2025-09-12
『守りたさ』

「守るべきものができた」と友人は言った。
結婚をして子供にも恵まれたが故のセリフ。

「羨ましいな」と言ってあげればきっと
友人は満面の笑みで私に笑いかけてくる。

「ふーん」と素っ気ない態度をすれば
友人は不満そうな顔をしてしまうから。

「羨ましいな」と言ってあげた。
案の定、友人は笑いかけてくる。

「君も恋人を作りなよ」と言われた。
思いやりのないところが嫌いだった。

でも凄く幸せそうな雰囲気を壊したくなく
「恋人ねぇ」と濁らせて終わらせたけれど。

友人は「絶対にいい人がいるよ」と続けてくるから
私は「そうだと良いんだけどね」と軽くあしらった。

守るべきものが増えること自体
幸せなことなのだと思うけれど。

その分、弱くなってしまう気がして。

守れなかったときの自分が情けなく
そのときに泣いてしまいそうだから。

両親が私のことを守ってくれている。
それはれっきとした愛なのだと思う。

けれど私が事故や事件に巻き込まれてしまえば
きっと両親は深い傷を負うことになってしまう。

守るべきものを増やしてしまえば人は
弱くなっていくのだと気付いてしまい。

友人の笑顔がなんだか可哀そうに見える。
今はこんなにも満面の笑みだというのに。

「子供の成長が楽しみだね」と私は言った。
「大変だけど楽しみだよ」と友人は答えた。

屈託のない笑顔を向けられて私は
眩しくて友人と目を合わせられず。

子どものほうに目をやった。
小さな手をフリフリしてる。

守りたい、と思った。

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