余命僅かな君との最期の日々

 そして早速鈴奈にコンビニのようなところに連れていかれた。

 「ここではね、三ポンドセットみたいなものがあるらしいの。それを買いたいってわけ」

 そして彼女は商品を指さした。

 「これは……サンドイッチと水と……ポテチ??」

 ご飯とは似つかわしいものが入っているんだが。

 「これ買いたかったの」
 「いや待て待て待て、何でポテチなんだよ」
 「? 知らないよ。開発者に訊いてよ」
 「そうは言われてもだな」
 「まあいいじゃん。買おうよ。せっかくだしさ」
 「ああ、わかったよ」

 よくは分からないが、とりあえず俺たちはそれを買って、そのまま進んでいく。
 サンドイッチを食べたが、まあまあの出来だった。おいしくもないが、不味くもない。いたって普通の味だった。ちなみにポテチはとっても美味しかった。やっぱりどこの国でもポテチは美味しいものだな。

 次なる目的地はリバプールだ。バスで揺られながら進むこと一時間半、リバプールに着いた。リバプールは色々な意味を持つ都市だったはず、一つ目の意味はビートルズの出身地、二つ目の意味は奴隷貿易の都、三つ目はサッカーチームの本拠地だ。

 俺たちは今日一日で全部回りたいと思っている。
 サッカーは午後三時から始まるらしいので、鈴奈によると、それまでにビートルズ記念館と、奴隷博物館に行きたいと思っているらしい。
 そうは言っても俺はサッカーなんてよくわからない。
 Jリーグなんて普段は見ないのだ。


 「私ね、実はビートルズの曲ってほとんど聴いたことないんだよね」

 そう、ビートルズ記念館に入る直前に鈴奈が言った。

 「ならなぜここを選んだんだ?」

 全然知らないバンドの記念館に行ったって面白くはないと思うが。

 「だって、楽しそうじゃん。死ぬ前に一回はそう言うバンドに触れてみたいし。それにね、この前一通り聞いてきたから」
 「へー。それは偉いな」

 いつの間にそんなの聴いてたのか。
 勉強熱心なことだ。

 「そう言う浩二君はどうなのよ」
 「俺か、うーん。まあ、たくさん聴いてるってわけではないけど、数曲は鼻歌で歌えるぞ」
 「え、聞かせて?」
 「今ここで? ビートルズファンに怒られるだろ」

 ビートルズはそんなんじゃないとか言って怒られそうだ。ただでさえ俺は英語がしゃべれないのに。
 そして鈴奈にビートルズの歌を歌わないことを許してもらった後、俺たちは中に入っていく。

 その中にはビートルズの遍歴が書かれており、そのビートルズに関する沢山の物が置かれている。
 ビートルズの初ライブ時の場所を再現した部屋や、ジョンレノンが最後に弾いたピアノ、などの様々な展示があり、俺も鈴奈も満足だった。
 正直英語は分からないので雰囲気を楽しんでいたのだが。

 そして、出た後、少しだけベンチでビートルズの曲を聞いた。
 ビートルズのことについて知っていったため、ビートルズの曲に対するイメージが変わっていってた。
 いい曲だ。そう思った。


 そして次に向かった場所は奴隷博物館。ここはイギリスの負の側面が強い場所だ。人類にとっての負の歴史、奴隷貿易のその実態が書いてあるのだ。

 最初は軽い気持ちで入って行った俺たちだが、中にあるのは恐ろしいものだった。
 奴隷が泣き叫びながら船で運ばれる様子や、その奴隷たちにくわえられた残虐な仕打ちなどが書いてあり、いかにも恐ろしいものだった。それを見ているこちらまで、悲しく辛くなるほどのものだった。
 確か、奴隷に対する仕打ちって貨物みたいだったって聞くしな。

 俺だけでなく鈴奈もそれは感じていたらしく、途中で、俺の手を強く握ってきた。

 「何だよ、怖いのかよ」
 「怖いとかじゃないよ。ちょっと奴隷の人たちの境遇に同調しちゃってね。つらい」
 「ああ、こんな悲惨な目に合っていたのかと考えると、他人事じゃいられないな」

 俺たちの先祖もこんな目にあう可能性もあったと考えればな。たまたま黒人の方々が犠牲に名tぅ他だけで、日本人が犠牲になっててもおかしくなかったのだ。

 「はあ、わたしさ、私も不幸だと思ってたけど、こういう人たちのことを考えたら私も不幸じゃないのかもね。だって生きてる間は幸せなんだもん」
 「たしかにな。俺たち幸せだ」
 「えー、否定してよ。お前が世界で一番不幸だって」
 「……どう考えてもこの人たちの方が不幸じゃねえか」

 どう考えても、俺たち幸せだなっていう流れだったじゃねえか。

 そして俺たちは奴隷博物館を堪能した後、レストランでご飯を食べて後、サッカースタジアムに着いた。
 そして、席に座った後、

 「しかし、お前がサッカー好きなんて思ってなかったよ」
 「え? 全然好きじゃないよ」
 「どういうことだ?」
 「でもさ」

 彼女は俺の質問などなかったかのように「初めてのサッカー観戦が、こういうところのサッカーって良くない?」と言ってきた。質問の答えになって無くねえか?
 まあだが、

 「まあ、俺も観るのは初めてだしな。気持ちは分かる」
 「えへへ、いいでしょ? 初めて兼最後のサッカー観戦が日本じゃなくてイギリスなんてさ」
 「まさかお前、理由ってそう言う……」
 「あ、そろそろ始まるよ?」
 「あ、そうだな」

 鈴奈の言葉に従い、スタジアムを見る。すると、選手たちが集まってきて、そして試合が始まった。
 そのサッカーの試合はどんどんと過熱していった。ボールがどんどんと渡っていき、それを奪おうとする人も来て、ボールがぐんぐんと渡り合う。そしていつの間にかこっちのチーム(リバプール側)がシュートを決めようとするが、敵のチームの選手によってそれは受け止められてしまった。

 そして点が入らないままシーソーゲームが始まって行く。先に点を入れたチームがそのまま試合を持っていきそうな緊張感だ。
 そして前半終了間際に試合が動いた。こちら側のチームのPKとなったのだ。これでチャンスが訪れた。
 隣を見ると、鈴奈が手を合わせて祈っている。
 そして彼女の祈りが届いたのであろうか、シュートは見事に決まり、一対〇となった。

 「やった!」

 そう、鈴奈がハイタッチしようとしてくるので、俺もそれに合わせてハイタッチする。

 「いや、気持ちいいね」
 「そうだな」
 「いいよねこういうの。私サッカーファンになろうかなあ」
 「お前はサッカーファンになったとしても無駄だろ」
 「無駄じゃありません。まだ一ヵ月程度ありますからね」
 「それでもたったの一ヶ月だろ」

 サッカーのことはよくわからないが、シーズンは終わらないと思う。

 「休憩何分くらいなんだっけ」
 「んーと、十分けらいだったかな」
 「そんなに短いの!?」
 「らしいね」

 そして後半戦、前半最後のゴールで浮かれていた俺たちはすぐに現実を思い知る。
 後半戦開始三分であっさりとゴールを決められ、リードが無くなった。さらに悪いことに、その後またゴールを決められる。前半戦には優勢だったのが、後半九分ですぐに不利な状況となってしまった。

 「うぅ、人生最後のサッカーなんだから勝ってほしいのに」

 そう、鈴奈は文句を言う。サッカーファンになりたいって言ってなかったか?

 だが、確かに後半戦になってから勢いというか、主導権を取られている感じがした。防戦一方、なかなか相手の陣地にボールを運ぶことが出来ない。
 何とかして主導権を取り返しに行きたいところだが、こればかりは外野の俺たちには祈ることしかできないのが悔しいところだ。
 そしてしばらくシーソーゲームが続く中、俺は少しずつ焦る。それは鈴奈も同じなようだ。顔に焦りの色が見え始めている。

 そしてそれを俺たちはただ見ながら祈る。すると、俺たちの祈りがとどいたのだろうか、だんだんと流れがこちらに向いてきた。というのも、こちら側のチームの攻めがつながっていくようになったからだ。
 こちらのチームの選手がどんどんとパスをつなぎゴールゲートにボールが運ばれる。
 そして、俺たちはハイタッチした。

 その後は一進一退の攻防が続き、そのまま試合終了五分前になった。俺たちは相変わらず緊張の面持ちで試合を見る。
 今ゴール前でこちらのチームが押している。このままいってくれたらいいのだが……
 そしてアディショナルタイム。俺たち側のチームが敵陣に絡みついた。この機を逃せばもう時間切れになる。

 こちら側の選手たちはパスを回しながらゴールするタイミングを計っているようだ。
 そして、その中にいた選手がボールを蹴った。

 「あれ、日本人?」
 「みたいだな」

 だが、そのボールはぎりぎりではじかれる。だが、まだ攻めは切れていない。
 零れ球を拾った選手が、日本人選手にパスを回し、そして彼が決めた。

 「やったー!!」
 「よし!」

 俺たちはハイタッチをする。そしてその後、相手チームの攻めを切らして、リバプール側のチームが勝利した。

 「楽しかったね」

 そう鈴奈が言った。サッカースタジアムから去っていくのが悲しいくらいだ。いまだにあの興奮が抜けていない。今でも不思議な感じがする。さっきまであの熱気の中にいたということが。

 「ああ、スポーツ観戦なんて初めてだから、こんなに楽しいとは思ってなかった」
 「ふふん、私のおかげだね」
 「そうだな。感謝だ」
 「ふふふーん」

 鈴奈め、相変わらず調子に乗ってやがる。
 まあ、そんな鈴奈もかわいいのだが。

 そして、ご飯を食べに行き、その日はホテルに帰って寝た。
 まだまだ旅行は終わらない。そう思うと明日が楽しみだ。