2025-08-23
『過去に戻る』

ご臨終です、と言われた。
付き合っていた恋人の死。

初々しくて自分の望みを
恋人に伝えたが故の結末。

遠距離恋愛だった。
だから中々会えず。

金曜日の夜、「会いたい」と連絡をした。
車で2時間程かかる距離の恋だったから。

恋人が家へ来てくれるまでずっと
通話を繋いで話していたけれども。

早く会いたいという思いは
話しているのに大きくなる。

あと20分ほどで着きそうと言われ
慌てて部屋を掃除していた私は阿呆。

そのとき「気を付けて」と言えていれば。
容易く「会いたい」なんて言わなければ。

さっきまで聞き馴染んでいた声が聞こえた
スピーカーから急にドンッと鈍い音がした。

「痛い、痛い」と呟く恋人の声が聞こえ
「大丈夫?」と声を大きく聞いてみるが。

ずっと「痛い、痛い」と言い続ける恋人。
事故に遭ったのだと私はすぐに勘付いた。

どうすればいいのだろう、と焦る。
スピーカーからは爆発音も聞こえ。

恋人の名前を私は叫んでいた。
けれど応えられるはずもなく。

そのまま通話は途切れてしまった。
きっと事故による故障だと思うが。

目の前が真っ暗になった。
亡くなるのでは、と不安。

あと20分だと言っていたからきっと
近くで事故に遭ったのだろうけれども。

見つけることはできなかった。
どれだけ探したか分からない。

そのとき一通の連絡が入った。
警察からの連絡で全て悟った。

恋人は近くの病院に運ばれたらしい。
まだ生きていてほしいと願い続けた。

病院に着くと、その表情からか
看護師さんに部屋へと案内され。

結果的に救われることはなかった。
どういう事故なのか聞いてみると。

青信号で発進した恋人の車に対して
信号無視した車が突っ込んだのだと。

私が会いたいと言っていなければ
恋人はその場所に居合わせてなく。

まだLINEではあるけれども
話していたのかなと思った。

過去に戻る。

自分の望みをすぐ言葉にはせず
多少なりとも我慢をしている私。

恋人が「日曜日って暇だったりする?」と言う。
私は「たまには会いに行こうかな!」と答える。

「なにそれ、嬉しいじゃん!」と恋人の返信。
その返信を見てニヤニヤする私は気持ち悪い。

けれどこうした何気ないやり取りが
私たちの愛を確かに育んでいたから。

もっと何気ないやり取りを交わしていたい。
もっとお互いのことを知って結婚もしたい。

それが私の望む幸せそのものだった。
そう思いながら恋人の遺体に触れた。

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