2025-08-26
『プロポーズ』

天から命を授けられたのが
人間ということになるなら。

地から命を授けられるのは
花にならまいかと思うたり。

どれもが命を持ち続け
そして儚く終わるから。

もっと大切にすべきだった、と
失ってからようやく気付く阿呆。

大切な人に花を渡しなさい、と
父に言われたことを未だ忘れず。

私は恋人に花束を渡したことがある。
恋人は少しロマンチストだったから。

花束を渡されたお礼にと言って
指輪と共にプロポーズをされた。

私は「はい」と言って微笑んだ。
恋人も「良かった」と安堵した。

数日後、恋人が両親の元を訪れる機会があった。
早々に「娘さんと結婚します」と言い切る恋人。

父は恋人に向かってただ一言だけ
「お花を貰ったかい?」と言った。

恋人は想定していなかった言葉を言われ
あたふたとしているようだったけれども。

「貰いました、薔薇でした」と言った。
父は「そうかい、そうかい」と言うと。

「僕と妻が天から授かった命なんだ」と言い
「傷付けるようなことは許さないよ」と続け。

「薔薇の花言葉が全てだよ」と言った。

恋人は花言葉を知っていたのだろうか。
「ありがとうございます」と頭を下げ。

キッチンから料理を運んでくる母の
「作りすぎちゃった」という言葉で
その場の緊張感は一気に緩んでいた。

そういえばいつも見慣れていたけれど
キッチンに貼られている写真の中には
花束を抱えた母と父が写っていたから。

きっと父も母と結婚をしようと思ったとき
花束の力を借りたのだろうと思ったりした。

命は儚く短いものだけれども
続けさせようと思えばきっと。

どこまでも続くのだと思う。

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