【試用】信用スコア政策

 僕たちは大型スーパーのフードコートへと足を運ばせた。滝森さんたちの6人グループはテスト終わりということで羽を伸ばすために、昼からアミューズメントセンターで遊ぶことにしていたようだった。アミューズメントセンターでは現在キャンペーン中で6人以上で遊ぶと金額が20%オフになるという。だが、一人が用事のため急遽行くことができなくなったようで、代わりとして僕を誘ってくれたみたいだった。

 フードコートへ来たのは、アミューズメントセンターで遊ぶ前に腹ごしらえをするため。

「新田はここでいいか?」

 一人の男がそう言って、6人掛けテーブルの左端にある椅子をひいた。ワックスにより意図的に跳ねさせた黒髪。穏やかな瞳は彼の温厚さを示しているようだ。見た目として爽やかな印象の男性。

 庄司 肇(しょうじ はじめ)。彼は一年生の時に同じクラスだった。見た目の印象通り心も爽やかな彼には一年生の時に何度か助けられた記憶がある。僕にとって、彼は信頼できる人間であることには間違いない。

 男女問わず、こうして気を遣ってくれるのは本当に優しい証拠だ。

「ありがとう。ここに座らせてもらうよ」

 僕は庄司の言葉通り、左端の椅子へと腰をかけた。男女三人ずつのため女性陣はソファー側、男性陣は椅子側へと腰をかける。

 僕の横には庄司がついた。向かい側には滝森さんが腰をかけた。滝森さんの横には、他クラスの女子が座る。紫がかった短めの髪を下側でポニーテール状に止めている。目を輝かせ明るい性格というのが似合う女子だった。

 諏訪 燈(すわ あかり)。何回か見たことがあったが、今回実際に話したのは初めてだった。彼女も見た目通りの人間で明るさはピカイチだった。初対面の僕にも明るく話しかけてくれた。思春期に経験する男女の距離というのを経験していないのかパーソナルスペースはかなり狭めだ。

 そして、僕と対角線上に座る鬼頭 恵と右端に座る磯貝 守(いそがい まもる)。僕のクラスのカースト最上位に位置している二人だ。正直言って、二人とも僕の苦手な部類に入っている。圧が強く、傲慢としている人間はあまり好みではない。

「じゃあ、私がみんなの分買ってくるね。ムックでいつものやつで大丈夫?」

 滝森さんが荷物を置いて席から立ち上がる。彼女の問いかけに僕以外の全員が答えた。鬼頭は「よろしく」といい、諏訪さんと庄司は「ごめんね、ありがとう」「いつも悪いな」とお礼を言う。

「新田くん、ちょっと手伝ってもらってもいいかな?」

「う、うん。大丈夫」

 僕は滝森さんに頼まれたので席を立つ。二人でムックのあるところへと足を運び始めた。

「いつも滝森さんがみんなの分を注文しているの?」

 彼らの一連のやり取りが気になったため、滝森さんへと声を掛ける。こう言ったものは男子がやるのがセオリーだと思っていたが違うのだろうか。

「うん。ただ、持ち運ぶのは一人では難しいから庄司くんや燈ちゃんが手伝ってくれている。今回の場合は、新田くんがいるから庄司くんはパスしたんだと思うよ。『いつもの』の中に新田くんのは含まれていないからね」

 なるほど、それで僕を呼んだわけか。言葉にしなくても連携を取れている二人を称賛しつつも、少しばかり庄司に嫉妬する自分がいた。

「新田くんは好きなもの選んでいいからね。ただ、ポテトはLサイズを二つ買ってみんなで分けることにしているから、そこは気をつけてね」

「ありがとう。お会計を僕の方で行うよ。前に言った通り、今は割引が効くんだ」

「ほんとっ! この前のことといい、ありがとうね。すごく助かる」

 僕は彼女の言葉に心が満たされる。少しでも彼女に奉仕できていると思うと救われる自分がいる。滝森さんが自分を必要としてくれているような気がして誇らしかった。

 大型スーパーへの移動時間で昼時を過ぎたことでムックに並ぶ列は皆無だった。滝森さんが注文している間に僕はメニューを眺め、商品を決める。彼女の注文メニューに耳を傾けると全員ハンバーガー類一つとドリンクで固めているみたいだった。僕も便乗して同じように注文をする。会計は僕が行った。滝森さんと会って以来、また偶然会う可能性があることを考慮し、電子決済の残高を増やしておいたのは正解だった。

 注文が完了し、出来上がるのを縁で待つ。

「今日は突然誘ってごめんね。本当に何も用事はなかった?」

 待っている途中、滝森さんが心配そうな顔で聞く。他の生徒がいた場での誘いだったので、空気を読んで承諾してくれていると思ったのだろうか。その思いがないというと嘘にはなるが、滝森さんがいることでチャラになったのは確かだ。むしろプラスに働いている。

「特になかったよ。強いて言えば、ヒカルの餌あげくらいかな」

 言葉通り、今日家帰ってもやることはヒカルの餌やりだけだった。ヒカルの餌やりも急ぎというわけではない。

「前に言っていた捨て猫ちゃんだっけ。そうだ、今週の土曜って空いていたりする? 先週は見れなかったから、今週見に行こうかと思って」

「うんっ! 空いている。それじゃあ、先週行った大型スーパーで買い物してから行く?」

「うん。そうしようか、楽しみだな」

 まさかこんなにも早く滝森さんがヒカルに会おうとするなんて思いもしなかった。先週に引き続き、今週も二人で買い物することができるなんて。まだ数日後の話だが、僕の心はすっかり高揚してしまっていた。

「それにしても、よく皆の分のメニューを覚えているね?」

 注文の際、滝森さんはスラスラと注文するメニューを選んでいた。いくらドリンクとハンバーガーだけとはいえ、全員分のメニューを忘れることなく覚えているなと感心した。聞いた限りでは、全員メニューはバラバラだったのに。

「記憶力は良い方だからね。でも、最初はメモがないと注文できなかったけれど」

 そう言って、滝森さんは苦笑いを浮かべる。彼女が全員分を注文している理由がわかった気がした。彼女は信頼されているのだ。

「すごいね。ちゃんと皆が注文するのをメモ取ってたんだ。僕だったら、各々頼んでって言いそう」

「うん。ただ、荷物とか置いてあるから見守るかがりも必要だし、それに誰かに頼られるのは嫌いじゃないから。私を必要としてくれるのは凄くありがたい」

 滝森さんは自分たちのテーブルで談笑している友達の姿を見た。瞳は穏やかにキラキラ輝いている。彼女にとって、彼らは特別な存在であるのだと思った。僕もあの中に入ることができるだろうか。

「ご注文番号03番でお待ちのお客様〜!」

 話していると自分たちが持っていた番号札の番号が呼ばれる。受け取り口の上部にあるスクリーンにも『03』という番号が掲示されていた。

 受け取り口へ行き、レシートに書かれた番号を店員さんに見せる。番号札を確認すると、目の前にあるトレーを指し示す。トレーには『ポテト』『ハンバーガー』『ドリンク』と3つのトレーに分けられていた。

「どうやって持っていこうか?」

 滝森さんは、僕の方を見て選択を求める。見た感じ、『ドリンク』と『ポテト・ハンバーガー』で分けた方が良さそうだ。男の僕としては、トレーを二つ持って行った方が良さそうだ。だが、バランス能力に関してはお世辞にも長けているとはいえない。

「お二人さん、お困りのようだね?」

 持ち方に悩んでいると不意に後ろから声をかけられる。考えに耽っていたところでいきなり声をかけられたので、僕は驚いて一歩前に出て振り返る。逃げる直前、柑橘系のほんのり甘い香りが鼻腔をくすぐった。

「諏訪さん?」

 見ると、諏訪さんが悪巧みするような目つきでこちらを見ていた。驚く僕たちの様子に微笑むと二人の間へと割って入る。

「私も手伝うよっ!」

 そう言って、ハンバーガーとドリンクをいくつかポテトのトレーに乗せて、持ち上げた。先ほどまで仲良く談笑していたのに。こちら側にもちゃんと気を配っていたんだ。

「諏訪さん、すごいね」

 僕は、トレーを持って立ち去る彼女に思わず、口をこぼした。

「でしょっ!」

 横にいた滝森さんは自分の友達を誇らしく思うかのように僕の方を見て微笑む。その姿はとても可愛らしかった。