余命僅かな君との最期の日々

 「はい」

 女性が出てきた。40台後半くらいだろう。
 おそらく鈴奈のお母さんだ。

 「鈴奈さんのお見舞いに来ました」
 「はい、どうぞ」

 そして俺は彼女の部屋へと通された。

 「それで、もしかして鈴奈の彼氏だったりする?」
 「……違いますよ。ただの友達です」
 「そう、まあでも来てくれてよかったわ。あの子も大分暇そうにしてたしね」
 「そうですか」

 それを聞いて少しだけ嬉しく思う。

 「あ、浩二君。ヤッホー!!」
 「ああ、やっほー」
 「来てくれたんだ」
 「まあ、俺も寂しかったしな」
 「それ、ツンデレ?」
 「いや、ツンの部分がないツンデレだ」
 「うれしいこと言っちゃって」

 そう言って鈴奈は楽しげな顔を見せた。

 「それで、今はどんな感じだ?」
 「んー結構大丈夫かな? まあ、精神は大丈夫じゃないけど」

 やっぱり大丈夫ではないのか。
 鈴奈の貴重な一週間が奪われた。
 腸が煮え渡る思いだろう。

 「だから私、ストレス解消してもいいかな? 浩二君を殴って」
 「そんな冗談を言えるんだったら大丈夫という事か」

 いつもの鈴奈だ。

 「全然大丈夫じゃないよ!」

 そう言って鈴奈は俺の背中をパンパンと、強く叩いた。理不尽だ。
 でも、ベッドの近くのごみ箱を覗くとティッシュのゴミが多く、鈴奈の目も軽く赤みがかっている。
 きっとつらかったのだろう。

 そしてしばらく話した後、「私、ゲームがしたいなあ」と、鈴奈が言い出した。

 「ゲームって意外だな」
 「まあね。こういう状態だから取れる選択肢よ」
 「じゃあ、ゲーム用意してくれ」
 「えー、病人にやらすの?」
 「じゃあ、お前の部屋を荒らしてもいいか?」
 「いいよ。宝探しゲームみたいで楽しいから。それで私はその光景をベッドの上から眺めるの。王様みたいにね」
 「嫌な王様だな」
 「えへへ、探してみよ!」

 そんな彼女の悪乗りを無視して、部屋の中を探る。とはいえ、女子の部屋で探してもいいものなのだろうか。なんとなく怒られそうな気もする。
 そして俺は、近くにあった棚を探る。

 「いいセンスだね。そこを探すっていうのは」と、言われた。

 偉そうな声で。

 「てことはそこにあるのか?」
 「どうかなあ、ある可能性もあるし、ない可能性もある。その真実は私だけが知ってるんだよ」
 「ほう、俺もそれを知りたいところだがな」
 「えー、教えたら面白くないよね。自分の力で探すからこそ価値のあるものなんだよ」
 「……」

 やばいな面倒くさい。そろそろイライラしてきた。これ一上続いたら鈴奈の家に行ったことを後悔しそうだ。

 そして案の定、棚の中にはない。
 続いて、ベッドの下を探す。鈴奈から「えー私がそんなところに隠してると思ってるの?」と、煽り口調で言われたが、俺は無視して探す。ベッドの下、机の上のプリントの中、あらゆるところを探したが、一切見つからない。

 「お前、もしかして」

 ある可能性を考えた。鈴奈ならやりそうな手だ。

 「何?」
 「セクハラとかで訴えてくれんなよ?」

 そして俺は彼女の布団の中を探す。彼女の抵抗を無視して。

 「え? ちょっと? 変態!?」

 何と言われようが、先に仕掛けたのはあっちだ。

 「あったじゃねえか。お前」

 そう、俺はゲーム機を鈴奈のパジャマのズボンのポケットから見つけた。やっぱり隠し持っていやがったか。

 「そりゃあ見つからないわけだわ。こんなところにあっちゃな。それでどうしてくれるんだ? お前は俺をもてあそんだことになるが」
 「えー。すみませんでした!!!」

 そう、彼女はベッドの上で俺に向かって土下座した。

 「本当に悪意しかなかったんです。見つからない浩二君を煽りたかっただけで」
 「本当に悪意しかないな。驚くほどに」

 そんな謝罪初めて見た。

 「ごめんなさあああいい。という訳でゲームしましょう」
 「切り替え速いんだよ。全く」

 そして俺たちはカートレースゲームをすることにした。

 「私はこのゲーム好きだから覚悟しといてね」
 「ああ」

 そしてゲームが開始された。俺は安定をとって、加速の速いキャラにした。それに対して彼女はスピードの高いキャラだ。

 「そのキャラを選ぶなんて、初心者向けだよ?」
 「良いんだよ。扱いの難しいキャラを上手くないのに使って自滅するよりは」
 「私は自滅しないよ」
 「それは……どうかな?」

 そしてレースが始まった。俺のキャラは上手くインコース攻めして、速度を早めていく。それに対して彼女は……うん。カーブを曲がりきれずにぶつかって減速を繰り返している。

 「その車やめた方が良いんじゃねえか?」
 「いやいや、まだこれからだよ!」

 鈴奈はアイテムを使い急加速してみせた。

 「でも、それで俺に勝てるか?」
 「大丈夫だよ。私の真価はここからだよ」

 そう言って、鈴奈はなんとか連続カーブを回り切った。

 「さっきは久々だから調子が出なかっただけ」
 「ふーん。でも油断するとまたああなるぞ」
 「大丈夫もう油断しないから」

 と、猛スピードで猛追してくる。正直言って速いな、そろそろ抜かされそうだ。

 「お」

 そんな時に、上から雷が降ってきた。全員に当たる雷だ、くらったらアイテムを使った人以外の全員雷を喰らってしまう。

 「お前はその車だから復帰が遅いけど、俺は早いんだよ」

 そう言ってまたスピードを上げていく。そして、いつのまにか俺の独走状態になる。

 「これだから俺は加速重視なんだ」

 そしてそのままゴールした。

 「あー、悔しい! もう一回!」
 「お前病人じゃなかったのか?」
 「もう病気はほとんど治ってるから」
 「あー、そうか。じゃあそれは言い訳にはできんな」

 そして十レースほどやった。俺の六勝四敗だ。

 「あー、負け越し悔しいな。またリベンジしたいな。てかして良い?」
 「それは良いに決まっているだろ」
 「あー、私もこんな感じで浩二くんと一生カードレースゲームだけできたらなあ。本当死神さん。あなたのせいだからね。だって死神さん曰く、それ以上私のせいにしたら寿命短くするだって。口が上手いね」


 「……そういえば補習テストっていつからなんだ?」

 「えっと、来週の月曜と火曜にやるんだって。二日で十二個という鬼畜さ。マジで病人の気持ち考えてないよね」
 「ってことは鈴菜にとっての夏休みは来週の水曜からか」
 「まーねでも、水曜日にもテスト取りに行かなきゃならないからその後かな」
 「……勉強ちゃんとしとけよ」
 「分かってるって!」

 その後もう数試合して、家に帰った。