「明海小学校の体育館、だよね。明海バスケットボ―ルクラブ」
「そうそう、えー、ちゃんと調べてる。えらい」
「まぁね……」
先日何も調べずに失敗したからだとは言えず、道花は曖昧に頷いた。
明海バスケットボールクラブは、特に有名なOBやOGがいるわけではないが、やる気のある子が多く、評判がいいらしい。
「山口さーん」
体育館に入り詩織が手を振ると、がたいのいい男性がこちらを振り返って、太陽のような笑顔を見せる。
「わー、鈴原さん、お友達も。今日はほんとにありがとうございます」
さわやかな笑顔に、道花の緊張が一気に解れる。
「女子も男子も、結構人数いますね」
山口の陰から顔をひょこりと出して、集まっている子どもたちを眺めてみる。
「そう、真面目な子も多くて、口コミで安心できるって評判が広がったみたいで。上手い子もいるから、ここでいいのかなって思うこともあるんだけど」
「山口さんは、何かスポーツを?」
「俺アメフトなんですよね。質問されると分からないことも多くて。だからこうして経験者の子たちに来てもらえると、ほんとありがたい」
大きい身体を縮めて手を合わせる姿が、彼の人の良さを伝えてくる。
(この人が詩織の気になってる人なのかな?)
なんとなく、今までの詩織のタイプとは違うような気もする。詩織のほうをちらりと見ると、彼女はなんだか落ち着きなく視線をさまよわせていた。
「あ、あと、今日はタイミングよくて、普段来てくれてる男の子にも会ってもらえるかも」
「そうなんですね」
子どもたちのほうを見ながら、山口の言葉になんとなく相槌を打つ。
(ん? 男の子?)
「あ、きたきた!」
遅れて情報が頭に入ってきて、首を傾げた瞬間。
「水上くん!」
その名前に、身体ががちりと固まった。
(まさか)
ぎぎぎ、と錆びたロボットみたいな動きで入り口のほうを向く。
「山口さんすいません、遅れてしま……って……」
入ってきた彼は、道花のほうを見て、完全に動きを止めた。
また見開かれた目が道花のほうを向いている。今度はすぐに目を逸らすことはしなかったけれど、舷、とつぶやいた声は、声にはならなかった。
「ん? あれ? 知り合い?」
「わ、ほんとだ、ぐうぜ~ん」
詩織のやけに高い声に、彼女がこれを仕組んだのだと確信する。
相変わらず同じ姿勢で固まったままの舷、そして、その雰囲気に首を傾げながらも、笑顔で舷と道花を交互に見る山口。問い詰めるのは後にするしかない。
「はい、高校の同級生です」
そう言って、山口に気づかれないように詩織の服を引っ張った。自分で蒔いた種なんだから何かフォローしてくれればいいのに、なぜかきょとんとした顔をして、山口と同じように舷と道花を交互に見ている。
「ちょっと、なんか言ってよ」
「山口さん」
その時、舷が、先日聞いたものよりも少し高めの声で言った。
「すいません、俺たちも偶然でびっくりしました」
柔らかい笑顔まで見せていてぎょっとなる。これは本当にあの舷か?
「そっか! 大丈夫? 二人とも気まずくないかな? ……って、目の前で聞いたら意味ないか」
別人のような姿にぽかんとなっていると、山口がそう冗談を言って笑った。めちゃくちゃ気まずい相手だなんて、夢にも思っていないのだろう。はっきり返事をするのは避けて、あはは、と愛想笑いをしてごまかした。
「あ、でもそろそろ時間だ。じゃあごめん、早速だけど、子どもたちに紹介するね」
「はい」
そう言うと、山口は道花に向かって手招きする。女の子たちの前に連れて行かれて、舷から離れることができてほっとする。
子どもたちは私語をすることもなく背筋を正して並び、こちらを見ていた。
その目がまるで何かを見定めるみたいに見えて少しどきりとしたけれど、まっすぐ顔を上げて、精一杯笑顔を作る。
「武智大学二年生の、広瀬道花です。高校は晴翔高校に通っていました。よろしくお願いします」
「そうそう、えー、ちゃんと調べてる。えらい」
「まぁね……」
先日何も調べずに失敗したからだとは言えず、道花は曖昧に頷いた。
明海バスケットボールクラブは、特に有名なOBやOGがいるわけではないが、やる気のある子が多く、評判がいいらしい。
「山口さーん」
体育館に入り詩織が手を振ると、がたいのいい男性がこちらを振り返って、太陽のような笑顔を見せる。
「わー、鈴原さん、お友達も。今日はほんとにありがとうございます」
さわやかな笑顔に、道花の緊張が一気に解れる。
「女子も男子も、結構人数いますね」
山口の陰から顔をひょこりと出して、集まっている子どもたちを眺めてみる。
「そう、真面目な子も多くて、口コミで安心できるって評判が広がったみたいで。上手い子もいるから、ここでいいのかなって思うこともあるんだけど」
「山口さんは、何かスポーツを?」
「俺アメフトなんですよね。質問されると分からないことも多くて。だからこうして経験者の子たちに来てもらえると、ほんとありがたい」
大きい身体を縮めて手を合わせる姿が、彼の人の良さを伝えてくる。
(この人が詩織の気になってる人なのかな?)
なんとなく、今までの詩織のタイプとは違うような気もする。詩織のほうをちらりと見ると、彼女はなんだか落ち着きなく視線をさまよわせていた。
「あ、あと、今日はタイミングよくて、普段来てくれてる男の子にも会ってもらえるかも」
「そうなんですね」
子どもたちのほうを見ながら、山口の言葉になんとなく相槌を打つ。
(ん? 男の子?)
「あ、きたきた!」
遅れて情報が頭に入ってきて、首を傾げた瞬間。
「水上くん!」
その名前に、身体ががちりと固まった。
(まさか)
ぎぎぎ、と錆びたロボットみたいな動きで入り口のほうを向く。
「山口さんすいません、遅れてしま……って……」
入ってきた彼は、道花のほうを見て、完全に動きを止めた。
また見開かれた目が道花のほうを向いている。今度はすぐに目を逸らすことはしなかったけれど、舷、とつぶやいた声は、声にはならなかった。
「ん? あれ? 知り合い?」
「わ、ほんとだ、ぐうぜ~ん」
詩織のやけに高い声に、彼女がこれを仕組んだのだと確信する。
相変わらず同じ姿勢で固まったままの舷、そして、その雰囲気に首を傾げながらも、笑顔で舷と道花を交互に見る山口。問い詰めるのは後にするしかない。
「はい、高校の同級生です」
そう言って、山口に気づかれないように詩織の服を引っ張った。自分で蒔いた種なんだから何かフォローしてくれればいいのに、なぜかきょとんとした顔をして、山口と同じように舷と道花を交互に見ている。
「ちょっと、なんか言ってよ」
「山口さん」
その時、舷が、先日聞いたものよりも少し高めの声で言った。
「すいません、俺たちも偶然でびっくりしました」
柔らかい笑顔まで見せていてぎょっとなる。これは本当にあの舷か?
「そっか! 大丈夫? 二人とも気まずくないかな? ……って、目の前で聞いたら意味ないか」
別人のような姿にぽかんとなっていると、山口がそう冗談を言って笑った。めちゃくちゃ気まずい相手だなんて、夢にも思っていないのだろう。はっきり返事をするのは避けて、あはは、と愛想笑いをしてごまかした。
「あ、でもそろそろ時間だ。じゃあごめん、早速だけど、子どもたちに紹介するね」
「はい」
そう言うと、山口は道花に向かって手招きする。女の子たちの前に連れて行かれて、舷から離れることができてほっとする。
子どもたちは私語をすることもなく背筋を正して並び、こちらを見ていた。
その目がまるで何かを見定めるみたいに見えて少しどきりとしたけれど、まっすぐ顔を上げて、精一杯笑顔を作る。
「武智大学二年生の、広瀬道花です。高校は晴翔高校に通っていました。よろしくお願いします」
