試合当日、駅の改札を出たところで待ち合わせた紬は、ルールブックを片手に現れた。
「そこから入るかぁ」
「いや、そういうもんでしょ! ほかの競技への敬意の示し方として!」
莉央の突っ込みに紬は胸を張る。道花は莉央と顔を見合わせた。
「どちらかというと最初はルールとかあんまり気にせずに、なんていうか、出し物見るみたいに楽しんだほうがいい気がするな」
道花の言葉に、莉央もうんうんと頷く。
「そう思うよ。今のプレー、なんかわかんないけどかっこいい、から始まって、なんで今ファウルなの!? とか思うところがあればルールを調べる、みたいな」
「え~、そういうもん~?」
会場になっている桜日大学に向かって歩きながら、紬が不満げにルールブックを鞄にしまう。うんうんと頷きながら莉央が言った。
「とりあえず私としては、まずは舷くんを見てほしいかな」
「それもどうかと思う」
道花は莉央の言葉に突っ込みを入れつつ、スマホで地図を確認する。道を曲がると大通りに出た。左右は桜並木だ。大通りの突き当りに見えるのが、目的の桜日大学のようだ。
「これ、春めっちゃ綺麗だろうね」
「うちの大学あんまり桜ないからなぁ」
目に入ってくるものについてほとんど反射で会話を交わしながら、大学構内に入る。試合が行われるのは体育館のBコートらしい。
「よかった、今回は普通の体育館だ」
「え、なんで?」
会場に入った道花は、ついそう零してしまった。紬がきょとんとする。
「インカレの準決勝、野々木体育館だったんだよ」
「え、ライブとかもやってる?」
「そうそう。プロモーション動画とか音響とか証明とか、なんかめっちゃお金かかってた」
「言い方」
周りに人もいるのに。莉央の背中をぱしっと叩くと、今度は紬がむくれている。
「え~、そっちがよかった」
「あっ! また紬が思い出して騒ぐ! この話はやめよう!」
莉央がはっとなって、腕を交差させて大げさなバツ印を作っている。道花は、まだ何か言いたげな紬を強引に席に座らせた。
「こんな近くで見れるんだ? 舷くんどこ?」
「えっとね、あ、あそこ」
紬の意識はすぐにコートに向いてくれたようだ。莉央がその隣で身を乗り出して下を指差している。道花は苦笑しながら、そちらは見ずに、会場を見渡した。
(これは、たしかに近すぎるかも)
シュートの練習をしていた選手たちがボールを片付けて、コートを横切るダッシュを始めている。
高校の時をますます思い出しそうだ。久しぶりに見たバスケの試合がここじゃなくて、あの大きな会場でよかったかもしれない。
「背ぇたっか、かっこよ」
「でしょ?」
二人の声に釣られて、莉央の指の先を見る。舷だ。
息一つ乱さずに、軽やかなダッシュを繰り返している。ぼんやりとそれを眺めていると、コートを横切った舷がこちらを向いて、目線を上げた。
「あ」
莉央の声がして、
舷と目が合う。
その目が、ほんの少し細められた。
「ふぅ~ん」
一瞬、時間が止まったかと思った。気づけば、莉央と紬に生ぬるい目で見られていた。
「……なに」
「いや、そういう感じなんだぁ~って思って」
「なにそれ」
「紬」
莉央が「みなまで言うな」みたいな顔で首を横に振っている。
(そういう感じって、なに)
面倒くさくなりそうだったのでそれ以上突っ込まなかったが、熱くなった頬をごまかすように、頬杖をついて顔を半分隠した。
「そこから入るかぁ」
「いや、そういうもんでしょ! ほかの競技への敬意の示し方として!」
莉央の突っ込みに紬は胸を張る。道花は莉央と顔を見合わせた。
「どちらかというと最初はルールとかあんまり気にせずに、なんていうか、出し物見るみたいに楽しんだほうがいい気がするな」
道花の言葉に、莉央もうんうんと頷く。
「そう思うよ。今のプレー、なんかわかんないけどかっこいい、から始まって、なんで今ファウルなの!? とか思うところがあればルールを調べる、みたいな」
「え~、そういうもん~?」
会場になっている桜日大学に向かって歩きながら、紬が不満げにルールブックを鞄にしまう。うんうんと頷きながら莉央が言った。
「とりあえず私としては、まずは舷くんを見てほしいかな」
「それもどうかと思う」
道花は莉央の言葉に突っ込みを入れつつ、スマホで地図を確認する。道を曲がると大通りに出た。左右は桜並木だ。大通りの突き当りに見えるのが、目的の桜日大学のようだ。
「これ、春めっちゃ綺麗だろうね」
「うちの大学あんまり桜ないからなぁ」
目に入ってくるものについてほとんど反射で会話を交わしながら、大学構内に入る。試合が行われるのは体育館のBコートらしい。
「よかった、今回は普通の体育館だ」
「え、なんで?」
会場に入った道花は、ついそう零してしまった。紬がきょとんとする。
「インカレの準決勝、野々木体育館だったんだよ」
「え、ライブとかもやってる?」
「そうそう。プロモーション動画とか音響とか証明とか、なんかめっちゃお金かかってた」
「言い方」
周りに人もいるのに。莉央の背中をぱしっと叩くと、今度は紬がむくれている。
「え~、そっちがよかった」
「あっ! また紬が思い出して騒ぐ! この話はやめよう!」
莉央がはっとなって、腕を交差させて大げさなバツ印を作っている。道花は、まだ何か言いたげな紬を強引に席に座らせた。
「こんな近くで見れるんだ? 舷くんどこ?」
「えっとね、あ、あそこ」
紬の意識はすぐにコートに向いてくれたようだ。莉央がその隣で身を乗り出して下を指差している。道花は苦笑しながら、そちらは見ずに、会場を見渡した。
(これは、たしかに近すぎるかも)
シュートの練習をしていた選手たちがボールを片付けて、コートを横切るダッシュを始めている。
高校の時をますます思い出しそうだ。久しぶりに見たバスケの試合がここじゃなくて、あの大きな会場でよかったかもしれない。
「背ぇたっか、かっこよ」
「でしょ?」
二人の声に釣られて、莉央の指の先を見る。舷だ。
息一つ乱さずに、軽やかなダッシュを繰り返している。ぼんやりとそれを眺めていると、コートを横切った舷がこちらを向いて、目線を上げた。
「あ」
莉央の声がして、
舷と目が合う。
その目が、ほんの少し細められた。
「ふぅ~ん」
一瞬、時間が止まったかと思った。気づけば、莉央と紬に生ぬるい目で見られていた。
「……なに」
「いや、そういう感じなんだぁ~って思って」
「なにそれ」
「紬」
莉央が「みなまで言うな」みたいな顔で首を横に振っている。
(そういう感じって、なに)
面倒くさくなりそうだったのでそれ以上突っ込まなかったが、熱くなった頬をごまかすように、頬杖をついて顔を半分隠した。
