絶望の果てに君に出会えた

 そしてついに二人で住む家を契約した。
 少しだけ学校には遠いが、それでも三〇分もかからない距離だ。
 茂の父親の財力で、賃貸ではなく、一軒家に住めるのは感謝だ。
 私たちの結婚も考えてくれたのか、六人くらい一緒に住めそうな大きな家だ。

 「今日から新生活が始まるんだね」
 「そうだ。いろいろと楽しみだな」
 「うん!」

 それから私たちは学校が始まるまでの間、一緒に暮らす。料理も交代で作ったり、一緒にデートしたり、幸せな生活が続いた。

 そして、暫しの時が経ち、大学へ行く日が来た。
 今日は入学式兼新入生歓迎会だ。

 入学式が終わり、ホールから出て、大学に入る。
 すると、周りの空気が変わる。
 様々なサークルが新入生を狙い、私と茂を虎視眈々と狙っている。
 「サッカー部どうですかー?」「一緒にコスプレしてみませんか?」「ソフトボールどうですか?」
 「ラクロスいいですよ」「文芸部どうすか?」「一緒にバーベキューして仲を深めましょう」
 「吹奏楽どうですか?」「オーケストラどうですか? バイオリン出来る人急募くま

 うう、さっきから沢山話しかけられた。茂も沢山話しかけられている。
 茂が追い払ってくれたからよかったけど、一人だったら延々と狙われるところだったよ。

 そしてついに目的地である、映画研究会……ではなく演劇部のところにたどり着いた。
 やはり茂はどうしても私に演劇部に入ってほしいようだ。

 「では、演劇をしてもらいましょう」と、偉そうな男性一人が言った。

 「ここでは、演劇部という事で、みんなの演技力によってキャストが決まります。我々は、裏方を欲してるわけではありません。見込みがなければ、入部させない決まりになってます。では、このセリフを呼んでください」

 その台本は、どうやら、オリジナル台本らしかった。
 その内容は恋愛だ。
 その台本の書き手は、小説投稿サイトでそこそこの人気を誇っている人らしい。
 ブクマ五〇〇を超えているらしい。
 つまり台本は信用できるという説明を受けたのだ。
 さて、

 「これですね」

 私は恐る恐る声に出す。
 感情を込めなくては。


 茂が見てるのだから。


 「私は、貴方を愛してます。この世の誰よりもずっと。あなたと一緒に慣れるなら、すべてを捨て去る覚悟です。国も身分もお金もすべて。だから、あなたの旅に連れて行ってくれませんか?」

 はあはあ、こんなセリフ初めてだよ。

 「ふむ、及第点か」

 きゅ、及第点。

 「もっと君ならいけるはずだ。胸から声を出していうんだ」

 なんか、演技指導が始まった。

 「ほら、お腹に力を入れて!」

 そして和退社彼のアドバイス通りにセリフを話す。

 「私は、貴方を愛してます。この世の誰よりもずっと。あなたと一緒に慣れるなら、すべてを捨て去る覚悟です。国も身分もお金もすべて。だから、あなたの旅に連れて行ってくれませんか?」

 もう一度同じセリフを。

 「いいじゃないか。想像以上だよ。君な数年の間にネームドキャラを与えられそうだ。どうだ? 入ってみないか?」

 熱量が上がった。私の演技がいいと思ったのだろうか。

 「考えておきます……」

 そしてその場を離れた。
 ちなみにラインのオープンチャットには入ったので、練習日に見に行くことなどは出来るようにはなっている。

 そして次は映画研究会だ。っとその前に……

 「茂は部活を見に行かなくて良いの?」

 茂がどこの部活に入りたいかとかは全く聞いていない。
 私主体で楽しんでいる尾は申し訳ない気が……

 「いいんだよ。俺は医学部だからさ、講義場所も少し違うところになるだろうし、忙しいだろうからさ」

 それに、愛香の楽しい姿を見たいしさと言って笑う茂。
 まあ、確かに演劇部は茂が演技する私が見たいからだったけど。

 「じゃあ、行こう」

 そして映画研究会を見に行く。
 そこの部活内容を部員から聞くが、なんというかアットホームだ。
 みんなで洋画の話をしている。
 どれも有名どころの映画で見たこともある。
 ミッションインポッシブルや、スターウォーズ、ヘアスプレー、アニーなど様々な映画の話をしていた。
 これなら楽しそうかもと一瞬思ったけど。

 「なんか違う気がする……」

 私の求めているのはここにはない気がした。そもそも私が興味があるの、日本の映画だし。
 それも、恋愛映画だ。
 ここの話を聞いていると、どちらかというと、アクション映画が多いイメージがあった。

 「じゃあ、演劇部か?」
 「勝手に決めないでよ」
 「はは、悪い」


 そして、その後も、コーラス部、アニメ研究会、フランス料理研究会、欧州歴史研究会、アイドルアニメ同好会などがあったが、どれもパッとしない。

 「なら、演劇部で決まりだな」

 そう茂が言う。もう私にも演劇部以外の選択肢はなかった。

 そして私の新しい部活は演劇部に決まった。
 その後も部活を決めるという本来の目的は達成したが、スタンプラリーの残りが埋まっていないという事で、近くにあった将棋部を見に行った。
 そこでは数名のメガネ男子が将棋を指していた。
 スタンプラリーは、一応もらい逃げなどができないように、ある程度の話を聞かなくてはいけないようになっている、

 「茂って、将棋とか興味あるの?」
 「いや、ニュースで言われている渡部八冠のことくらいしか知らない」
 「そっか」

 私もそんなところだ。ちなみに渡部八冠というのは、現役最強と言われている棋士で、私でさえ知っている人だ。

 「茂は将棋部に入ってみたら? そこまで厳しい部活でもなさそうだし」

 医学部はいりながらでも行けそうな緩さと見える。

 「まあ、話だけ聞いてみるか」

 そして茂は向こうに行く。

 「それで、これは」

 説明を聞く茂。本気で聞いている。
 そして、いよいよ茂が将棋を指し始めた。
 なんとなく様になっている気がする。ああ、イケメンだな。と、そう感じた。

 「どうだった?」

 戻ってきた茂に訊くと、帰ってきた答えは「まあまあだな」だった。

 「俺は部活は無しだなと思った」
 「そう? 楽しいかもしれないよ」
 「それだったら俺は演劇部に入る」
 「そう」

 将棋部哀れなり……
 茂は、私と一緒の部活に入りたかっただけなのだろうけど。茂は演劇部なんて忙しい部活に入る暇はない。
 だが、形だけでも私と同じ部活に入りたいらしくて、裏方として参加が決定した。
 こうして私たちの大学生活は始まりを迎えた。