「私も実際にこの顔を恨んだことがあります。でも、あなたのその言葉を得られただけでうれしいです」
 「そうか」

 そう言って笑った。
 一時でもこの人を疑ってしまったことを恥ずかしく思う。

 「好きです」

 そして、その言葉を発した。

 「大好きです」
 「そう言ってくれてありがとう」
 「ええ、貴方の妻になります」

 決心がついた。
 不安材料が消えた今、その言葉を発するのに何の不安もない。

 「ありがとう」

 そう言って吐くとは成花をぎゅっと抱きしめた。

 「それで、婚姻式はいつにする?」
 「気が早いですよ」
 「うっごめん」
 「でも、早い方がいいですね」
 「そうだな」

 そして、食事場はいつの間にか結婚という話で盛り上がりを見せた。

 その後、凛に結婚するという旨を伝えると、「そうですか」と、ほっとした顔を見せた。

 「ところで、少しいいか?」

 寝床に白斗がやってきた。
 もう寝ようとうとうとしていたところだったから、思わず眠りから覚めてしまった。

 「今度の婚姻式、お前の元家族も呼ぼうと思うが、どうする?」
 「あの人たちを?」

 あの人たちがどう思ってるかだなんて想像に易い。
 きっと逆恨みをしているだろう。
 正直、怖い。

 「どうしてですか?」

 おずおずと訊く。

 「あいつらがお前を攫おうと画策しているという噂がある」
 「言ってましたね」
 「だから、先手を打つ。決定的な証拠を見たいんだ」

 そして、成花は顔をゆがめる。

 「君には酷な選択になってしまう可能性がある。それはすまないと思っている」
 「かまいませんよ」

 成花は食い気味に言う。


 「私は、あの人たちを嫌っています。ここで、私の晴れ姿を見せて嫉妬させるのもかしこい選択じゃありませんか?」
 「お前は小悪魔だな」
 「今までずっと我慢してきましたから」

 そう言って笑った。
 実際に性格が悪いと思われるかもしれない。
 しかし、あの人たちが悔しがる姿を見るのもまた一興だと思ったのだ。

 「せっかくだから、今日は一緒に寝ないか?」
 「え?」

 成花は戸惑う。だが、すぐに口元をくいっと上げて。

 「かまいませんよ」

 そう言った。

 そして二人で布団にくるまる。
 その背中の熱が強くて成花はドキドキとする。

 「私……」
 「どうしたんだ?」
 「いま、こうしていられて幸せです」
 「それは良かった」

 そう微笑む顔。心臓が何個あっても足りないかもしれない。

 「見てください」

 そして、成花は寝間着姿を軽くほどく。
 そこには数多くのあざがあった。

 「私はなんでここに、こんなにあざがあるのかわからなったんです。昔火傷をしたなんて記憶もないですし、そう言う話も聞いたことがありません。
 でも、今ここで貴方に会う為と知れば嬉しさでいっぱいです。これを見ても嫌わないでくださいますよね」
 「ああ、もちろんだ。僕は君と出会うために生まれてきたんだから」

 そう言って白斗は数回せき込む。

 「大丈夫ですか?」
 「ああ。最近よくなる。だけど心配してもらわなくても大丈夫だ」
 「なら、良いのですけど」

 そして二人は隣同士で寝た。
 二人で手を繫いで。
 夫婦の営みはまだ婚姻してないから早い。しかし、一緒に寝るという感触は強かった。

 こうして婚姻式が行われることとなった。



 ★★★★★

 「なによこれ」

 清美は手紙を乱雑に床に投げ捨てた。それは、白斗と成花の二人の結婚式の招待状だ。
 書かれている文章も悪魔的な物だ。

 「なんで私があの子のために行かなきゃならないの?」

 清美が吼える。
 全く意味が分からない。


 「ええ、そうだわ」首肯するのは和美。

 「なぜ清美じゃなくてあの子を選ぶのかしら。しかもどうやら私の実の娘だという事はばれてるみたいだし」

 そう言って爪を噛む。
 この一月で顔のしわが増え、髪の毛はさらに白みがかかっている。
 この一月イライラが止まらなかった。

 しかも自分たちの送った刺客は帰ってこなかった。
 事故を装い、誘拐させ、あとは家の地下牢に閉じ込め、死んだことにしながら管理しようと思ったのに。
 絶望させ、許しを請わせようと思ったのに。

 「この招待。断ってもいいかしら」
 「だめよ。弱みを握られているもの。でも、ただで行くわけじゃないわ」
 「なに? お母さま」
 「いい? あの子を亡き者にするのよ」

 「亡き者にするだと」

 その会話に加わっていなかった清治が怒鳴る。

 「ええ、あの子さえ亡くなれば、全ては丸く収まるもの」

 そしてふふと笑う。

 「あの式典で殺すわよ。あの子を」

 その言葉に清美もうなずく。
 段々と戦いの火ぶたが切られていく。