絶望の果てに君に出会えた

 
 それからまた日が経ち、私は今茂の家の前に立っている。

 私が次にしなくてはいけないことは。そう、同居の許可をもらう事だ。これが難題だ。
 何しろ私は茂のお母さんを殺した男の娘なのだから。
 ちなみに私のお母さんからの許可は案外あっさりともらえた。
 国公立に行けたことで私への株も上がったことで多少の我儘も許されたのだろうか。

 数日前に訪れたはずの家。だが、今日は意味合いが変わってくる。今日は茂のお父さんがいる日だから。
 この交渉に失敗するなんてことがあったら私の大学生活の楽しさが三割程度失われる。
 好きな人と一緒に暮らしながらの学校が一番楽しいのだから。
 少しだけ入るのに緊張していると、茂が「大丈夫だよ」と、優しく背中をさすってくれた。
 そして「よし!」と、心の中でつぶやいて家の中に入る。

 「お邪魔します」
 「ようこそ、君が愛香さんだね」

 と、茂のお父さんが話しかけた。髪の毛は3割ほど白髪が生えていて、しわが目立っているが、厳格な感じで、怖そうな人だった。話し合いが上手くいくのか早速不安になってきた。

 「それで、茂と愛香さんは同棲したいということでいいかな」
 「はい!」「ああ」

 私たちは答える。私たちの意思は固まってる。

 「だが、私はこの同棲には反対だ。その理由はわかるかね、愛香さん」

 名指しで聞かれた。もちろんわかっている。これは許されざる恋でもあるのだ。

 「分かってます」
 「分かってるのならよろしい。私は妻をとっても愛していた。それこそ、仕事がなければ毎日毎時間毎秒一緒にいたいくらいな。でも、そんな幸せは一瞬でついえた。もちろん君の父親のせいでだ。私は今では公開している。もっと妻と一緒にいればよかったと。もちろん君には罪がないことはわかっている。だが、私の心が許せんのだ。正直今君を見てるのも腹多々しい。それにまだ早い話だが、もし君たちが結婚するとする。そしたら茂の義理の父はあの男になる。もちろん死刑囚でいつか死刑になる人間なのだから、そんなものは意味がない。だが、その業を茂に背負わせるのか? それに子供はどうなる? そんな考えが私の頭の中をめぐるのだ。君のせいではないということで、心苦しいが、諦めてもらえないかな?」

 そう、淡々と理由を説明された。私にはこの理由を論破するすべなどない。全て正論だ。全ては私の父親、あのクソ親父のせいだが。
 妻を殺された怒りが収まらない。もし付き合って結婚した場合、親戚にいれたくない。そして、子供が生まれた場合、犯罪者の孫にしたくない
 本当に至極当然のな意見だ。

 「俺はそれでもいい! 愛香と結婚を前提に付き合いたいんだ。別に犯罪者犯罪者言っているが、それは愛香には関係ないし、俺にももちろん関係がない。なあ、お父さん。もしかして犯罪者を身内に入れたくないだけだろ? 医者として」
 「ああ、それもある。身内に犯罪者がいるということで何が不条理が生じるかもしれないからな。だが、最もな理由は、あの男が許せないからだ」
 「だから、あの男はもう愛香には関係ないって」
 「関係ない? 確かに法律上はもう関係がないかもしれない。でも、あの男の娘と言うことは事実だろ」
 「事実って、じゃあ、その男に虐待されながら育てられて、今もそのせいで、お父さんに断られている愛香の気持ちがわかるか? わからないだろ。俺が言いたいのは、もう愛香と、あの男を混同しないでほしいという事なんだよ」

 茂……私のために必死で説得しようとしている。本当にありがたい。私じゃあここまでの熱弁は出来ない。これが出来るのは身内である茂だからこそだ。
 このまま押し切ってほしい。これでもし息子と絶縁してくれなんて言われたら最悪だ。

 「……話が平行線だな。このままでは埒が明かん。君にも話を聴いてもいいかな」

 話の方向が私に来た。私も戦わなくてはならない。緊張する。

 「私は……茂のことが大が付くほどに好きです。でも、まず最初に私のお父さんが本当にすみませんでした。これは娘の私が謝罪します。私のお父さんの罪を償うために、私にできることなら何でもしたいです。でも、それ以上に私は茂と一緒にいたいです。どんな目に合っても、どんな仕打ちを受けようとも、私は茂と一緒にいたいです。私のこの決意は変わりません」

 口下手だったかもしれないが、ちゃんと自分の意思は伝えた。これで納得してほしい。

 「じゃあ、いま私に何をされても許せるのか?」
 「はい!」
 「おい! お父さん」
 「分かった。じゃあ、今から君の顔を思い切り殴っていいか?」
 「それで同棲を許してくれるのだったら」

 それに慣れっこだ。こういうのは。実際私は他人よりも痛みに強い地震がある。

 「行くぞ」

 と、全力で顔を殴られ、その勢いで、後ろに倒れこんだ。

 「おい! 愛香、大丈夫か?」
 「えへへ、思ったより痛いね。あいつより上かも」
 「……親父はこれで満足なのか?」
 「うむ。まあ、気分は晴れんがな。まあ、約束は約束だ。認めよう。だが、もう私の前に姿を見せないでくれ」

 そう、厳しい顔をして言う茂のお父さん。

 「もしも、子供を産むのなら、茂とその息子、娘だけ出来てほしい」

 つまり私はできんというわけか。

 「さっさと出ていけ」

 急に大きな声がとどろきびっくりする。
 その声は私を無理に急かすようで、ここにいてはいけないと伝えているみたいだった。
 もう私の顔も見たくないらしい。それも当然か。

 「わかりました。じゃあ、行こ。茂」
 「いいのかよ。もう顔を見せないでくれって言われて」
 「いいよ。仕方ないもん」

 悲しいけれど、茂のお父さんの怒りももっともだ。多少理不尽を感じるが、その交換条件で同棲できるのならこんなにいい話はない。
 そして、そのまま家に帰り、必要な荷物を全部運んだ。大学で必要なものや、生活必需品、その他諸々を。

 そして私たちの新しい生活が始まった。二人で大学に行き、二人で大学から帰る生活が。