2025-09-05
『運命の人』

「君のことが忘れられないの」と言われた。
久しぶりに元カノから連絡が送られてくる。

円満に別れてしまったからきっと
未だ好意を抱き続けているのだと。

「僕も忘れられないよ」と言ってみた。
「無理に忘れなくていいよ」と続ける。

無理に忘れようとしてしまうから人は
忘れることができないと本で見たから
それを元カノにも知ってもらいたくて。

「でも付き合っているわけではないのに」
「君のことを思い浮かべては泣いている」
元カノは思っていることを書いてくれた。

別れた原因は遠距離になってしまうからだった。
元カノは地元に残り、僕は県外へと進学をする。

距離を理由に別れるべきではなかった。
心ではずっと近くで繋がっていたのに。

遠距離になっても連絡をする日々が続いた。
けれどお互いが忙しくなってしまったが故。

連絡の頻度が日に日に減っていった。
そして「別れよう」となったけれど。

あのとき僕たちに必要だったのは
別れではなく出会いだったのだと。

気付いていた、気付いていたはず。

忙しさを理由にして別れてしまった。
きっとそれも運命なのだろうけれど。

「運命の人とは1度別れる」という言葉を
僕は信じてこれまで必死に生きてきたから。

元カノからの連絡が来たときは
運命の相手だったんだと思った。

「色々あったからね、僕らは」と言ってみると。
「思い出が多すぎて悲しみも大きい」と言われ。

思い出は幸せなものばかりだと思っていたけれど
増えれば増えるほど悲しみも大きくなると知った。

「よかったら会えない?」と元カノから言われる。
「ごめんね、会うことはできない」と僕は言った。

左薬指に嵌められている指輪を撫でながら一言。

「僕、結婚したんだよね」

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