絶望の果てに君に出会えた

 そして、そのまま私たちは目的地である、ゲームセンターに来た。この四人で遊ぶためだ。
 ここにはゲームセンターと別にボーリングやカラオケなどもあり、飽きたらそちらもできるという物だ。

 その中で、私は茂を連れて、カートレースゲームをすることにした。
 十和子は鳩さんに任せたから、こっちはこっちで楽しみたい。

 「じゃあ、やるぞ」

 そしてカートレースが始まる。
 とは言っても、私はこのゲームを持っていないので、するのは久しぶりだ。
 ……引っ越し前も茂の家でしかできなかったわけだけど。

 茂の車が先行する。そのスピードはかなり速い。……というか前回よりも速度が速くなってる気がする。

 でも、私だって。負けない!

 ハンドルをしっかりと握り、ハンドリングを意識して、ぶつからずに難しいカーブを曲がる。先行した茂は確かぶつかっていたはずだから、これで差が少し縮んだはずだ。
 だけど、まだまだ茂は先にいる。アイテムを取らなくちゃ。
 そして、アイテムボックスを取って、加速する。
 そして、茂に追いついた。

 「アイテムを使ったのか。くそ、ずるい」
 「ずるいなんてないよ」

 だが、並んだのは一瞬だった。結局、茂のぼろ勝ちで終わってしまった。

 「悔しい」
 「はは、仕方ねえよ。年季が違うんだからな」

 茂は上機嫌そうだった。

 リベンジということでもう二戦やるが、どちらも負けてしまった。
 本当に悔しいが、もうこれでは茂には勝てないと分かったので、次のゲームに行く。
 次のゲームは、太鼓の名人という太鼓ゲームだ。
 これは茂もあまりしたことがないと言っていたし、勝つチャンスだ。

 結果はこれもぼろ負けだった。考えればわかる話だ。茂は歌がうまくて、私は下手。そのことから考えて、勝てるわけがなかった。


 「うぅ、茂にはかなわないなあ」
 「ふふん、どうだ」
 「すごい!」


 本当に何でもできるや、茂は。


 「なあ、」

 そんな時だった。声をかけられたのは。

 「え、なに?」
 「なあ、鈴村隆介の娘だろ?」
 「え?」

 それを聞いた途端固まる。まさか、川原君以外にも知ってる人が?

 「ははははは、これが犯罪者の娘か」
 「なんで?」
 「はいはい、父親が犯罪を犯して今どんな気持ちぃ?」
 「おい、お前。何をしているんだ?」

 茂が力強くそう言う。

 「何をしているだと? 決まってるっしょ。インタビューだよ」

 そうカメラを持ちながら言ってくる男。

 「インタビューにしては了承を得てない気がするが」
 「そんなの関係ないっしょ。だって、犯罪者の娘に人権なんてないんだから」

 ああもう、次から次にそんな輩が出てくる。
 引っ越しをしたってそういう人は出てくるんだね。

 やっぱり私には平穏に暮らす資格なんてないんだ。

 「救いようがねえな。今すぐ動画を消せ」

 そう、茂がカメラを奪いに行く。

 「なんでだよ。なんで罪を犯してない愛香がこんなに苦しまなきゃならないんだ?」
 「いや、俺たちは被害者や遺族のストレスを晴らすためのインタビューしてるだけなんだが?」
 「それを言うなら俺は遺族だ。俺のお母さんは鈴村隆介に殺された。だが、俺はそんなことは望んでなんかいない。愛香が苦しむのは望んじゃいない」

 そうきっぱりと言った茂。その時、警察が来た。

 「そこの君、困ってるだろ。動画を止めなさい」
 「は? なんで警察が来てんの?」

 そう、男が言うと、後ろで鳩さんと十和子がピースをしていた。二人が呼んだのだろう。

 結局、その男は有名な迷惑系動画配信者だったらしい。
 そしてその結果男は厳重注意された。

 「いや、助かったぜ、鳩」
 「どういたしまして。まったくもう、へんな人はいるよね」
 「……そうだね」

 「そんな顔をしなくてもいい。この前も言ったが、みんながみんな変な奴なわけじゃないからな」

 私の顔の沈み具合に気が付いたのかな。

 「うん」
 「今度からも守ってやるからな」
 「ありがとう」私はお礼を言う。
 「愛香、あんな人たちは少数派なんだから気にしたらまけよ」
 「そうだね」

 そして私は茂の腕をぎゅっとつかむ。私にしては大胆な行動だ。

 「ほら、思う存分つかめ」
 「ありがと」

 やっぱり茂は優しいな。
 そして、私は遠慮せずに茂の胸へと飛び込んだ。

 「おおー、愛香やるじゃん」
 「ね」

 後ろで二人が騒いでいるが、そんなことは関係がない。

 「茂。好きだよ」
 「ああ、俺もだ」

 そして、

 茂君はこれから冬休みとは言え、すぐに家に帰らなければならない。それは仕方のないことだ。でも、休みだからこそ、毎日一緒に遊びたい。一緒に楽しみたい。
 夏休みなのに、何で毎日遊べないの?

 そこがつらい。
 勉強していくしか、ないのだろうか。大学生になったら毎日会える。だが、それも二年後だ。
 毎日会いたい。その気持ちが日々増えていった。