2025-09-20
『密かなる恋』

「今日も配信に来てくれてありがとう」
一人暮らしの部屋に配信者の声が響く。

何の趣味もなかった私が唯一
眺めていたアプリでの出会い。

顔出しをしていないというのに
その人の包容力に負けてしまう。

「今日も来ました」とコメントを打つと
すぐに「あ!来てくれたんだ」と言われ。

もっと近くでその人の声を聞きたくなり
イヤホンを手探りでカバンの中から探す。

絡まったイヤホンは現実での私を
表しているかのようで嫌になるが
その人の声を聞けばどうでも良く。

他のリスナーからのコメントが表示される。
「急に配信しててびっくりしました!」と。

「ごめんねぇ」と謝りつつもその人は
「皆と話したくなって」と続けたから。

求められていないだろうに
求められている気がして私。

嬉しくなる、少しだけ。

「私も話したかったです!」とコメントを打つと
「どうした?何を話したいの」と聞かれてしまい。

答えを用意していなかったことで訪れる沈黙。
「声を聞きたかったです」と言い換えてみる。

「なんだ、それ」とその人は呆れた様子だったが
「皆の声も聞いてみたいけどね」と笑っている様。

イヤホンをしていたから聞こえなかっただけで
部屋に置かれている秒針は着々と進んでいった。

「もう寝ようかな」とその人は言った。
夜の静けさが私の寂しさを刺激し始め。

配信者は「今日も来てくれてありがとう」と言い
続けるように「皆も早く寝ましょう!」と言った。

先程までイヤホンから聞こえてきた声が
プツンと聞こえなくなって訪れる寂しさ。

こんなにも近しい存在なのに
途轍もなく遠い存在に感じる。

虚しくなる、少しだけ。

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