2025-09-18
『唐揚げ』

「唐揚げ作りすぎちゃった」と君からの連絡。
きっと家まで来てほしいだけの口実に過ぎず。

「食べきれる?」と送ってみると案の定
「食べきれないよ」と送られてくる流れ。
「私の住所ここだから」と続けるように。

徒歩3分ほどの場所に住んでいるらしく
唐揚げが冷めるほど長く歩くことはない。

「自販機でコーラ買ってきたよ」と渡す。
「ありがとう、嬉しい」と言われるから。

ニヤけてしまう、少しだけ。

君との出会いは大学でのことだった。
唐揚げ定食を食べている僕を見た君。

「美味しそう、どこで買えるんですか」と訊かれ
「券売機で券を買うんですよ、あそこ」と答える。

まだ大学に慣れていないような君に対し
丁寧に答えたことが事の始まりとなった。

なんとか唐揚げ定食を買うことができた君は
僕の前の席に座るや否やお礼をしてきたから。

「買えてよかったね」と微笑んだ。
「よかったです」と微笑み返され。

ギュッと胸に苦しみを感じてしまう。
恋ではない、と思いたくてもできず。

恋をしていた。

出会う前までは興味なかったはずなのに
出会ってしまったから意識をしてしまう。

図書館で本を読んでいる人々の中に
君を見つけてしまうだけで嬉しいし。

レストランでご飯を食べている人々の中に
君を見つけてしまうだけで脈拍が早くなる。

僕のことを見つけてくれた君はいつも
笑顔で手を振ってくれるのも愛らしい。

嬉しくなる、少しだけ。

心奪われている僕の頭の中はずっと
君のことでいっぱいだったから告白。

図書館の奥のほうで2人きりの空間の中
「付き合ってほしいです」と素直に伝え。

君の表情を伺うように見る僕に対し
「少し考えさせてほしい」と言われ。

「分かった、連絡先だけ交換していい?」と僕。
「いいよ、また決断出来たら連絡するね」と君。

それから3日後に冒頭の連絡が来た。

--