【試用】信用スコア政策

 昼食を終え、僕たちはアミューズメントパークへと足を運んだ。

 聞いていたとおり、現在キャンペーン中で、6人以上のご来店でお一人20%の割引になっていた。一人の料金が約2000円のため、400円ほど安くなる。高校生にとっての400円引きはかなりありがたい。加えて、僕の信用スコアでの支払いで、さらに20%引きになるため、先ほどの昼食代が無料になったといった感じだ。

 受付を終え、入館用のリストバンドをもらうと僕たちは中の方へと足を運んだ。

 最初に行くところはゲームセンターだ。館内のゲームセンターは2種類ある。一つはリストバンドなしでも入れる一般のゲームセンター。もう一つはリストバンド着用者のみが入れる限定のゲームセンターだ。違いとしては、ゲームの種類の他、限定の方では一部のゲームを無料でプレイすることができる。僕たちはせっかくなので限定の方のゲームセンターへと足を運んだ。

 エレベーターで目的のフロアへと行く。ガラス張りのため、アミューズメントパーク周辺の景色を眺めることができた。階が上がるごとに景色は広くなっていく。

 目的のフロアへ到着すると、前にいた諏訪さんと鬼頭が真っ先に出ていく。エレベーターで待っている最中も体をウズウズさせていたので、相当楽しみだったのだろう。

 彼女たちに続いて磯貝と庄司、僕と滝森さんといった形でエレベーターを出ていった。鬼頭と諏訪さんは真っ先にシューティングゲームの方へと足を運ぶ。向かいくるゾンビを撃ちまくるゲームだ。二人とも勉強でのストレスが溜まっていたんだと感じた。

「肇、バスケやらないか?」

「いいね、やろう」

 前の二人は短いやり取りの後にバスケットコーナーへと足を運んだ。リアルなバスケではなく、入ったシュートの数で点数を競うゲームだ。

「私たちはどうしようか?」

 二人取り残されたところで滝森さんが僕に話しかける。彼女は僕に合わせてくれるのだろうか。

「僕は何でも。滝森さんは何かやりたいものとかある?」

「じゃあ、ちょっと烏滸がましいんだけど、UFOキャッチャーに行ってもいい?」

 滝森さんはそう言って、苦笑いを浮かべる。烏滸がましいことは何もないが、せっかく無料で遊べるものがある中、有料のUFOキャッチャーを選んだことに疾しさを抱いたのだろう。

「了解。行こっか」

 決まったところで僕たちはUFOキャッチャーの方へと歩いて行った。

 平日の昼間ということもあってか、館内にいる客は高校生、大学生がメインだった。高校生は僕たちと同じ制服の人もいれば、違う制服の人もちらほら見える。

「ここには結構来るの?」

「休日とか、今日みたいに時間がたくさんある時はよく来るかな。恵たちは多分もっと来てると思う。私はバイトとか勉強とか、あとは普通に金銭的な問題とかであまり来れてないけど」

「そうなんだ。じゃあ、今日はたくさん遊ばないとだね」

「うん。あっ……」

 ふと滝森さんの視線が僕から少しズレる。彼女の視線の先を見ると一つのUFOキャッチャーがあった。アームが三つあるタイプの大型のUFOキャッチャーだ。景品は何かのキャラクターか、黒色の毛に包まれた胴体に白色の手足が生えたキャラクターだ。首らしきものはなく胴体と頭がセットになっており、頭部の天辺に目がついている。鼻はついているが、口はないみたいだ。

「サンサンだっ!」

 滝森さんは華やかに笑うと、磁石で引き寄せられたかのようにUFOキャッチャーを覗いた。僕は不意にテンションの上がった彼女に戸惑いつつも、足先を変え、彼女へ近づく。

「何かのキャラクター」

「SNSで話題のキャラクターなんだ。SUNSUNでサンサン」

「太陽を謳うわりには黒なんだね」

「この訳のわからなさが良いんだって。常識に囚われていない感じって言うのかな」

「んっ? 滝森さんが好きと言うわけではないの?」

 僕は彼女の物言いに違和感を覚えた。明らかに他人の感想を代弁しているようだった。

「新田くんの言う通り、私が好きなわけではないんだ。去年、お世話になった人が好きだったもの。もうすぐ、その人の誕生日だから何か送りたいねって思ってたんだ」

「それでこれを?」

「サンサングッズにしようかなとは決めてたんだよね。それでUFOキャッチャーで特大のぬいぐるみが出るってメッセージを見たからあるかなと思って。大きい方が先生喜ぶと思うから」

 滝森さんは優しい瞳でサンサンを見ていた。お世話になった先生へのプレゼントを見つけたことで喜んでいたのか。滝森さんらしいなと感じた。

「でも、UFOキャッチャーなんてほとんどやったことないからな〜」

 だが、不意に滝森さんは顔を俯かせ、どんよりと沈んだ様子を見せる。彼女の頭上に負のオーラが散漫しているように見える。

 バイトしているほど金銭的に苦労しているのだ。UFOキャッチャーなんてやれるほどの余裕なんてないはずだ。

「僕も協力するから一回やってみようか?」

「ほんと、ありがとう!」

 僕の提案に滝森さんは目を輝かせ、こちらを見る。喜怒哀楽の激しい彼女を見るのは初めてで新鮮だ。こちらに向けられる笑顔で、彼女のために何とかしてゲットしようと言う気にさせられる。

 とはいえ、僕もUFOキャッチャーが得意かと言われればそうでもない。ゲームセンターに行くときはたまにやる程度には嗜んでいるため、滝森さんよりかは経験値があるのは確かだが。

「交互にプレイしていこうか?」

「う、うん。料金はどうしよう。私が渡せばいい?」

「僕も出すよ。もし、景品が取れたら、プレイした金額をもらうって形でいいかな?」 

 本当は自分も金額を払う方がいいだろう。だが、それだと滝森さんに気を使わせてしまう可能性がある。だから、景品が取れたらという条件つきにすることで承諾しやすくした。この方法を取ることで後払いという形になる。もし、プレイにかかる金額が多くなってしまったとしても、僕の方で調整することが可能だ。

「わかった。じゃあ、まずは私から行くね。普通に狙えばいいかな?」

「うん、それで大丈夫だと思う」

「よしっ!」

 滝森さんは気合を入れると財布から取り出した100円玉を硬貨投入口へと入れる。操作方法はボタン式だ。まずは横に動かす一番のボタンが点滅する。ボタンを押し、景品のあるところへと移動させる。アームは景品の横へとついた。次に二番のボタンを押し、縦方向を揃えていく。ボタンを離すとアームは景品の真上にいた。経験値は皆無に近いとは思えないほど、アームは綺麗に景品を掴んだ。景品が持ち上がる。

 もしかすると、一発で獲得したかもしれない。そう思ったのも束の間、横の動きの反動で景品は地面に落ちていった。

「惜しかったね〜」

「うん。でも、アームが持ち上げることが分かったから、景品が取れそうな状態だとは思う。次は僕だね」

 自分の財布から100円玉を取り出し、硬貨投入口へと入れた。一番、二番と操作し、景品の若干右寄りにアームを配置する。アームはゆっくりと降下すると景品をうまく包み込む。持ち上げる寸前、少しだけ右に景品が寄った。そのまま持ち上がるが、一回目と同様に横の動きで景品は地面に落ちた。それでも、獲得口との距離は少し近づいた。

「なるほど。そうやって動かす方法もあるんだね」

「確か、アームの強度は二つで決まる。一つは一定の金額が入ると強度が高まる仕組み。もう一つは硬貨を入れたタイミングでランダムに強度が決まる。二回試して、二回とも景品が持ち上がるということは、一定以上の金額が入って強度が高まった可能性が高い。だから、あとはランダムで定まる強度を待つという形になると思う。ここからはただの推測だけど、景品と獲得口の距離が短いほど、強度は小さくても獲得できる可能性があると思う。だから、やってみた」

 正直、今しゃべった理論が当たっているかはわからない。自分の記憶から掘り出した知識だから多少なりともバイアスがかかっている可能性はある。ただ、何もないよりはマシだと思う。

「ありがとう。私も試してみる」

 僕の話が腑に落ちたみたいだ。100円玉を入れ、UFOキャッチャーを操作する。

 その後、僕たちは景品を持ち上げることは念頭におきつつ、さらに景品を近づけることに専念した。

「うーん、ダメかー」

 五回目の滝森さんのターンが終わる。何度やっても横の動きで落ちてしまう景品にもどかしさを抱いたのかため息を漏らした。

「でも、景品は着実に獲得口に近づいている。次は僕の番だね」

 僕は100円玉を硬貨口に入れる。この調子で行けば近々獲得できるはずだ。期待する心を押し留め、アームが景品を掴める位置になるように操作する。縦方向への移動を終え、アームはゆっくりと下降し、景品を掴んだ。そのまま上昇、問題の横方向へと移動する。

「おーっ!」

 滝森さんが思わず声を膨らませた。横へ移動したアームは景品を落とすことなく掴んでいた。そのまま獲得口へと持っていく。

 アームが開き、サンサンは獲得口へと落ちていった。

「やったー! 新田くん、やったよー」

 横にいた滝森さんは高揚すると僕の方へ腕を広げる。ハイタッチかと思った僕は両手を彼女と同じように広げた。

 しかし、僕の想像とは裏腹に滝森さんの高揚は計り知れなかった。両腕を広げるとそのまま僕の首元を包み込む。

 えっ。まじか。

 僕は思わず瞳を開いた。体に当たる柔らかい肌。鼻腔をくすぐる彼女のシャンプーの香り。ふと耳元で囁かれる彼女の感謝。その全てが快感だった。

 生きていてよかった。一緒にUFOキャッチャーしてよかった。僕は思わず流れそうになった涙をグッと堪える。

 幸せは束の間だった。僕を抱くとすぐに取り出し口からサンサンのぬいぐるみを取り出した。両腕でぬいぐるみを抱き抱える。

「新田くん、ありがとう! これで先生も大喜びだよ」

 こちらに満面の笑みで微笑む滝森さんに僕は感服した。赤く染まった頬が彼女の可愛さをより一層引き立たせる。

「おお、静っ! それ、サンサンじゃん! 獲ったの!」

 すると、諏訪さんと鬼頭がこちらへとやってくる。僕は彼女たちをみて思わず、胸が高鳴った。先ほどのハグは見られなかっただろうかと疑心暗鬼になる。

 だが、二人は真摯に景品を眺めていたため、見られてはいなかったことが分かった。言及しなかっただけかもしれないが、鬼頭が見ていたとしたら、真っ先に言ってきただろう。

「二人はもう遊び終わったの?」

「いいや、久しぶりにみんなでやりたいものがあってね。みんなを呼んでたんだ。今から来れる?」

 微笑む二人に対して、僕と滝森さんは顔を合わせる。

 みんなでやりたいものとは何だろう。