「無事終わった~?」
「わっ」

 陽菜を見送る道花と、その近くに立つ舷との間にひょっこり顔を出したのは西宮だった。

「ごめ~ん、驚かして」

 西宮は顔の前で手を合わせて、お茶目に見せようとしているのか首をこてんと傾ける。道花は西宮と舷とを交互に見る。腕組みをしそうになったけれど、それはやめた。

「西宮くんは、なんで?」
「え、なんかめっちゃ説教モード? いや、なんかこないだ飲み会でお店に来てたやん。その時に連絡先交換してん」
「なんで」

 いつの間に。舷と西宮との間で、そこまでする何かがあっただろうか。というかその時、道花と舷のほうはまだ連絡先を交換していなかったはずだ。謎すぎる。

「で、文城大学って聞いてたから、今回いろいろ協力してもらった」
「陽菜ちゃん、一応他大学の人やん? 勝手に入ってもあかんよなーってなって、俺が一緒にお茶してた」

 厳密にはそれでも駄目な気はするが、突っ込まないでおいた。道花の予想以上に、舷が裏で動いてくれていたということだ。

「……ありがとう」
「気にせんといて。またバイトでな。いろいろがんばろ」

 西宮は優しく言うと、手を振って去っていく。
 たくさんの人を巻き込んで、助けてもらった。
 それを改めて噛み締めながら、後ろを振り返った。
 そこには、口を一の字に引き締めて、完全に怒られ待ちの姿勢の舷が立っていた。彼に、いったい何を言うべきか。
 ここまで動いてくれたことへの感謝。でも、勝手に道花の知り合いにも手を回していたことには、少しくらい文句を言ってもいいはずだ。

「……いくらでも責めてくれていい」

 でも、舷の口から出てきた言葉に、その考えは吹っ飛んだ。説明する気はなく、分かってもらえるとは一切思っていないのが伝わってくる。

「なにそれ」

 自分の想像以上に寂しく落ちた言葉に、舷がはっと顔を上げた。

「ちゃんと説明してよ。事前に聞いてたら、きっと私は反対してたけど。でも……それでも、こんなのは、違うでしょ」

 西宮の言葉じゃないけれど、結局、説教みたいになってしまった。
 舷の瞳が、困ったように揺れる。
 その切なそうな表情に、やっと気づいた。
 これは、私の蒔いた種だ。

「舷から逃げて……拒絶したのは、私だったね」

 そうぼそりと落として俯く。
 舷は、否定はせず黙っていた。

「そんな私が言うのはお門違いかもしれないけど……これからは、ちゃんと話そう。分かり合えなくても」
「これから……」

 舷が驚いた様子で言うから、道花は首を傾げた。

「なに?」
「いや……」

 どこか、バツの悪そうな表情だ。

「今度こそ……縁を切られる覚悟だった」

 胸が切なくなった。うぬぼれじゃなく、私がつけてしまった傷。

「もう、そんなことしない」

 大人になるんだから。
 目頭が熱くなったけれど、ちゃんと笑うことにした。
 二人とも目を潤ませて、見つめ合う。それから、どちらからともなく笑った。