余命僅かな君との最期の日々

 そして翌週。俺たちは旅行へと旅立った。
 向かう先はイギリス、決して安くはないお金だ。
 しかし、彼女はお年玉をためていたらしく、別にお金に困るようなことはないらしい。
 そもそもお金は来世には持ち出せないからという事らしい。

 集合場所は、羽田空港だ。そこからマンチェスターまで行く予定となっている。
 実に十時間以上の飛行機旅。今からもう心配だ。

 「いやー、これが飛行機ね。初めて乗るわ」
 「ああ、俺もだ」
 「ね、緊張するね」

 そう、顔をのぞかせる鈴奈、心臓が悪い。

 「早く出発しないかな? 私、飛行機の離陸が楽しみ!! 不思議な感覚がするって聞いてるし」
 「そうだな」
 「それに、映画観れるし」
 「まさかそっちが本命じゃないだろうな?」
 「まさか、離陸の方が楽しみだよ」

 そして、二人でだべりあっているうちに、シートベルト着用とか、緊急脱出、の方法とか色々な放送が始まる。

 「ねえ、浩二君。この英語わかる?」

 機内放送では日本語も流れるが、基本は英語だ。

 「わからねえな」
 「えー、今からイギリスに行くのに?」
 「うるせえな」

 「私に任せなよ。翻訳とかはさ」

 そう胸を張る鈴奈。確か英語の点数は九十八点とかだったけ。

 「あ、飛行機が動くよ」

 そう言って鈴奈は窓の外を見る。
 静かに、ゆっくりと動いていく。
 最初はゆっくりなんだな。

 そしてある瞬間から、一気に加速し始めた。

 「おお!」

 鈴奈のテンションが高くなっていく。

 「おおおおお、いよいよだよ、浩二君」
 「そんな騒ぐことでもねえだろ」
 「ええー、いいじゃん!!!」


 そして、飛行機は地面から離れ、空を飛び始めた。

 「うわあああああ、不思議な感じだああああああああ」


 そう叫ぶ鈴奈。
 無邪気で楽しそうだ。

 「うわあああ、どんどん町が小さくなっていくね。町がゴミのようだあ」

 いや、テンション高すぎだろ。鈴奈って小学生だったか?
 某アニメ作品の名言を言ってるし。


 そして、いよいよ雲を突き抜けて、機体が安定していった。
 そうして、鈴奈のテンションが落ち着きを見せる。

 「ねえねえ、浩二君。映画、一緒のやつ見ようよ。感想言いあいたいしさ」
 「ああ、そうだな。どんな映画を見る?」
 「そうだなあ。恋愛ものもいいし、ファンタジー者もいいよね。うーん。迷うなあ」
 「早くしないとみる時間ないぞ」
 「えー。十時間くらいも乗るんだから何見てもいいでしょ?」
 「うん、まあそうだが」
 「じゃあさ、これ見ようよ『君の遺影を取りたい』これさあ、余命いくばくな人の物語なんだって」
 「お前、お前の立場でそんな映画を見るなよ」

 他人事じゃねえし。

 「ええ、いいじゃない。それにそんな映画を見たらさ、私にやさしくなると思うし」
 「お前、俺に気を遣われたらいやだったんじゃないか?」
 「まあそうだけどさ。でも、違うじゃん」
 「何が?」
 「まあでも、見たい理由の一番はこの作品面白そうだからだけど」
 「じゃあ最初からそう言えよ」

 面倒臭え(くせえ)

 そしてその作品を見た。

 その映画は主人公の女の子が急にクラス一のイケメンに声をかけられるというシーンから始まった。女の子は動揺して「なんで?」と、訊き返す。その理由は彼が余命僅かで、彼は自分が生きた証を残したいということで、彼女にお金を払って、色々な場所で彼女に写真を散ってもらうというものだった。

 序盤は普通のラブコメと言った感じで、女の子の動揺が描写されていた。主に、自分とは不釣り合いなイケメンとのラブコメの中で、女の子が自分を卑下したり、なんで私なんだろうと思ったり。だが、後半になるにつれ空気感が変わって行った。男の子がだんだん元気がなくなって行ったのだ。

 最初の方のシーンで元気そうな感じを出していた男の子が。弱っていくシーンは妙にリアルで、観ているこっちまで悲しくなっていった。そして最終シーン、彼がこの世を去ってから初めて自分の恋心に気づくシーン。そのシーンは涙なしには見れなかった。もう彼女が男の子の姿を見るにはもう写真でしか見ることが出来ない。
 その写真を見て彼女は大号泣したのだった。

 「はあ、いい映画だったね」

 そう、映画が終わった後鈴奈がそう言った。泣きそうな顔をしながら。

 「確かにな。まさかあんなにいい映画だとは思わなかったよ」

 見る前の想定を裏切ってくれた。見る価値のある映画だ。

 「そうそう。いいよね、あの映画」
 「どのシーンが良かった?」
 「やっぱり、あの『俺がお前の写真を気に入ったからに決まっているだろ。他の誰でもなく、お前の作品がよかったからこそ、お前に頼んだんだ!!』っていうシーンが良かった」
 「あそこ、男の子の良さが詰まっていたな」
 「うん……」

 小さい声で、鈴奈は頷いた。

 「あとは俺の好きなシーンだが、俺はやっぱり最後のあのシーンが好きだったな。女の子が写真を抱いて大号泣してたシーン」
 「ああ、浩二君が未来で同じことになるあのシーンね」
 「俺も同じことやるのかよ!?」

 泣く前提にされてるのがムカつく。

 「だって、私が死んだら泣くでしょ?」
 「まあ、泣くけどよ。そんなブラックジョーク今はいらねえだろ。感想言い合う時間だったんじゃなかったのか?」
 「私はこういうジョークを言わないと死ぬ体質だからさ」
 「そんなことはねえだろ」

 どんな体質だよ。

 そして、次にテレビで将棋をすることになった。

 「私ね、前にテレビで将棋を指す姿見て、少しだけやったんだよね。ほら」

 それを見たら五級と書いてあった。そこそこはやってるんだな。

 「というわけでやろう!」
 「いや、ルール分からないし」
 「教えるから!!」

 そう言われて、鈴奈にルールを教わる。鈴奈は教えるのが上手かった。おかげですぐにルールを覚えることが出来た。

 「じゃあ、やろう」

 そして俺たちは将棋を指していく。まずは角の先の歩を開けていく。これは彼女が手渡してくれた、『坂上五冠の序盤の動かし方』と言う本に書いてあった方法だ。
 鈴奈からハンデとして貰ったその本を読みながら指していく。そしてうまく本の中に書いてあった矢倉という囲いに囲っていく。
 そのままそれに合わせて攻めていくが、しかし、彼女の囲いは斬新だ。硬い囲いにせずに、どんどんと歩兵と銀将をあげていっている。
 本に書いてない攻め方だ。

 「ふふふ、これが私の戦法だよ。恐れ入った?」
 「俺は恐れ入ってないけどな。てか、俺は初心者なんだから俺がやりやすい感じでやってくれよ」


 「やだよ。私は私がやりたい感じでやるの」

 そう言って悠々と指していく。本の中の方法と違いすぎて、もう混乱してきた。
 もう何をしていいか、何をしたらいいのかわからなくなってきた。
 結果、俺は負けた。あっさりと。

 「浩二君弱いね」
 「うるさいなあ」

 初心者なんだから当たり前だろと言いたい。
 そして数回やった後、オセロやテトリス、さらにはチェスといった多種多様なゲームをした。

 途中でイスタンブールに着いて、飛行機の乗り継ぎをした。その際に三時間程度の待ち時間が出来た。その間暇だったので、鈴奈とイギリスでやりたいことや、そこでやることの確認などに時間を使った。
 鈴奈と話していると、いつの間にか三時間経っていたようだ。楽しいと時間は速く過ぎるものだな。
 そして次の飛行機でも映画を観たり、ゲームをしたり楽しんだ。
 そしてあっという間にマンチェスターに着いた。