2025-09-15
『君のこと考えてた』

「君のこと考えてた」と言われた。
きっと考えていなかっただろうに。

偶然、街中で出会っただけだというのに
こんなにもときめいてしまうのは恐らく。

この人の魅力のせい。

同じ職場で働いている拓哉という男性。
様々な女性が彼のことを好いているし。

私だって彼のことを好いていた。
だから街中で出会えたこと自体。

奇跡に近しいというのに彼は
「君のこと考えてた」と言う。

偶然会った人に対してそんな言葉を
容赦なく言えてしまう彼を知りたい。

「本当ですか~」と冗談めいて答えた。
「本当本当」と目を見て伝えてくれる。

好意がバレてしまいそうで咄嗟に
私は彼から目を逸らしてしまった。

「これから予定あるの?」と聞かれた。

マッチングアプリで知り合った男性と
本当は会う予定があったというのに私。

「予定ないですよ」と答えていた。
優先順位は彼が上に決まっている。

「ちょっと買い物に付き合ってくれない?」
断る理由なんてなく「はい」と答えていた。

彼は大きなショッピングモールで
何か欲しい物があると言っていた。

付き添いだというのに私は密かに
カップルみたいで嬉しくて微笑む。

「なに笑ってるの?」と聞かれた。
「いえ、別に」と答えたけれども。

赤らんだ頬を見られたことできっと
私の思いは全て読まれたのだと思う。

雑貨屋さんで彼は私に対して
「これどうかな?」と言った。

「可愛いですね」と答えるとすぐに
「これ君にプレゼント」と言われた。

「え」と戸惑ったけれども断るのも悪く
「ありがとうございます」と受け取った。

それから宝飾品売り場へ行き
色々な指輪を眺めていたとき。

彼が「どんな指輪が女性は嬉しいの?」と聞いてきた。

その言葉には色々な意味が込められている様。
ここでどう返答するかで未来が変わってくる。

「拓哉さんが真剣に選んだ指輪ならば~」と
あえて彼に決断を委ねてみるのもあるけれど。

「私はこの指輪が嬉しいです」と
素直に自分の意見を伝えてみるか。

「あげたい女性はどんな人なんですか?」と
まずは彼の思い描く女性を聞いておくべきか。

悩む、悩む。

私は「これが嬉しいですね」と言った。
素直に自分の意見を彼に伝えてみたが。

「んーー」と悩んだ様子を浮かべている。

そして「ありがとう」と言い、私が指した指輪ではなく
「こっちにしてみようかな」と言って別の指輪を選んだ。

そのまま宝飾品売り場でお別れとなり
久しぶりに彼を見たのは3日後だった。

つい先日まで彼は指輪をしていなかったというのに
職場で見かけた彼の左薬指には指輪がハマっていた。

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