私はディミトリの体を自由には動かせないんだけど、体の感覚は共有しているから、自分が彼のように頭が良くなったような、そんなありえない錯覚を持ってしまった。

 唐突にバタバタとこちらへ走ってくる大きな足音が聞こえて、ディミトリははっと顔を上げたので私は驚いた。

「っ……リズウィン? ……お前に、聞きたいことがある。何故、お前は魔法薬の授業に出ずに、ここに居るんだ? ……そして、それにシンシアは関わっているのか?」

 そこに居たのは走って来て、はあはあと荒い息を吐き、必死な表情をしたヒューだった。

「……ヒューバート・ルケア? シンシアを、知っているのか?」

 ディミトリは驚いた様子でヒューの言葉を聞いていたけど、彼の中に居る私のことを話して良いものか戸惑っているようだった。

 こんな話をしてヒューに信じて貰えるのか、今までただダークエルフの血が流れているだけで彼は色んなことを言われて来たはずだから……咄嗟に説明が出来ないのも仕方ないのかもしれない。

「……知っている。お前の話をして走り出した彼女は、今は意識をなくして昏睡状態だ。前にも同じようなことがあった。そして、お前……リズウィンが出るはずだった授業で、事故が起きて数人が怪我をした。おい。彼女に何があった?」

「事故が? ……シンシアの占いは、本当に当たるのか」

 ディミトリはヒューの話を呆然とした様子で呟き、そして私はディミトリにトラウマを植え付けられることから助けられたという安心感からか……彼の中にある意識が急に遠のいていくのを感じた。