昼食を食べながら僕たちは談笑に耽っていた。中間テストの手応え、各々の近況報告、他生徒の話など、ジャンルは多種多様だった。よくそんなに話す内容があるなと僕は感心しながら聞いていた。
主に話をするのは鬼頭と磯貝。諏訪さんと庄司は彼らの話に合いの手を入れつつ、話を振られたら会話をする形だ。滝森さんは彼らの会話を聞きつつ、必要に応じて僕に話しかけてくれた。
この場に居て、嫌な雰囲気にならないように気を遣ってくれているのだろう。僕にとっては滝森さんがそばにいてくれるだけで満足だった。むしろ、授業後でも一緒に話すことができている今の状況はプラスだ。
「そういえば、彩芽、SNSで良い男見つけたらしいよ。最近、加藤とうまく行っていないみたいだから、これを機に乗り換えるかもしれないな」
鬼頭の言っている彩芽は僕たちのクラスの羽田 彩芽と言う女子生徒だ。鬼頭と羽田が話しているのをよく目にするから間違いないだろう。羽田は一緒に下校している加藤の彼女だ。下校中、加藤の口からよく彼女の話が出てくる。
「まじかよ。加藤かわいそうだな」
「まあ、加藤が悪いらしいんだけどね。最近、彩芽への絡みがうざいんだって。『全然、連絡くれない』とかメッセージしてきて、束縛が強いらしいよ。それに加藤の信用スコアが日に日に落ちてるらしくて、裏で何か悪いことしてるんじゃないかって疑っているらしい」
僕は鬼頭の話を聞きつつ、自分の中で立てていた仮説が正しいことが分かった。やはり、街に設置された監視カメラによって、下校中の僕たちの様子は審査されていたようだ。いじめを受けた僕の信用スコアは上がり、いじめをした加藤の信用スコアは下がった。おそらく他の三人も同じような結果になっているだろう。とはいえ、加藤の信用スコアが下がっている要因は別のものもあるだろうが。
「はあー、良かった。こんなやつに愛しの静を取られなくて。あの時、付き合わなくて正解だったね。あんた結構悩んでたから」
鬼頭は滝森さんの方を見る。鬼頭から漏れた言葉に僕も思わず、滝森さんへと目を向けた。加藤が滝森さんに告白していたとは思いもよらなかった。僕もこれに関して鬼頭に心底賛同する。
「う、うん。そうだね……」
滝森さんは肯定するも少しばかり納得がいっていない様子だった。
悩むと言うことは彼に対して、少しでも好意があったのだろうか。僕は彼女にあいつはどうしようもなく悪いやつだと諭したくなった。もし、滝森さんが加藤の恋人になっていたらと思うと考えるだけで胸が痛む。
「にしても、ほんと、この信用スコアってやつどうにかして欲しいわ。下手に動いてスコア下がると色々面倒くさいのよね。まあ、他のみんなの様子が知れるのは良いことだけど。でも、静といい、肇といい、うちのグループは清廉潔白が多いからな。二人のスコア全く下がる気配見せないし」
「後ろめたいことなんて何もないからな。とはいえ、ちょっと急いでいる時に赤信号渡ってスコア落ちることはあるけど」
庄司は冗談まじりに自虐を見せる。余裕伯爵な彼の姿から本当に後ろめたい事はないのだと分かる。風貌も良くて、悪いところがないのだから庄司には嫉妬せずにはいられない。しかし、それで救われた過去があるので、嫉妬よりも尊敬が勝っているのだが。
「悪事が小さいのよ。それに肇が赤信号無視する時って、私に合わせてでしょ」
「バレた?」
「バレるよ。私を見くびるなっての。あんたが自発的にそんなことやる奴じゃないのは知ってる。マジ憎たらしい、爆ぜろ。静はもうすぐスコア600でしょ?」
「い、一応。でも、最近全然上がらないし、赤信号渡ると2ポイントくらい引かれちゃうんだよね」
「かー、それ私のせいじゃんっ! ごめんね、静っ。今度お詫びさせて」
「別に大丈夫だよ。私、信用スコアに関してはあまり気にしてないから」
「いつも思うけど、滝森と俺とでは扱いが格段に違うな。そういえば、新田は信用スコア何ポイントなんだ?」
会話のキャッチボールが庄司から僕へと渡る。僕はポケットにしまっていたスマホを取り出した。口頭で言おうかと思ったが、おそらく得意げに話してしまうだろう。この場において自慢するように話すのはリスクが高い。クラスでは目立たない僕が彼らよりも上の数値を口にするのは印象的に良くない。
だから、僕は『マイクレジット』を開いて、ありのままの姿をゆっくりと庄司に見せた。若干照れを隠すような素振りを見せることで調子に乗っているわけではないと思わせる。
「621。新田すごいな!」
画面に映された数値を声に出す庄司。彼が僕に見せる瞳は羨望だった。彼からは一切の負のオーラは感じない。心から僕を尊敬している様子だ。
それに乗るように磯貝がアプリをチラ見する。逆に彼からは僕に嫉妬を見せるようにこちらを覗いていた。
「私にも見せて!」
羨望を見せる庄司に感化されたのか諏訪さんがテーブルに両手をかけ、前のめりに庄司に懇願する。前のめりになったことで彼女の夏服が下方向に垂れ下がる。そのため、僕の位置から少しばかり彼女の着る水色の下着が見えた。不可抗力で動いてしまった視線を無理やり戻す。庄司の方を覗くと彼は僕にスマホを見せていた。
「これ、見せてあげていい?」
「うん、大丈夫」
僕が了承すると彼は何食わぬ顔で諏訪さんへとスマホを渡した。僕の位置からでも見えていると言うことは向かいに座る庄司からしたらあからさまに見えているはずだ。なのに、鼻の下を伸ばす様子を一切見せないのは、女性慣れしている証だろう。
とはいえ、彼も立派な思春期の男子だ。顔に出さなくても、視線はほのかに彼女の胸元へといっていた。諏訪さんが受け取り、体制が元に戻ると何事もなかったかのように彼女の顔に視線が戻る。
「621ポイントっ! 新田くん、すごいね!」
諏訪さんは僕のスマホを目を輝かせながら覗いた。横にいた鬼頭もストローでドリンクを飲みつつも諏訪さんの肩に身を寄せる。
「本当に600ポイント代なんだ。私、同級生でこのポイントの人初めて見た」
鬼頭は僕の方を見る。『やるじゃん』といった賞賛の視線に僕は照れながらも会釈した。まさか鬼頭が僕に対して、褒める様子を見せるとは思ってもみなかった。むしろ、磯貝と同じく卑下すると思っていたくらいだ。
「実はね、今日のメニューなんだけど、新田くんが信用スコアで20%引きで買ってくれたんだよ。だからいつもよりも20%引きの金額を送ってくれれば、大丈夫だから」
僕の信用スコアで盛り上がっている流れに乗って、滝森さんが料金について話す。
「まじっ! 新田、サンキュー。頼りになるわ。てことは、これから遊ぶところも20%引きになったりする?」
「決済が信用スコア政策の協力会社が使えるなら、できると思う」
「まじ神じゃん! 6人でのサービス割に上乗せで20%引き。その分、これから行くゲーセンでつーかおう。どうせ、余ったお金は母さんに返さなくちゃいけないからな」
鬼頭はそう言って、自分のスマホを操作する。電卓で使える金額を計算しているのだろう。もしくはこれから遊ぶところで信用スコアでの割引が適用できるのかを調べているのかもしれない。
信用スコアを掲示したことでみんなからの僕の印象が変わったように思えた。もしかすると、今日だけでなく、また僕を入れて遊んでくれるかもしれない。そうなれば、滝森さんと一緒にいられる時間はもっと長くなるかもしれない。
本当に、信用スコア政策には助けられてばかりだ。ウキウキな気分になったのを、表情に出さないように抑えながらポテトを一ついただく。
その後もしばらく談笑は続いた。
主に話をするのは鬼頭と磯貝。諏訪さんと庄司は彼らの話に合いの手を入れつつ、話を振られたら会話をする形だ。滝森さんは彼らの会話を聞きつつ、必要に応じて僕に話しかけてくれた。
この場に居て、嫌な雰囲気にならないように気を遣ってくれているのだろう。僕にとっては滝森さんがそばにいてくれるだけで満足だった。むしろ、授業後でも一緒に話すことができている今の状況はプラスだ。
「そういえば、彩芽、SNSで良い男見つけたらしいよ。最近、加藤とうまく行っていないみたいだから、これを機に乗り換えるかもしれないな」
鬼頭の言っている彩芽は僕たちのクラスの羽田 彩芽と言う女子生徒だ。鬼頭と羽田が話しているのをよく目にするから間違いないだろう。羽田は一緒に下校している加藤の彼女だ。下校中、加藤の口からよく彼女の話が出てくる。
「まじかよ。加藤かわいそうだな」
「まあ、加藤が悪いらしいんだけどね。最近、彩芽への絡みがうざいんだって。『全然、連絡くれない』とかメッセージしてきて、束縛が強いらしいよ。それに加藤の信用スコアが日に日に落ちてるらしくて、裏で何か悪いことしてるんじゃないかって疑っているらしい」
僕は鬼頭の話を聞きつつ、自分の中で立てていた仮説が正しいことが分かった。やはり、街に設置された監視カメラによって、下校中の僕たちの様子は審査されていたようだ。いじめを受けた僕の信用スコアは上がり、いじめをした加藤の信用スコアは下がった。おそらく他の三人も同じような結果になっているだろう。とはいえ、加藤の信用スコアが下がっている要因は別のものもあるだろうが。
「はあー、良かった。こんなやつに愛しの静を取られなくて。あの時、付き合わなくて正解だったね。あんた結構悩んでたから」
鬼頭は滝森さんの方を見る。鬼頭から漏れた言葉に僕も思わず、滝森さんへと目を向けた。加藤が滝森さんに告白していたとは思いもよらなかった。僕もこれに関して鬼頭に心底賛同する。
「う、うん。そうだね……」
滝森さんは肯定するも少しばかり納得がいっていない様子だった。
悩むと言うことは彼に対して、少しでも好意があったのだろうか。僕は彼女にあいつはどうしようもなく悪いやつだと諭したくなった。もし、滝森さんが加藤の恋人になっていたらと思うと考えるだけで胸が痛む。
「にしても、ほんと、この信用スコアってやつどうにかして欲しいわ。下手に動いてスコア下がると色々面倒くさいのよね。まあ、他のみんなの様子が知れるのは良いことだけど。でも、静といい、肇といい、うちのグループは清廉潔白が多いからな。二人のスコア全く下がる気配見せないし」
「後ろめたいことなんて何もないからな。とはいえ、ちょっと急いでいる時に赤信号渡ってスコア落ちることはあるけど」
庄司は冗談まじりに自虐を見せる。余裕伯爵な彼の姿から本当に後ろめたい事はないのだと分かる。風貌も良くて、悪いところがないのだから庄司には嫉妬せずにはいられない。しかし、それで救われた過去があるので、嫉妬よりも尊敬が勝っているのだが。
「悪事が小さいのよ。それに肇が赤信号無視する時って、私に合わせてでしょ」
「バレた?」
「バレるよ。私を見くびるなっての。あんたが自発的にそんなことやる奴じゃないのは知ってる。マジ憎たらしい、爆ぜろ。静はもうすぐスコア600でしょ?」
「い、一応。でも、最近全然上がらないし、赤信号渡ると2ポイントくらい引かれちゃうんだよね」
「かー、それ私のせいじゃんっ! ごめんね、静っ。今度お詫びさせて」
「別に大丈夫だよ。私、信用スコアに関してはあまり気にしてないから」
「いつも思うけど、滝森と俺とでは扱いが格段に違うな。そういえば、新田は信用スコア何ポイントなんだ?」
会話のキャッチボールが庄司から僕へと渡る。僕はポケットにしまっていたスマホを取り出した。口頭で言おうかと思ったが、おそらく得意げに話してしまうだろう。この場において自慢するように話すのはリスクが高い。クラスでは目立たない僕が彼らよりも上の数値を口にするのは印象的に良くない。
だから、僕は『マイクレジット』を開いて、ありのままの姿をゆっくりと庄司に見せた。若干照れを隠すような素振りを見せることで調子に乗っているわけではないと思わせる。
「621。新田すごいな!」
画面に映された数値を声に出す庄司。彼が僕に見せる瞳は羨望だった。彼からは一切の負のオーラは感じない。心から僕を尊敬している様子だ。
それに乗るように磯貝がアプリをチラ見する。逆に彼からは僕に嫉妬を見せるようにこちらを覗いていた。
「私にも見せて!」
羨望を見せる庄司に感化されたのか諏訪さんがテーブルに両手をかけ、前のめりに庄司に懇願する。前のめりになったことで彼女の夏服が下方向に垂れ下がる。そのため、僕の位置から少しばかり彼女の着る水色の下着が見えた。不可抗力で動いてしまった視線を無理やり戻す。庄司の方を覗くと彼は僕にスマホを見せていた。
「これ、見せてあげていい?」
「うん、大丈夫」
僕が了承すると彼は何食わぬ顔で諏訪さんへとスマホを渡した。僕の位置からでも見えていると言うことは向かいに座る庄司からしたらあからさまに見えているはずだ。なのに、鼻の下を伸ばす様子を一切見せないのは、女性慣れしている証だろう。
とはいえ、彼も立派な思春期の男子だ。顔に出さなくても、視線はほのかに彼女の胸元へといっていた。諏訪さんが受け取り、体制が元に戻ると何事もなかったかのように彼女の顔に視線が戻る。
「621ポイントっ! 新田くん、すごいね!」
諏訪さんは僕のスマホを目を輝かせながら覗いた。横にいた鬼頭もストローでドリンクを飲みつつも諏訪さんの肩に身を寄せる。
「本当に600ポイント代なんだ。私、同級生でこのポイントの人初めて見た」
鬼頭は僕の方を見る。『やるじゃん』といった賞賛の視線に僕は照れながらも会釈した。まさか鬼頭が僕に対して、褒める様子を見せるとは思ってもみなかった。むしろ、磯貝と同じく卑下すると思っていたくらいだ。
「実はね、今日のメニューなんだけど、新田くんが信用スコアで20%引きで買ってくれたんだよ。だからいつもよりも20%引きの金額を送ってくれれば、大丈夫だから」
僕の信用スコアで盛り上がっている流れに乗って、滝森さんが料金について話す。
「まじっ! 新田、サンキュー。頼りになるわ。てことは、これから遊ぶところも20%引きになったりする?」
「決済が信用スコア政策の協力会社が使えるなら、できると思う」
「まじ神じゃん! 6人でのサービス割に上乗せで20%引き。その分、これから行くゲーセンでつーかおう。どうせ、余ったお金は母さんに返さなくちゃいけないからな」
鬼頭はそう言って、自分のスマホを操作する。電卓で使える金額を計算しているのだろう。もしくはこれから遊ぶところで信用スコアでの割引が適用できるのかを調べているのかもしれない。
信用スコアを掲示したことでみんなからの僕の印象が変わったように思えた。もしかすると、今日だけでなく、また僕を入れて遊んでくれるかもしれない。そうなれば、滝森さんと一緒にいられる時間はもっと長くなるかもしれない。
本当に、信用スコア政策には助けられてばかりだ。ウキウキな気分になったのを、表情に出さないように抑えながらポテトを一ついただく。
その後もしばらく談笑は続いた。



