は72点。隣にいた鬼頭が噴き出すように笑った。この点数が高いのか低いのか彼女の反応から手にとるようにわかる。僕は不貞腐れた表情をしながら彼女にグローブを渡すとみんなに並んだ。
「お疲れ。最初にしてはいい点数だと思うよ。あんなこと言ってる恵だって、最初は65点だったから」
不貞腐れた僕の様子を見てか横にいた庄司が声をかけてくれる。本当に優しいやつだ。
それにしても、鬼頭のやつは65点だったのか。僕より全然低いじゃん。よくそれで横暴な態度が取れたものだ。
僕はジト目で彼女を見つめる。そんな僕を全く気に留めることなく、目の前のサンドバッグに意識を集中させている。自信たっぷりなようで口角を釣り上げ、自分の手でグローブの打撃を試している。見てくれだけはプロのようだ。
残り3秒となってタイミングで撃つ体制に入ると勢い任せにサンドバックを殴る。うまくストレートが入り、サンドバッグは台に倒れた。
「87点っ! 我ながらいい点じゃん!」
そう言って、三番手の磯貝へとグローブを渡すと浮かれるような気持ちで僕を見た。自分の方が上だと言葉にせず、僕に語りかけてくる。65点だったくせに生意気だ。一回目と二回目では点数に幅が出るのは当たり前だ。打ち方にコツが掴めるのだから。次またやる機会があったら、絶対に彼女より高得点を出してやる。
僕が鬼頭に対して不満を抱いている間に磯貝の番が終わる。彼の点数は113点だった。さすがは運動部といったところだろう。
「前回102点だったから、11点か」
「はい、おつー。私の方が11点も上だね〜」
「くそっ! スコアでは余裕で勝ってるのに」
悔しい思いに駆られる磯貝を鬼頭は得意げに見つめる。87点なのに、なんであんなに自信のある振る舞いができるのだろうか。
グローブは諏訪さんに渡る。3人でのプレイが終わったため、画面はタイトルに戻る。再度スタートボタンを押し、ゲームを始める。バトルモードの3人プレイを選択。画面が切り替わり、再びトレーラーが姿を現す。
諏訪さんは少しだけ後ろに下がると間髪入れず、構えの体制に入った、
「ドーンっ!」
明るい声かけとともにサンドバッグに拳を振るった。サンドバッグは押し込まれるように地面へと叩きつけられる。しばらくして、画面に点数が表示される。
点数は126点。運動部の磯貝よりも高い得点だ。見かけによらず、力は強いみたいだ。諏訪さんみたいなタイプは怒らせると本当に怖そうだ。
「えっと、前回132点だったから、マイナス6点か。ビリだよ〜、どうしよう〜」
諏訪さんは頭に手をやる。とはいえ、楽しいからか終始笑顔を保ったままだった。
「燈、グローブ貸して」
彼女の横に庄司がつく。諏訪さんはスコアに目を取られ、交代することを忘れていた。「ごめん、ごめん」といって、グローブを庄司に渡す。秒数が減りかけているため、部が悪くなるが、彼は一切悪い顔を見せない。
グローブをはめると、少し助走をつけ、勢いよく殴る。当たりどころが良かったのか、サンドバッグからは軽やかな音が聞こえた。
得点は156点。5人の中ではダントツだ。
「前回は133点だから、23点上か。まずまずだな。はい、静」
「ありがとう」
最後に滝森さんにグローブが差し出される。彼女は横にいる諏訪さんにぬいぐるみを渡すと、グローブをとった。
滝森さんも鬼頭と同じく70、80点代くらいだろうか。今まで徐々に点数が上がってきている最中に出番が回ってくるなんて酷だな。僕は心の中で彼女に「頑張れ!」と声を掛ける。どんな結果であったとしても、後で滝森さんに優しい声をかけてあげよう。
滝森さんはグローブをはめるとサンドバッグと一定の距離を取る。
刹那、優しかった彼女の表情に真剣さが灯る。テストの問題を解説している時に見せる表情。いや、それともまた違う。表情が変わった瞬間、彼女の周りにオーラが発されるように感じた。明らかに殺気みたいなものを纏っている気がした。
僕は思わず、息を呑んだ。普段見ている滝森さんとは別人のようだった。
「ふっ!」
構えの姿勢に入り、サンドバッグに右ストレートを放つ。ボクサーのように華麗な右ストレートがサンドバッグを撃つ。そのまま前に重心を寄せ、サンドバッグを押しつぶす。
鮮やかな一連の流れに感嘆し、驚愕した。僕が思っていた滝森さんのイメージが良くも悪くも打ち砕かれた気がした。可愛かった彼女に凛々しさが加わる。
だが、それも一瞬のこと元の体勢に戻ると瞳は穏やかになった。
「おおー、180点。流石、静だね」
滝森さんの容姿に目がいってしまっていたため、得点は鬼頭の声で分かった。視線をスクリーンに移すと、言葉通り180と言う数字が見えた。このグループの中ではダントツの数値だ。運動部の磯貝や庄司すらも凌駕した数値。滝森さんって、運動神経も抜群なのか。
「でも、ごめんね。静」
鬼頭は滝森さんのところに行くと、彼女の方をそっと叩いた。
「前回192点だったから、マイナス12点で最下位」
「はっはっは」
滝森さんは苦笑いを浮かべる。悲痛な声だった。
ダントツで一位をとったのに、前回が強すぎたが故に負けてしまったようだ。こんな悲しい結末はかつてあっただろうか。
「と言うわけで、一位は私、最下位は静に決定」
こうして、力自慢対決は力がないものが一位で、力があるものが最下位というタイトルとは真逆の結果で終わることになった。
僕はルール作成者の鬼頭を思わず、ジト目で見てしまった。
「さて、この調子どんどん遊びましょう!」
鬼頭は僕の視線を一切気にすることなく、これからの遊びに期待で胸を膨らませた。



