2025-09-19
『die』

「死に対して恐れはないけれど」
余命1年の君は僕に呟くように。

「大切な人に会えなくなることが怖い」
君の横顔から儚さを感じられてしまう。

まだ夏の陽が差し込む暑さだった。
病室まで蝉の鳴き声が響き渡る中。

僕は君の手を掴んでたった一言だけ
思い浮かんだ言葉を言いそうになる。

「僕も怖いよ、君がいなくなると」

でも君に言うべきではないと思い
「笑おう、一緒にいるときは」と
虚勢を張り笑顔を君に向けていた。

祈る、どうか長生きをして。
握る、君の細くなった手を。

悔いのないような最期にすべく
僕は毎日のように足繁く通った。

窓の外をじっと見つめて沈黙する日があれば
枕を握って嗚咽している日もあったから僕は。

何もしてあげられない無力感に苛まれていた。
ただ話し相手にしかなってあげられないまま。

蝉の鳴き声が遠ざかった秋。

「もう蝉の鳴き声を聞くことはないのかな」
君が窓の外に生えている木を見ながら言う。

僕は何も言うことができなかった。
思い出はたくさんあるというのに。

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