チャイムが鳴った。二日に渡った中間テストが終わりを告げる音だ。
教室の中心部にいる僕からはクラスの半分ほどを見渡すことができる。ようやく終わったと気持ちよさそうに腕をあげる生徒。赤点を取ったのか全身脱力して黒板を凝視している生徒。テストの際に出た消しカスを集め、練り消しを作っている生徒。様々な生徒の様子が見て取れる景色はなんだかおかしくて面白かった。
後ろから回ってくるテスト用紙に自分のを重ねて前へと渡す。全生徒のテスト用紙が先生の所に回ったところで最後の挨拶をし、テストの呪縛から解放されることとなった。
「新田くん、この部分の問題分かった?」
テストが終わると横にいた滝森さんが僕へと話しかけてくる。僕はこちらを向いた滝森さんに合わせるように彼女の方を向いた。彼女から流れる甘い香りが鼻腔をくすぐる。
理系科目のテストが終わる度に滝森さんは僕へと話しかけてくる。一学期の実力テストで彼女が僕に聞いてきた時、僕の説明が分かりやすかったようで以降は理系科目においては僕を頼るようになってくれた。反対に文系科目に関しては滝森さんに教えてもらうこともある。
僕は差し出された数学の問題に関して、彼女に説明をする。自慢ではないが、今回のテストの問題に関しては全て解けていた。ニアミスを考慮しても、100点満点中90点代は叩き出せているのではないだろうか。
僕の説明を滝森さんは真剣に聞く。話を聞きながら頷いたり、首を捻ったりするため彼女が理解できているかどうかはわかりやすかった。だから僕は終始彼女の様子を見ながら説明をする。
「なるほど。ここで数学的帰納法を使うんだね。あー、だから今回の範囲に含まれているのか。すっごいスッキリした」
学校では難関大学を意識したテスト作りがされている。その中でも定番に入れられているものが複合問題。今回範囲となった考え方と過去に習った考え方を合わせることで問題を解くことができると言った問題だ。
「家に帰ったらもう一回解いてみるね」
「もし、また躓いたところがあったら、チャットでメッセージ送って」
「うん、ありがとう」
毎回のことながら説明を終えると滝森さんは笑顔でお礼を言ってくれる。それだけで僕の心は満たされた。この瞬間、『理系科目ができて良かった』と心底思うことができた。我ながら、単純な男だと思う。
「静〜、大変だよ!」
二人で会話をしていると、鬼頭が大慌てで滝森さんへと抱きついてきた。どうやら、テストで散々な結果になってしまったみたいだ。一応、ここに入学できているということは地頭はいいはずだ。ただ、高校でおちゃらけてしまったのだろう。
僕はいつも下校している四人組へと顔を向けた。彼らは相変わらず、仲良さそうに話していた。僕が彼らの方を覗くと鈴木と目が合う。鈴木は加藤の肩を叩くと僕の方を指さした。加藤はこちらを覗くと荷物を持って移動し始める。残り3人も後に続いた。
またいつものようにいじめが始まる。ただ、僕の中で彼らに対する意識が少しずつ変わり始めていた。恐怖であることは間違いない。昨日食らった打撃は今も傷んでいる。この痛みがさらに増すことを考えると胃がムカムカするし、吐きそうになる。
でも、いじめが終わった後、僅かながらに増える『信用スコア』を見ると痛みは快感に変わる。現在の信用スコアは621。いじめがある度に僕の信用ポイントは上昇する。
傷つけば傷つくほど、僕の社会的地位は増していく。社会は僕を救済しようとしてくれる。そして、社会的地位が上がれば、滝森さんの力になってあげられる。
4人組が近づいてくる。僕はその姿を見て、心臓の鼓動が高鳴っていくのが分かった。恐怖なのか、高揚感なのかはわからない。破裂しそうなほど高鳴る鼓動が隣にいる彼女に聞こえていないかは不安だった。
だが、僕の思いとは裏腹に物事は進んでいった。4人組は僕の方に近づいてきたわけではなく、教室の出口へと近づいていただけだった。彼らはいつものように僕を呼ぶ事なく、教室を後にした。
一体何が起こったのか分からなかった。高鳴った鼓動は何事もなかったかのように元に戻っていた。僕は唖然としながら、教室の扉を見つめていた。
何かまだ学校に用事があるのだろうか。それだと荷物を持って移動するのは辻褄が合わない。だとすると、彼らは僕を置いて普通に帰ったのか。
一体なぜ?
「新田くんっ!」
考えに耽っていると後ろから滝森さんの声が聞こえた。
「はいっ!」
いきなりの声に驚愕し、返事した声は裏返ってしまった。滝森さんは一瞬驚くがすぐに穏やかな表情になると、何かをねだるようにこちらを覗いた。その様子に思わず顔が熱くなる。
「この後って、予定あったりする?」
「え、いや。特にないけど……」
「もしよかったら、私たちと一緒に来てもらってもいい?」
「う、うん。大丈夫」
いきなりの誘いに二つ返事で了承してしまう。声を発した後、ようやく理解が現実に追いついた。今、僕は滝森さんに誘われた。彼女の周りを見ると、クラスカーストの高い人物がたくさんいた。彼らの一部は僕が入ることにあまり賛成的ではないのか、少し怪訝な表情を見せていた。ただ、誰一人として滝森さんには逆らうことはなかったみたいだ。
本当に僕が入っても大丈夫なのだろうか。そう思ったが、了承してしまった以上、行くしかない。今からやめると言ったら、それはそれで非難を受けそうだ。
予期しない出来事の連続で頭の中は困惑していた。現実の問題というのは、テストの問題よりも複雑なものだ。
教室の中心部にいる僕からはクラスの半分ほどを見渡すことができる。ようやく終わったと気持ちよさそうに腕をあげる生徒。赤点を取ったのか全身脱力して黒板を凝視している生徒。テストの際に出た消しカスを集め、練り消しを作っている生徒。様々な生徒の様子が見て取れる景色はなんだかおかしくて面白かった。
後ろから回ってくるテスト用紙に自分のを重ねて前へと渡す。全生徒のテスト用紙が先生の所に回ったところで最後の挨拶をし、テストの呪縛から解放されることとなった。
「新田くん、この部分の問題分かった?」
テストが終わると横にいた滝森さんが僕へと話しかけてくる。僕はこちらを向いた滝森さんに合わせるように彼女の方を向いた。彼女から流れる甘い香りが鼻腔をくすぐる。
理系科目のテストが終わる度に滝森さんは僕へと話しかけてくる。一学期の実力テストで彼女が僕に聞いてきた時、僕の説明が分かりやすかったようで以降は理系科目においては僕を頼るようになってくれた。反対に文系科目に関しては滝森さんに教えてもらうこともある。
僕は差し出された数学の問題に関して、彼女に説明をする。自慢ではないが、今回のテストの問題に関しては全て解けていた。ニアミスを考慮しても、100点満点中90点代は叩き出せているのではないだろうか。
僕の説明を滝森さんは真剣に聞く。話を聞きながら頷いたり、首を捻ったりするため彼女が理解できているかどうかはわかりやすかった。だから僕は終始彼女の様子を見ながら説明をする。
「なるほど。ここで数学的帰納法を使うんだね。あー、だから今回の範囲に含まれているのか。すっごいスッキリした」
学校では難関大学を意識したテスト作りがされている。その中でも定番に入れられているものが複合問題。今回範囲となった考え方と過去に習った考え方を合わせることで問題を解くことができると言った問題だ。
「家に帰ったらもう一回解いてみるね」
「もし、また躓いたところがあったら、チャットでメッセージ送って」
「うん、ありがとう」
毎回のことながら説明を終えると滝森さんは笑顔でお礼を言ってくれる。それだけで僕の心は満たされた。この瞬間、『理系科目ができて良かった』と心底思うことができた。我ながら、単純な男だと思う。
「静〜、大変だよ!」
二人で会話をしていると、鬼頭が大慌てで滝森さんへと抱きついてきた。どうやら、テストで散々な結果になってしまったみたいだ。一応、ここに入学できているということは地頭はいいはずだ。ただ、高校でおちゃらけてしまったのだろう。
僕はいつも下校している四人組へと顔を向けた。彼らは相変わらず、仲良さそうに話していた。僕が彼らの方を覗くと鈴木と目が合う。鈴木は加藤の肩を叩くと僕の方を指さした。加藤はこちらを覗くと荷物を持って移動し始める。残り3人も後に続いた。
またいつものようにいじめが始まる。ただ、僕の中で彼らに対する意識が少しずつ変わり始めていた。恐怖であることは間違いない。昨日食らった打撃は今も傷んでいる。この痛みがさらに増すことを考えると胃がムカムカするし、吐きそうになる。
でも、いじめが終わった後、僅かながらに増える『信用スコア』を見ると痛みは快感に変わる。現在の信用スコアは621。いじめがある度に僕の信用ポイントは上昇する。
傷つけば傷つくほど、僕の社会的地位は増していく。社会は僕を救済しようとしてくれる。そして、社会的地位が上がれば、滝森さんの力になってあげられる。
4人組が近づいてくる。僕はその姿を見て、心臓の鼓動が高鳴っていくのが分かった。恐怖なのか、高揚感なのかはわからない。破裂しそうなほど高鳴る鼓動が隣にいる彼女に聞こえていないかは不安だった。
だが、僕の思いとは裏腹に物事は進んでいった。4人組は僕の方に近づいてきたわけではなく、教室の出口へと近づいていただけだった。彼らはいつものように僕を呼ぶ事なく、教室を後にした。
一体何が起こったのか分からなかった。高鳴った鼓動は何事もなかったかのように元に戻っていた。僕は唖然としながら、教室の扉を見つめていた。
何かまだ学校に用事があるのだろうか。それだと荷物を持って移動するのは辻褄が合わない。だとすると、彼らは僕を置いて普通に帰ったのか。
一体なぜ?
「新田くんっ!」
考えに耽っていると後ろから滝森さんの声が聞こえた。
「はいっ!」
いきなりの声に驚愕し、返事した声は裏返ってしまった。滝森さんは一瞬驚くがすぐに穏やかな表情になると、何かをねだるようにこちらを覗いた。その様子に思わず顔が熱くなる。
「この後って、予定あったりする?」
「え、いや。特にないけど……」
「もしよかったら、私たちと一緒に来てもらってもいい?」
「う、うん。大丈夫」
いきなりの誘いに二つ返事で了承してしまう。声を発した後、ようやく理解が現実に追いついた。今、僕は滝森さんに誘われた。彼女の周りを見ると、クラスカーストの高い人物がたくさんいた。彼らの一部は僕が入ることにあまり賛成的ではないのか、少し怪訝な表情を見せていた。ただ、誰一人として滝森さんには逆らうことはなかったみたいだ。
本当に僕が入っても大丈夫なのだろうか。そう思ったが、了承してしまった以上、行くしかない。今からやめると言ったら、それはそれで非難を受けそうだ。
予期しない出来事の連続で頭の中は困惑していた。現実の問題というのは、テストの問題よりも複雑なものだ。



