そして不味い食事を済ませた後、部屋に戻り、すぐに彼に電話をかけた。彼なら私の愚痴も笑って聞いてくれるだろう。
「どうした? 愛香」
その優しい声が飛んできた。それを聞くだけでストレスが軽く吹き飛ぶ。
「あのね、茂くん。私殴られた。お父さんが家帰ってきたら機嫌悪くて、それで理不尽に殴られて怖かった」
心の内をすべて話す。乱雑に組み合わされた言葉で。本当に、つらい気持ちを吐き出した。それを聞いて彼はただ一言「つらかったな」と言ってくれた。こんな地獄に一人味方がいる。それだけで心が安らぐ。
私はやはり彼がいなかったらこの世にはいないだろう。もしあの日、別の生徒が自殺を止めていたとしても、その後でやはり死を選んでいただろう。
でも今は死を選ぶ気はない。それだけ彼の存在が私にとって心強いという事なのか。
もう今すぐに彼に会いたい、彼の膝元で泣きたい。でも今それはかなわない願いだ。
それだったらせめてと、長電話をした。彼も私のことが好きだと言っていたし、これくらいは許されるだろう。
「じゃあまた今度」
「ああ」
一時間が過ぎたころ、流石に話し過ぎかなと言うことで電話を終了する運びとなった。電話を止めたくない。でも、止めなければだめ。そのことはわかっている。これ以上の電話は彼を疲れさせてしまう。ただ、
「最後に、これだけは言いたい……今日は楽しかった。ありがとう」
その感謝の気持ちを。
「ああ、それは俺もだ」
そして、そのまま宿題をした。面倒くさそうな宿題はいつも放置するが、今日の私は、少しやる気が残っていた。
そし宿題をした後、すぐに寝た。
「おい!」
その声で意識を夢の中から現実に戻された。
「先に寝てんじゃねえよ。愛香!」
「え? え?」
状況が呑み込めない。これは私が悪いのだろうか……。ああ、そうか、そういう事か。今日はお父さんの無茶ぶりに応えなければならないという事か。
「愛香。ここはお疲れのお父さんに対して肩をもむとか、マッサージをさせてくれるとか、サービスをするべきだろ。お前みたいなただ学校で授業を聞いているだけでいい学生はなあ」
「……ごめんなさい」
「だから、背中のマッサージをしろ。ほら、指示待ち人間じゃあ生きていけねえぞ」
何で寝ていたのに、そんなくだらないことで起こされなきゃならないのか。だが、それに従うほかない。仕方がないので、背中を押す。昨日肩を揉んだというのに。
「もっと強く。強くだ!!」
「……はい……」
もっとやる気が出るように言ってくれたらいいのに。そしてそんな感じで一時間背中をマッサージしたらようやく帰ってくれた。
これでようやく眠れる。



