そして二人には、平穏な日々が返ってきていた。

 「成花、頼みがある」
 「何ですか?」
 「僕は依然として体調が悪い、そして、僕の隊長が戻るには一つ方法があるんだ」
 「分かっています」

 帝からもう訊いた。

 「子をなしましょう」
 「ありがとう」
 「お礼なんていいです。私がしたい事ですから」

 今まで誰にも愛されなかったのに、今は白斗が求めてくれている。
 そんなうれしい事は他にない。

 二人は、本当の意味で共に一夜を過ごした。
 そう、激しい夜を。

 それから一月後の事だった。
 成花は懐妊を果たした。
 その日から白斗の体はどんどんと健康へと進んでいき、
 成花の出産時にはまさに健康体へと戻って行った。

 それと同時に、成花の肌のあざも、目立たぬようになり、成花の失明した目にも段々と光がともってきた。

 「美しい」

 白斗はそう呟いた。

 「本当、ですか?」

 成花は自分の子どもを抱きながら言う。

 「ああ、自慢の妻だよ」
 「一番の誉め言葉です」

 そう言って成花は笑った。

 事実、今の成花は姉の清美よりも遥かに美しい姿になっている。
 自慢できる姿だ。
 
 これから何があるかは分からない。
 しかし、この先二人なら乗り越えられる。
 その、根拠のない自信を感じていた。



 そして、娘を抱き、牢獄へと成花は向かった。
 姉と両親に会いにだ。


 「来たのね」

 牢獄の中に清美の姿はあった。
 美しかった肌はすだれ、本当の意味でみすぼらしくなっていた。
 あの美貌は土語へやらだ。
 だけど、無理もないだろう。今、現時点で十ヶ月は牢で過ごしているのだから。

 「貴方のせいよ」

 清美は、早速成花に対して言い放った。

 「貴方が、私の立場を奪うから」

 清々しいほどの、責任転嫁だ。
 悪いのはあくまで清美たち。それはかわらない。
 何しろ、成花たちを暗殺しようとしていたのだから。

 「私は、子どもも生まれました。いまや夫にも愛され、肌もきれいになりました」
 「それは自慢??」
 「ええ、自慢です。もう、貴方よりも私が上だから」

 そう言って成花はふふふんと笑った。
 前までの自信のなさが嘘かのように、自信満々の笑みだ。

 「今までありがとうございました。姉さま」

 成花はそして、そう言って頭を下げた。

 「姉さまなんて言わないでよ。あなたは使用人の娘よ」
「姉さまは私の姉です。可哀そうなね」

 そう言い残し、成花は牢獄から出た。

 「もういいのか」
 「ええ」

 そして、白斗と共に歩いていく。

 家に帰るために。