絶望の果てに君に出会えた

 そして次の週から茂は有言実行とばかりに毎週日曜日に来てくれる。
 そのおかげで毎週末が楽しい。


 ちなみに事件については、川原君が別のクラスに移行することでとりあえずは収まった。
 だが、その川原君も、未だに私への恨みが消えてないし、彼も、別のクラスでいじめられたりして、結局転校してしまった。

 それに関しては、十和子と茂のおかげで、私が悪いんじゃないと思えるようにはなったけど、まだ罪悪感自体は残っている。

 そして毎週末は茂とのデートは主にデートしたり勉強会をしたりする。そんな日々が続く中、二学期の期末試験が始まり、そして閉幕した。

 「愛香すごいじゃないか」

 茂が私のテスト用紙を見て言う。何と私は数学で九十八点を取れたのだ。
 世界史とかの暗記科目ではなく、数学という実力主義のテストだ。

 テストで九十八点取れた瞬間に思ったことは、茂に褒められる!! というだった。
 つまるところ、私は茂に褒められたいという不純な動機で頑張ってきたのだ。
 だからこそ、褒められて嬉しい。

 「ありがとう。茂のおかげだよ」
 「いや、確実に愛香が頑張ったおかげだ」

 そして私たちは軽くハグをした。互いに赤面しながら。

 「ハグと言っても緊張するな」
 「……うん」

 そしてすぐに手を離した。

 「そう言えば、茂」
 「何だ?」
 「十和子が茂に会いたいって」

 そう言った。基本茂は土曜日はビジネスホテルで泊まる。

 「つまり、明日という訳だな」
 「うん。ご褒美として」
 「なるほど、それはいいな」

 そう言って茂はニカっと笑う。良かった、肯定してくれて。

 「なら、もう一人呼ばないか?」
 「え?」


 翌日、十和子が私と茂が待つ駅前に現れた。

 「お待たせ、愛香」
 「そんなに待ってないよ、十和子」
 「で、その人が愛香の彼氏?」
 「うん。こちら茂!」

 そう言って私は茂の方に手を向ける。すると茂はそれにこたえるように頭をぺこりと下げた。

 「イケメンだね」
 「ちょっ」
 「大丈夫。取らないから」

 ほっ。まあ、今更茂が他に乗り換えるなんてないとは思ってるけど。

 「それで、もう一人愛香の知り合いが来るんだよね」
 「ああ、そろそろかな」

 そう言ってスマホを見る茂。

 すると、向こうから一人こちらに向かってきた。

 「鳩さん!」

 私は即座に振り向く。そこには懐かしき姿があった。実に三ヶ月ぶりだ。

 「久しぶり愛香」
 「うん、鳩さんも」

 そして私たちは手を繫ぎ、握手をする。

 「実はね、茂をこちらに行くことを促したのは私なの」
 「そうなんだ。ありがとう」
 「あいつヘタレなのよ。学校の心配して」
 「いうなよ、鳩」

 そこに茂が咳払いしながら来る。

 「恥ずかしかっただけなんだから……」

 そう、恥ずかしそうにする茂。

 「でも助かりましたよ。茂さんが来なかったら愛香、病んでたと思うから」
 「おう、そうか」

 茂はまた照れたような顔をする。その顔がかわいくて、つい「ふふ」と、笑ってしまった。

 「なんだよ」
 「いいじゃん」
 「ねえ、二人共イチャイチャしないの」

 そうは言われても……。

 「もういいわ。いこ、十和子ちゃん」
 「え、ええ」

 困った顔で鳩さんについて行く十和子。いったい向こうで何を話しているのだろうか。

 「じゃあ、俺たちもあっち行くか」
 「……うん」

 そして私たちは先に行ってしまった十和子、鳩ペアについて行く。

 茂と手を繫ぎながら。

 そしてようやく二人に追いついた時、二人は私の話で盛り上がっていた。……というよりも、鳩さんが私の話を暴露しているのだ。
 まあ、別に暴露されて困るような話なんてないから、黙って見ていてもいいのだが。

 「おい鳩、行くぞ」

 そう茂が二人に対して言う。

 「なによ。茂がイチャイチャしてるからじゃん」

 そう言って、茂の服の袖をつかむ鳩さん。なんだか、あの時が戻ってきたみたいだ。
 ああ、懐かしい。

 「愛香、何か寂しい」

 そう、十和子が私の服をぎゅっとつかむ。いつも強い感じだからちょっと意外だ。

 「大丈夫だよ。私は十和子の友達だもん」

 これで良かったのだろうか。
 でも十和子は少しだけ安心したような顔をしている。大丈夫なのだろうか。
 よく考えたら。このお出かけ、十和子にとっては、私以外の三人は知り合いじゃないってことか。

 「ん?」

 茂がこちらを見る。その後、納得したような顔をした。

 「大丈夫だ。俺は……仲間外れにしないから」

 そう、照れながら言う茂。

 「うん」
 「……茂、浮気しないでね」
 「するわけないだろ。行くぞ」

 そして茂はずんずんと歩いていく。

 「愛香の彼氏優しいね」
 「うん。ちょっと嫉妬するけど」
 「え?」
 「だって、十和子にも優しくしてたから」
 「なるほどね。ふふん。でも、私は愛香の彼氏を取るような真似しないから」

 そう言って笑う十和子。

 「それにね」

 そう、いつの間にか隣にいた鳩さんが私に声をかける。正直びっくりした。

 「あいつは誰にでもああいう反応だから」
 「誰にでも?」
 「あいつ、明るいように見えて、女性経験ないのよ。だから愛香があいつの二代目彼女だし」
 「二代目!?」
 「うん」

 へー、もっと彼女とか作ってるんだと思ってた。鳩さんがもう初代彼女だったという事ね。
 初耳過ぎる。

 「初心なのね」

 そう、十和子が調子に乗った風に言う。

 「そこ、全部聴こえてるからな」

 茂がやはり照れた様子で言った。

 そんないつもと違う茂はかっこよいというよりはかわいくて、そんな茂もいいなと思った。
 もうこの時点で、このお出かけは成功だ。だけど、まだ出発しただけで、目的地へはついてすらいない。
 つまりまだまだ楽しめるという事だ。