結衣の提案やみんなの声は拾って、全部言いなりというわけではないが、ちゃんと早森に相談して取り入れてもらっているつもりだ。
「だって結衣、一緒に先生のとこ行こうって言ったけどこなかったじゃん」
「えー、そんなの、二人がかりで言いくるめるつもりでしょ?」
「は?」
かちんとなった。そんなふうに思ってたのか、と愕然となる。
だが、結衣の言葉は止まらない。
「道花はお気に入りだからいいけどさ、私がそんなふうに意見言ったら、ベンチに入れてもらえなくなりそうだし~」
「お気に入りでもないし、そんなことあるわけないじゃん……!」
「どうかなぁ~」
そう言ってにやにや笑った結衣が周りを見渡すと、何人かが同じような笑いを浮かべていた。
背筋がぞくりとなる。
(最悪……)
自分のいないところで、確実に、悪口を言われている。
急に、誰一人味方がいないような、常に言動を監視されているような気持ちになった。
部活から離れても、ずっと。
*
誰も味方がいないかもしれない。
それを錯覚だと思いたくて、道花は、詩織に話すことにした。
「え、まじ。そんなことなってんの?」
怒られるかと思ったけれど、そんなことはなかった。詩織の顔には、純粋に道花を心配していると書いてある。
詩織のそばなら、大丈夫だ。
道花は、久しぶりにちゃんと呼吸ができるような気持ちになった。
「ごめん、せっかく忠告してくれたのに」
「ちょっと待って、もしかしてそれで今まで言わなかったの?」
詩織が頭を抱えている。
「ほんとにごめん、あれは……そういうつもりじゃなく……いや、そうだったのかな。でも、道花が責められることじゃない。そういう相手は当たり屋だよ。100%、相手が悪い」
はっきりとそう言ってもらえて、内心ほっとなる。
「ちなみに、誰?」
ごめんね、ともう一度謝ったあと、そう尋ねた詩織の声色はさっきまでと違った。なんだか、獲物を狙うような。
「三組の……尾澤結衣って分かる?」
「尾澤結衣? あー、あいつか。ちょっと派手めな?」
「そう」
詩織が不快そうに顔を歪めながら言う。
「中学のバスケ部にはいなかったタイプだよね。地学の授業で一緒だけど、なんとなくアレかな。自分が中心にいたいタイプ?」
「多分、そう」
自分が中心。その言葉が刺さった。そうだ。結衣はずっとそうだった。分かっていたのに。
道花は別に、そんなことどうでもよかった。キャプテンになりたくなんてなかった。なのに、選択を間違えてしまった。
机に額を当てる。
「悔しい。あの子もすごいいいプレーはするし、本当なら、いいチームになるはずだったのに」
今は表面上チームを保てているが、これからどうなるか分からない。
「道花が背負うことじゃない」
優しく頭をぽんぽんと叩かれて、じわりと涙が浮かんできた。
「あんたが推薦されたのは多分、チームを上手くまとめてくれそうとか、そういう理由じゃないでしょ。そもそも、本来キャプテン一人で全部背負うのが無茶だって。大人のチームだって、何人もに分けてマネジメントするんだよ? あ、そういや顧問……監督は? まあこうなるまで放っておくようなやつ、期待できないけど」
「メンバーに任せる主義というか……あんまり、人間関係のことは相談してくれるなって感じ」
「なんだそれ」
詩織は呆れたように言って、「厳しいな」と零した。
「私がそいつに言いに行ってもいいけど……それじゃ解決しないもんね。くっそ~、バスケ部入っとくべきだった」
「いやいや、詩織は詩織の高校生活、楽しんでくれてたらいいよ」
そう言いつつ、道花は少しだけ、心の中の重荷が軽くなっているのを感じた。何も解決はしていないけれど、話を聞いて共感してもらえたのはありがたかった。
道花の頑張りに関係なくどうしようもない状況だというのが、逆に気を楽にしてくれたのもある。
陰口だって、今のところ道花の想像だ。
面と向かって言われていないなら、ないものとして扱えばいい。
(とりあえず、現状維持で。なんとかこのまま、のらりくらりとやっていければ……)
一年だけ。たった、それだけだ。
「だって結衣、一緒に先生のとこ行こうって言ったけどこなかったじゃん」
「えー、そんなの、二人がかりで言いくるめるつもりでしょ?」
「は?」
かちんとなった。そんなふうに思ってたのか、と愕然となる。
だが、結衣の言葉は止まらない。
「道花はお気に入りだからいいけどさ、私がそんなふうに意見言ったら、ベンチに入れてもらえなくなりそうだし~」
「お気に入りでもないし、そんなことあるわけないじゃん……!」
「どうかなぁ~」
そう言ってにやにや笑った結衣が周りを見渡すと、何人かが同じような笑いを浮かべていた。
背筋がぞくりとなる。
(最悪……)
自分のいないところで、確実に、悪口を言われている。
急に、誰一人味方がいないような、常に言動を監視されているような気持ちになった。
部活から離れても、ずっと。
*
誰も味方がいないかもしれない。
それを錯覚だと思いたくて、道花は、詩織に話すことにした。
「え、まじ。そんなことなってんの?」
怒られるかと思ったけれど、そんなことはなかった。詩織の顔には、純粋に道花を心配していると書いてある。
詩織のそばなら、大丈夫だ。
道花は、久しぶりにちゃんと呼吸ができるような気持ちになった。
「ごめん、せっかく忠告してくれたのに」
「ちょっと待って、もしかしてそれで今まで言わなかったの?」
詩織が頭を抱えている。
「ほんとにごめん、あれは……そういうつもりじゃなく……いや、そうだったのかな。でも、道花が責められることじゃない。そういう相手は当たり屋だよ。100%、相手が悪い」
はっきりとそう言ってもらえて、内心ほっとなる。
「ちなみに、誰?」
ごめんね、ともう一度謝ったあと、そう尋ねた詩織の声色はさっきまでと違った。なんだか、獲物を狙うような。
「三組の……尾澤結衣って分かる?」
「尾澤結衣? あー、あいつか。ちょっと派手めな?」
「そう」
詩織が不快そうに顔を歪めながら言う。
「中学のバスケ部にはいなかったタイプだよね。地学の授業で一緒だけど、なんとなくアレかな。自分が中心にいたいタイプ?」
「多分、そう」
自分が中心。その言葉が刺さった。そうだ。結衣はずっとそうだった。分かっていたのに。
道花は別に、そんなことどうでもよかった。キャプテンになりたくなんてなかった。なのに、選択を間違えてしまった。
机に額を当てる。
「悔しい。あの子もすごいいいプレーはするし、本当なら、いいチームになるはずだったのに」
今は表面上チームを保てているが、これからどうなるか分からない。
「道花が背負うことじゃない」
優しく頭をぽんぽんと叩かれて、じわりと涙が浮かんできた。
「あんたが推薦されたのは多分、チームを上手くまとめてくれそうとか、そういう理由じゃないでしょ。そもそも、本来キャプテン一人で全部背負うのが無茶だって。大人のチームだって、何人もに分けてマネジメントするんだよ? あ、そういや顧問……監督は? まあこうなるまで放っておくようなやつ、期待できないけど」
「メンバーに任せる主義というか……あんまり、人間関係のことは相談してくれるなって感じ」
「なんだそれ」
詩織は呆れたように言って、「厳しいな」と零した。
「私がそいつに言いに行ってもいいけど……それじゃ解決しないもんね。くっそ~、バスケ部入っとくべきだった」
「いやいや、詩織は詩織の高校生活、楽しんでくれてたらいいよ」
そう言いつつ、道花は少しだけ、心の中の重荷が軽くなっているのを感じた。何も解決はしていないけれど、話を聞いて共感してもらえたのはありがたかった。
道花の頑張りに関係なくどうしようもない状況だというのが、逆に気を楽にしてくれたのもある。
陰口だって、今のところ道花の想像だ。
面と向かって言われていないなら、ないものとして扱えばいい。
(とりあえず、現状維持で。なんとかこのまま、のらりくらりとやっていければ……)
一年だけ。たった、それだけだ。
