──僕、御崎優と一学年上の先輩である神戸実里が最初に出会ったのは、高校の近くにあるアンティークなカフェの店内だった。
僕は入学して二ヶ月の高校一年生で、彼女は二年生だ。
その日は土砂降りとはいかないまでも、街全体が灰色の雲に覆われていて雨がそこそこ強くアスフェルトの道路や傘にぶつかり、雨音が響いていた。
こういう日に静かで落ち着ける場所に行き、ほろ苦いコーヒーを飲むのが僕のマイブームだ。
その日も行きつけのカフェに行くために家とは反対方向の街道を歩く。
夕方なのに周囲の照明は爛々と輝いて見えるくらい目立っていて夜なのかと錯覚してしまう。
時折、通り過ぎるトラックに横から水を飛ばされたりしながら、歩いていると、前方に『喫茶ノルワード』と書かれた木製の看板とこじんまりとした建物が見え、輪郭のぼやけた暖色の明かりが窓から外に漏れ出ていた。
「ふう」
僕は一つ息を吐く、決して緊張しているわけじゃない、言ってしまえば儀式のようなものだ。
店の扉を開けるとちりりんっとベルのような音が店内に響き、カウンターに居る男性店員がこちらを向いて、申し訳なさそうに近づいてきた。
「申し訳ございません、ただいま席がほぼ満席でして・・・・」
そう言われて、店内を見渡すと確かに席のほとんどが埋まっていた。
皆考えていることは同じということなのか。
「そうですか・・・・ではまた今度に」
そう言いかけた時、一番近くの席の女子高生がおもむろに立ち上がり、僕らの元へやってきて言った。
「私のボックス席なら三人分空いてるから、嫌でなければ向かい側にどうぞ」
黒い艶やかかな髪を腰まで落とし、清楚な雰囲気に透き通るような声をしているその女子生徒は制服からして僕と同じ高校に通っているのだろう。
「ありがとうございます。僕はそれでも良いのですよ。同じ高校みたいですしね」
「そうですか、ではお二人共ごゆっくり」
店員は僕らを交互に見て、軽く会釈をしてカウンターの方に戻って行った。
そうして僕と彼女は向かい合って席に着いた。
しかし、困ったことに僕はあまり人と積極的に話せるタイプの人間ではない。初対面であればなおさらだ。
正面に座る彼女を見る。しわが少ない制服に、ピンと背筋を伸ばし窓の外を眺めていた。
天井の明かりが彼女の白い肌に暖かみを与えるように照らしていた。
改めて見ると美しい人だと思う。可愛いとか綺麗というより美しいが一番適している。
「私の顔に何か付いているのかな?」
「いえ、ただこういう時の目のやり場に困っていただけです」
ふうん、と彼女はなんの興味もなさげに言うとまた窓の外に顔を向けてしまった。
ふっと一つ息を吐いて、テーブルの呼び鈴を鳴らし店員にブラックコーヒーを頼む。すると彼女はちらりとこちらを横目で見ると、店員がカウンターに戻ってから口を開いた。
「ブラックを飲むんだね?」
「ええ、いつもコーヒーはブラックです。苦いのが好きなので」
「私は大の甘党でね、君とは正反対だ」
「確かに、僕は甘いのが苦手です」
僕がそう言うと彼女はこくこくと頷いてから真っ直ぐこちらを見つめる。
「私は自分に対しても甘い、こうして雨で機嫌が悪くなったからってダイエット中にケーキを食べに来ている、君はその点しっかりしてそうだ」
どうだろうか、僕も似た者同士な気がする。それに、味の好みと性格の関連がよく分からない。そういう考え方をする人なのかもしれない。
「買い被りですよ、僕もそんなしっかりした人間ではないです」
「どうだろうね」
そこで再び沈黙が降りた。今度は僕も窓の外を眺めることにした。
店内に流れるボサノバと窓の外から漏れ聞こえる雨音に耳を傾け、街の道路を左右に行き交う車を眺めているとぼんやりと意識が浮遊する。
彼女も同じ感覚なのだろうか、窓に薄っすらとうつる表情からは上手く読み取れない。
ぼーっとしていると店員がコーヒーとチョコレートケーキを運んできた。ケーキはおそらく彼女が頼んだものだろう。
「ん~相変わらず罪深い味だ。ここのチョコレートケーキはほろ苦さもない」
彼女はチョコレートケーキが運ばれてくるなり、すぐにフォークを持ち一口食べてはそんなことを言いながら、頬を緩めていた。
甘いものを食べている時の彼女からは先ほどの凛とした佇まいは幾分か崩れ、どこにでもいる女子高生の顔が出ていた。
どっちが彼女の本質なのだろう、と考えながら僕もコーヒーを口にする。
苦味が口に広がり、コーヒーの香ばしい香りが鼻腔をくすぐる。
「ふう・・・・」
僕がまた一つ息を吐いて、肩の力を抜く雨音や店内の音楽も相まって心身共にリラックスしていた。
「軽く息を吐くのが君の癖なのか?」
彼女はケーキを食べ終えてこちらに視線を向けて言った。
「昔からの癖です。余計なものが抜けるような気がして」
それを聞いた彼女は、ほう、と今度は少し興味深そうに相槌をうつと一言呟いた。
「君は変わり者だね」
「お互い様でしょうそれは」
僕から見たら彼女も相当な変わり者に見える
「そうだね、そうかもしれない」
ふふっと彼女は笑みをこぼすと、テーブルの呼び鈴を鳴らし再びなにかを注文した。
「ところでまだ君の名前と学年を聞いていなかったね」
「一年の御崎優です」
彼女は「御崎優・・・・」と繰り返すとああ、と言ってなにかを思い出したように言った。
「中間テストで一位だった優等生くんか」
僕も通う高校では学年ごとにテストの点数順位が張り出されるという悪趣味な制度がある。
「まだ入学して間もないテストだし、たまたまですよ」
「そういうことにしておくよ、私は二年の神戸実里、よろしくね」
やっぱり先輩だったのか、薄々そんな気はしていたけど。
自己紹介をしている間にケーキが僕の目の前に置かれた。先ほどと同じチョコレートケーキ。
「安心していいハイカカオだから君でも食べられるはずだ」
なるほど、確かにそれなら苦味があって美味しそうだ。
しかし、ハイカカオのチョコレートケーキも別に売ってるなんて喫茶店はおろか、ケーキ専門店を含めても中々ないんじゃないだろうか。
彼女はフォークを持つ僕をじっと見つめている。感想が聞きたいのか目のやり場なのかは分からないけど、落ち着かない。
とりあえず一口運んでみる。思っていたよりも苦味が強い、食感は柔らかくしっとりとしていて苦味とのギャップが良い感じだ。
「その様子だと気に入ってもらえたようだね」
「どうして分かるんですか?」
僕はそんなに顔に出るタイプではないと思っている。土台、感情表現に乏しい。
「女の勘ってやつかな」
「それ本当に実在するんですか?」
「さあね、まあなんとなくだよ。でも気に入ったなら何より、本題に入れるってことだね」
・・・・一体なんのことだろう、本題?。
「君、部活は入っているかな?」
ああ、とその質問で僕はこれから言われるであろうことを完全に理解した。
つまりは勧誘というわけだ。
「入ってないですし、入る気もないです」
こくこくと彼女は頷いて、なぜ入る気がないのかも聞かずにこう言った。
「君には映像研が合っている、主だった活動もなく放課後に集まって、と言っても部員は私含め二人だが、各々の時間を過ごす部」
「訳の分からない部活ですね」
ふふっと彼女は微笑む、なにかを褒められた子供のように。
「訳の分からない生徒がやる部活なんてそんなものだと思うけどね、私も、もう一人の小柳という後輩も、そして君もそんな感じがする」
小柳明人の事だろうか、一応僕の唯一の友人で最近、良い部活に入ったとか話していたけど映像研の事だったのか。
「小柳明人は僕の中学の頃からの付き合いです」
「小柳くんはひょうひょうとしていて神出鬼没の妖怪みたいだ、部活にもしばらく現れないと思ったら、突然気まぐれにやってくる」
彼はそういう人間だ。気まぐれで気分屋、しかし薄っぺらいわけでもなくむしろ頭はよく切れて油断ならないところがあるんだ。
「それで、どうかな? 友人も居ることだし悪い提案ではないと思うけど」
僕はしばらく黙って考える。店内のお客さんはグンと減っていて、流れている音楽も静かなものに変わっている。
掛け時計の時を刻む規則正しい音が目立って聞こえるようになっていた。
「仮入部、という形なら良いですよ」
一瞬入ってもいいかなという気にもなった。僕は別に何か特別な理由があって部活に入らないわけではないからだ。
しかし、映像研という名で各々好きな時間を過ごして良い、そういう部活だと言われるとなんだか逆に胡散臭い。
例えるならホワイトをうたうブラック企業みたいな感じがする。
「ふむ、まあ妥当と言えばそれが妥当だろうね、私でもそうするかもしれない。君が満足するまでそういう扱いにしよう」
それで本題は一段落ついた。僕たちが話し終える頃には外の雨は止んでいて、空はすっかり真っ暗になっていた。街の明かりはより一層目立ち、仕事帰りのサラリーマンや部活帰りの学生が時折喫茶店の前を通り過ぎる。
「そろそろ僕は帰ります、夕飯の買い出しも頼まれているので」
「ああ、時間をとってすまないね、旧校舎に部室はある。詳しくは教員に聞いて欲しい。これからよろしく、どれくらいの付き合いになるかは分からないけど」
そこで彼女はふっと目を細め口元を緩めて微笑むとこう続けた。
「しかし、なんだろうね、やっぱり君は変わり者だが同時にしっかり者だね」
「矛盾しているように聞こえますよそれ、あと買い被りです」
「そういうことにしておくよ」
そう言ってふふっと笑みをこぼす彼女に背を向けて勘定を済ませて店を出た。
不思議な縁だ、と僕は帰宅途中の道を歩きながら思う。
金平糖のような星々が散りばめられた夜空に僕は息を一つ吐いた──。
僕は入学して二ヶ月の高校一年生で、彼女は二年生だ。
その日は土砂降りとはいかないまでも、街全体が灰色の雲に覆われていて雨がそこそこ強くアスフェルトの道路や傘にぶつかり、雨音が響いていた。
こういう日に静かで落ち着ける場所に行き、ほろ苦いコーヒーを飲むのが僕のマイブームだ。
その日も行きつけのカフェに行くために家とは反対方向の街道を歩く。
夕方なのに周囲の照明は爛々と輝いて見えるくらい目立っていて夜なのかと錯覚してしまう。
時折、通り過ぎるトラックに横から水を飛ばされたりしながら、歩いていると、前方に『喫茶ノルワード』と書かれた木製の看板とこじんまりとした建物が見え、輪郭のぼやけた暖色の明かりが窓から外に漏れ出ていた。
「ふう」
僕は一つ息を吐く、決して緊張しているわけじゃない、言ってしまえば儀式のようなものだ。
店の扉を開けるとちりりんっとベルのような音が店内に響き、カウンターに居る男性店員がこちらを向いて、申し訳なさそうに近づいてきた。
「申し訳ございません、ただいま席がほぼ満席でして・・・・」
そう言われて、店内を見渡すと確かに席のほとんどが埋まっていた。
皆考えていることは同じということなのか。
「そうですか・・・・ではまた今度に」
そう言いかけた時、一番近くの席の女子高生がおもむろに立ち上がり、僕らの元へやってきて言った。
「私のボックス席なら三人分空いてるから、嫌でなければ向かい側にどうぞ」
黒い艶やかかな髪を腰まで落とし、清楚な雰囲気に透き通るような声をしているその女子生徒は制服からして僕と同じ高校に通っているのだろう。
「ありがとうございます。僕はそれでも良いのですよ。同じ高校みたいですしね」
「そうですか、ではお二人共ごゆっくり」
店員は僕らを交互に見て、軽く会釈をしてカウンターの方に戻って行った。
そうして僕と彼女は向かい合って席に着いた。
しかし、困ったことに僕はあまり人と積極的に話せるタイプの人間ではない。初対面であればなおさらだ。
正面に座る彼女を見る。しわが少ない制服に、ピンと背筋を伸ばし窓の外を眺めていた。
天井の明かりが彼女の白い肌に暖かみを与えるように照らしていた。
改めて見ると美しい人だと思う。可愛いとか綺麗というより美しいが一番適している。
「私の顔に何か付いているのかな?」
「いえ、ただこういう時の目のやり場に困っていただけです」
ふうん、と彼女はなんの興味もなさげに言うとまた窓の外に顔を向けてしまった。
ふっと一つ息を吐いて、テーブルの呼び鈴を鳴らし店員にブラックコーヒーを頼む。すると彼女はちらりとこちらを横目で見ると、店員がカウンターに戻ってから口を開いた。
「ブラックを飲むんだね?」
「ええ、いつもコーヒーはブラックです。苦いのが好きなので」
「私は大の甘党でね、君とは正反対だ」
「確かに、僕は甘いのが苦手です」
僕がそう言うと彼女はこくこくと頷いてから真っ直ぐこちらを見つめる。
「私は自分に対しても甘い、こうして雨で機嫌が悪くなったからってダイエット中にケーキを食べに来ている、君はその点しっかりしてそうだ」
どうだろうか、僕も似た者同士な気がする。それに、味の好みと性格の関連がよく分からない。そういう考え方をする人なのかもしれない。
「買い被りですよ、僕もそんなしっかりした人間ではないです」
「どうだろうね」
そこで再び沈黙が降りた。今度は僕も窓の外を眺めることにした。
店内に流れるボサノバと窓の外から漏れ聞こえる雨音に耳を傾け、街の道路を左右に行き交う車を眺めているとぼんやりと意識が浮遊する。
彼女も同じ感覚なのだろうか、窓に薄っすらとうつる表情からは上手く読み取れない。
ぼーっとしていると店員がコーヒーとチョコレートケーキを運んできた。ケーキはおそらく彼女が頼んだものだろう。
「ん~相変わらず罪深い味だ。ここのチョコレートケーキはほろ苦さもない」
彼女はチョコレートケーキが運ばれてくるなり、すぐにフォークを持ち一口食べてはそんなことを言いながら、頬を緩めていた。
甘いものを食べている時の彼女からは先ほどの凛とした佇まいは幾分か崩れ、どこにでもいる女子高生の顔が出ていた。
どっちが彼女の本質なのだろう、と考えながら僕もコーヒーを口にする。
苦味が口に広がり、コーヒーの香ばしい香りが鼻腔をくすぐる。
「ふう・・・・」
僕がまた一つ息を吐いて、肩の力を抜く雨音や店内の音楽も相まって心身共にリラックスしていた。
「軽く息を吐くのが君の癖なのか?」
彼女はケーキを食べ終えてこちらに視線を向けて言った。
「昔からの癖です。余計なものが抜けるような気がして」
それを聞いた彼女は、ほう、と今度は少し興味深そうに相槌をうつと一言呟いた。
「君は変わり者だね」
「お互い様でしょうそれは」
僕から見たら彼女も相当な変わり者に見える
「そうだね、そうかもしれない」
ふふっと彼女は笑みをこぼすと、テーブルの呼び鈴を鳴らし再びなにかを注文した。
「ところでまだ君の名前と学年を聞いていなかったね」
「一年の御崎優です」
彼女は「御崎優・・・・」と繰り返すとああ、と言ってなにかを思い出したように言った。
「中間テストで一位だった優等生くんか」
僕も通う高校では学年ごとにテストの点数順位が張り出されるという悪趣味な制度がある。
「まだ入学して間もないテストだし、たまたまですよ」
「そういうことにしておくよ、私は二年の神戸実里、よろしくね」
やっぱり先輩だったのか、薄々そんな気はしていたけど。
自己紹介をしている間にケーキが僕の目の前に置かれた。先ほどと同じチョコレートケーキ。
「安心していいハイカカオだから君でも食べられるはずだ」
なるほど、確かにそれなら苦味があって美味しそうだ。
しかし、ハイカカオのチョコレートケーキも別に売ってるなんて喫茶店はおろか、ケーキ専門店を含めても中々ないんじゃないだろうか。
彼女はフォークを持つ僕をじっと見つめている。感想が聞きたいのか目のやり場なのかは分からないけど、落ち着かない。
とりあえず一口運んでみる。思っていたよりも苦味が強い、食感は柔らかくしっとりとしていて苦味とのギャップが良い感じだ。
「その様子だと気に入ってもらえたようだね」
「どうして分かるんですか?」
僕はそんなに顔に出るタイプではないと思っている。土台、感情表現に乏しい。
「女の勘ってやつかな」
「それ本当に実在するんですか?」
「さあね、まあなんとなくだよ。でも気に入ったなら何より、本題に入れるってことだね」
・・・・一体なんのことだろう、本題?。
「君、部活は入っているかな?」
ああ、とその質問で僕はこれから言われるであろうことを完全に理解した。
つまりは勧誘というわけだ。
「入ってないですし、入る気もないです」
こくこくと彼女は頷いて、なぜ入る気がないのかも聞かずにこう言った。
「君には映像研が合っている、主だった活動もなく放課後に集まって、と言っても部員は私含め二人だが、各々の時間を過ごす部」
「訳の分からない部活ですね」
ふふっと彼女は微笑む、なにかを褒められた子供のように。
「訳の分からない生徒がやる部活なんてそんなものだと思うけどね、私も、もう一人の小柳という後輩も、そして君もそんな感じがする」
小柳明人の事だろうか、一応僕の唯一の友人で最近、良い部活に入ったとか話していたけど映像研の事だったのか。
「小柳明人は僕の中学の頃からの付き合いです」
「小柳くんはひょうひょうとしていて神出鬼没の妖怪みたいだ、部活にもしばらく現れないと思ったら、突然気まぐれにやってくる」
彼はそういう人間だ。気まぐれで気分屋、しかし薄っぺらいわけでもなくむしろ頭はよく切れて油断ならないところがあるんだ。
「それで、どうかな? 友人も居ることだし悪い提案ではないと思うけど」
僕はしばらく黙って考える。店内のお客さんはグンと減っていて、流れている音楽も静かなものに変わっている。
掛け時計の時を刻む規則正しい音が目立って聞こえるようになっていた。
「仮入部、という形なら良いですよ」
一瞬入ってもいいかなという気にもなった。僕は別に何か特別な理由があって部活に入らないわけではないからだ。
しかし、映像研という名で各々好きな時間を過ごして良い、そういう部活だと言われるとなんだか逆に胡散臭い。
例えるならホワイトをうたうブラック企業みたいな感じがする。
「ふむ、まあ妥当と言えばそれが妥当だろうね、私でもそうするかもしれない。君が満足するまでそういう扱いにしよう」
それで本題は一段落ついた。僕たちが話し終える頃には外の雨は止んでいて、空はすっかり真っ暗になっていた。街の明かりはより一層目立ち、仕事帰りのサラリーマンや部活帰りの学生が時折喫茶店の前を通り過ぎる。
「そろそろ僕は帰ります、夕飯の買い出しも頼まれているので」
「ああ、時間をとってすまないね、旧校舎に部室はある。詳しくは教員に聞いて欲しい。これからよろしく、どれくらいの付き合いになるかは分からないけど」
そこで彼女はふっと目を細め口元を緩めて微笑むとこう続けた。
「しかし、なんだろうね、やっぱり君は変わり者だが同時にしっかり者だね」
「矛盾しているように聞こえますよそれ、あと買い被りです」
「そういうことにしておくよ」
そう言ってふふっと笑みをこぼす彼女に背を向けて勘定を済ませて店を出た。
不思議な縁だ、と僕は帰宅途中の道を歩きながら思う。
金平糖のような星々が散りばめられた夜空に僕は息を一つ吐いた──。
