余命僅かな君との最期の日々



 そして翌日、俺は朝起きてすぐに鈴奈の家へと走って行った。

 「鈴奈」

 インターフォンを押し、俺は叫ぶ。いてもたってもいられなかった。
 

 「なんか今日は朝からだね。どうしたの?」
 「いや、なんかな夢を見たんだ。悪夢を」
 「それで怖くなったの? 子供だねー浩二君」
 「ああ、子どもだな」
 「え? 否定しないの?」

 驚いた様子の鈴奈。お前は一体俺のことをどう思っているんだ。
 まだまだ発達途中の子どもだ。情けないことにな。


 「否定しないさ。それで鈴奈に会いたくなったんだ」
 「えー、うれしいこと言っちゃって。冗談でもうれしいよ」
 「冗談じゃないんだがな」

 俺は鈴奈とは違い、冗談でそんなことは言わない。

 「……じゃあ、どこか行く?」
 「ああ」
 「どこ行く?」
 「そうだな。鈴奈の好きなところでいいよ」

 まあ、また遊園地とか言われたら全力で止めるが。

 「えー、落ち込んでる浩二君を慰めたいだけなのに、もしかして私に気を使わせてる? 寿命のことで」
 「いや、そうではないが」
 「じゃあ、浩二君の行きたいところに行ってよ」
 「……ああ」

 行きたいところ。少しだけ考えた。その結果ゲームセンターに行くことにした。理由としては、ゲームセンターは、華ばなしい場所だから、現実を忘れられるのではないかという事だ。
 鈴奈の寿命がどんどんと迫っているという恐怖や、康生のことなどの現実を。

 ゲームセンターに入ると、色々なゲームがあった。

 「ねえ、浩二君。これしようよ」

 鈴奈が指さしたのは太鼓ゲームだった。リズムを合わせて、太鼓をたたく。所謂リズムゲームだ。
 
 「鈴奈、それ得意なの?」
 「得意だよ。浩二君には勝てる自信があるね」
 「ならやってみるか」


 ゲームを開始する。すると、曲選びをしなければならない感じだった。鈴奈が一つの曲にカーソルを置き、「これでいい?」と言った。それは、有名な曲だった。よく店内BGMや、動画のバックミュージックに使われている。


 そして互いに太鼓をたたく。俺もなかなかうまいという自負があった。
 だが、鈴奈は俺よりもはるかにうまい。
 実際、ミスはあれど、五十回に一回程度のミスだ。しかも百コンボを何回もやっている。
 しかも俺は普通の難易度なのに対し、鈴奈は一番難しい鬼ムズで、やっているというのに。

 なんていうやつと、太鼓の名人で勝負したのか。
 そして、それからも鈴奈の勢いは止まらない。
 太鼓の名人に続き、クレーンゲームでもその才を遺憾なく発揮している。乱獲状態だ。
 ホワイティプロジェクトは中々下手だったのにな。

 鈴奈曰、実はゲームセンターには小学生の時から入り浸っていたそうだ。
 そりゃあ上手いわけだ。

 そしてその後、俺たちは併設されているカラオケに行った。カラオケも外界から分離された場所。現実を忘れられる楽しい場所だ。
 一応この前にも言っているのだが、その時は三人だった。

 歌を入れる。デュエット曲だ。今回はこれを一人で歌う。鈴奈が「私その曲知らないんだけど」と言ったので、「一人で歌うから」と返しておいた。
 本来デュエットなので一人で歌うには忙しい。だが、きちんと生きているという感じがして楽しかった。

 そして俺が歌い終わったタイミングで、鈴奈も曲を入れる。

 「それでさ」

 歌の途中に彼女がふと言った。

 「悪夢って何だったの?」
 「……」

 やっぱりツッコまれるか。恥ずかしいからあまり言いたくはないのだが。

 「……どうしても言わなきゃだめか?」
 「言わなくてもいいけど。言ったら私が喜ぶかな。……まあ、私のところに走ってくることだし内容は大体察せるけど」
 「そんなの、俺に友達がいないからお前のところに行ったんだろ」

 図星だが、認めない。

 「……ふーん。そうなんだ、でも顔でもうばればれだよ。だって、赤いもん」
 「赤くねえよ!」

 だが、もう隠し通せないな。

 「今日、お前と康介が遠くに行ってしまう夢を見たんだ」
 「康介?」
 「ああ、俺の弟だ。まあ腹違いだがな。あいつがいつも親にしたくもない勉強を押し付けられてるんだよ。俺は、あいつを置いて家を出てしまった」
 「……そのことを気に病んでるってことは、私を見たというのは、もしかして私が病気になったことを自分のせいにしてるってこと?」

 とぼけた様子で鈴奈が訊く。

 「いや、違う。違うくはないか……確かに俺はそれについて罪悪感を持っている。確かに病気は仕方ない部分がある。でも、俺にも何か出来たんじゃないかって」
 「いやいや、私のために電話かけてきてくれたでしょ。あれで十分よ」
 「でも、俺は本当にお前を楽しませられてるのかわからなくなってきて」
 「分からなくって。私は楽しいよ!! 死んでも後悔しないくらいには」

 そう言って笑う彼女の顔を見ると、考えるのが馬鹿らしくなってきた。
 そして俺たちはその後気兼ねなく歌いまくった。

 「はあ、楽しかった」

 そう清々しい顔で鈴奈がつぶやいた。それに合わせて俺も「すごい楽しかった」と言った。

 「良かった。お互い楽しくて」
 「そうだな」
 「じゃあ、今度は夏休みの計画立てないとね」
 「おう」
 「それで、その康介君の話だけど」
 「……」
 「会いに行かない? 一人じゃ怖いなら私と二人で」
 「い、いやでも、迷惑をかけるわけにもいかないし」
 「そんなことないよ。それに私は何も残せないしね」

 そうか、これは鈴奈のやさしさか。自分が死んだ後にも俺に何かを残せるように。

 「分かった。行こう」