引っ越し後、すぐに、新しい学校での日々が始まった。


 新しい学校、鳩さんも茂もいない学校、寂しい感じがする。ああ帰りたい。でも、遠いなあ。
 もう帰れないのかな、もう会えないのかな?

 「転校生の夏目愛香さんです」

 そう、先生に紹介される。周りの注目の視線を感じて若干気まずい。

 「じゃあ、席は藍川十和子さんの隣で」

 そして私は死んだ目のまま藍川さんの隣の席に座る。

 「あ、これからよろしくね」
 「う……うん」

 そう、愛想笑いで返した。

 私はどう会話をしたらいいのかわからない。そう言えば私は人と話すのが苦手だった。
 茂や鳩さんと一緒に話すことが増えたから忘れていたけれど。

 こういう時に茂や鳩さんがいたらいいなと思うが、今は私の力で切り開くしかない。

 幸い、私が鈴村隆介の子どもであることはばれなかった。
 今の苗字はお母さんの旧姓である夏目になったからと言うこともある。

 たまにあの刺傷事件の話が聴こえてくると、少しびくっとなってしまうが、それだけだ。
 もし何か言われたとしても、私の知り合いが亡くなったとでも答えたらいい。

 「ねえ」
 「は、はい」

 数日たった時に藍川さんに話しかけられた。変になってないか心配だ。

 「話そうよ」
 「え?」
 「ご飯食べながらさ」

 私は昼食を彼女と取ることになった。うぅ、どうしてこんなことに。どうしてもあの事件のことがあるし、私は人としゃべれるのか不安だ。

 「前はどこに住んでたの?」
 「えっと、滋賀に住んでたんだけど、お父さんが亡くなったのを機に、お母さんの実家のある栃木に引っ越したの」
 「なんか悪いこと聞いちゃったね」
 「いやいや」

 正確には死んだんじゃなくて、これから死ぬだけど。
 たぶん死刑、良くて終身刑だと思うし。

 「それで、なんか死んだ目をしてるの?」
 「これは違うくて……」
 「ん?」
 「私元々陰キャだったから」

 茂や鳩さんがいなかったらここまで、コミュ障なんだと、自分でも笑ってしまう。
 今も言葉を必死に探している。
 会話を途切れさせないために。

 「へー。陰キャね。……そんなこと気にしなかったらいいのに」
 「え?」
 「だってさ、それ誰かが決めたものでしょ。よし決めた。私愛香ちゃんと友達になる」
 「ええ?」
 「だって、面白そうだし」

 そして、私はどうやら藍川さんの友達になることが確定したらしい。無理やりだあ。
 茂の時もそうだったけど、私はやっぱり面白い人なのだろうか。

 だが想像とは違った。最初は怖かったが、藍川さんがいい人であることはすぐに分かった。茂や鳩さん、雅人君みたいないいひとだ。本当にほっとする。こんな私と友達になってくれる人がここにもいるなんて。