「ええ~? うーん、どうしようかな」
まさにさっき向いていない、と思ったことだ。気が向かないという態度を隠さず苦笑いする。だが。
――こういう時、うん行く! って元気に返せないところが良くないんじゃない?
頭の隅でそんな声がして、はっとなった。
「あ、い、行こうかな!」
勢いよく顔を上げて、莉央と目が合う。強引に明るくしようとした声はひっくり返って、顔が熱くなった。莉央がぱちりと目を瞬かせて、それから吹き出した。
「行きたくなさそうすぎる!」
こちらを指差して笑われて、少しむっとなる。せっかくほんの少しだけでも自分を変えてみようと思ったところだったのに。
「いや、なんか、ノリが悪いのはよくないかと思って……」
「どうしたの今さら」
明らかに面白がる笑みがこちらを向いていて、ごにょごにょと言い訳をする。自分でもはっきりした答えを持っていなくて黙り込むと、莉央はぴしゃりと言った。
「正直すぎるし、そもそも道花には向いてないよね」
「ひどっ」
「何? 朝から説教?」
ショックを受けたことを隠せずにいると、後ろから、荷物を置く音と一緒にそんな声が飛んできた。
「あ、紬、おはよ~」
「道花がかわいくて笑ってただけ」
「思ってもないことを……」
莉央がからかうように言うから、そちらをじろりと見た。でも、これは道花が苦手なからかいとは違う。
「かわいいといえば、こないだの合コンもだよね。面白くない……何コレ……って顔してて」
「あれやばかった」
くっくっくっと二人は顔を見合わせて笑う。人のことを面白がりすぎだ。苦手なからかいではなくても、文句はつけたくなる。
「だってあんなの、何が面白いのかわかんないよ! 二人、ほんとに楽しかった?」
「え~、楽しかったよ」
「雰囲気イケメンくんもいたじゃん。あれは当たりの回だよ」
嘘をついているようには見えない二人を、信じられないという気持ちで見返す。
あの日、二人は確かに、いつもの二人とはほんの少し違って、キャッキャッと高い声を出し、初対面の男の子との会話を楽しんでいた。
道花は、はぁっとわざとらしく溜め息をついた。
「コミュ力が違いすぎるよ……」
「道花、それが道花のいいとこだよ。自信持って?」
褒められているのか蔑まれているのか、よく分からない微妙なラインで慰められて、道花はまた莉央をじろりと見た。
*
「やばいやばい遅れる!」
食堂でだらだらしゃべっていたら時間ギリギリになって、道花は紬と並んで慌ててグラウンドに向かっていた。ちらりと見ると、人は集まっているけれどまだ講師は来ていないようだ。間に合った。
しれっと集団に混じってさっきからここにいましたという顔をしていると、そのすぐあとに、サッカーボールを手に持って講師がやってきた。
スポーツ科学科には実技の授業がある。この学科では保健体育の教員免許がとれるようになっていて、他にも野球やバレーなんかがある。中学や高校の体育の授業と似ているかもしれない。
最初は軽くストレッチをしてパス練から。
本気の部活とも高校の授業とも違うゆるい雰囲気で、みんなリラックスしている。主要スポーツの基本ルールを学ぶための科目のはずだが、実質は友だちとのおしゃべりタイムだ。
「道花って高校の部活バスケだったよね?」
道花がゆっくりボールを蹴ると、それを辿々しく足で止めた紬がそう聞いてきた。
「そうだよ」
「バスケはとらなかったの?」
「もう十分ルールとか分かってるからさ。違うのやってみたいなと思って」
少し声が硬くなってしまったけれど、紬は気づかなかったようだ。
「たしかに。この緩さだしね」
笑って納得する紬に聞き返す。
「紬は柔道だったっけ?」
「そうそう、私は球技が」
その言葉とともに、紬の足はスカッと音がしそうな勢いでボールの横を滑った。
「あー! ほら! すぐこうなる!」
「ごめん!」
「いやいや、私球技がほんとだめで」
ボールを抱えて戻ってくると、紬はうんざりした表情で言った。
「就職、なに目指したらいいか分かんないや。教職もとってるけど、球技こんなんだときっと駄目だよね」
「え~? 関係ないんじゃないかな、自分がプレーするわけじゃないし……あ、でも部活持たされるとそうはいかないか。やったことなくても指導しないとだもんね」
「やだー」
大空に向かって叫ぶように言うから、ふはっと吹き出してしまった。
同時にピー、とホイッスルが鳴り、パス練習をやめてゴール前に集合した。
「高校の同級生でさ、騎手になるって言って馬術学校行った子がいてー」
「へぇ、馬術!」
三チームに分かれて試合が始まった。残り二チームが試合をしている間、残りのメンバーは見学だ。目線はボールを追いながら紬が話し始めたので、耳を傾ける。
まさにさっき向いていない、と思ったことだ。気が向かないという態度を隠さず苦笑いする。だが。
――こういう時、うん行く! って元気に返せないところが良くないんじゃない?
頭の隅でそんな声がして、はっとなった。
「あ、い、行こうかな!」
勢いよく顔を上げて、莉央と目が合う。強引に明るくしようとした声はひっくり返って、顔が熱くなった。莉央がぱちりと目を瞬かせて、それから吹き出した。
「行きたくなさそうすぎる!」
こちらを指差して笑われて、少しむっとなる。せっかくほんの少しだけでも自分を変えてみようと思ったところだったのに。
「いや、なんか、ノリが悪いのはよくないかと思って……」
「どうしたの今さら」
明らかに面白がる笑みがこちらを向いていて、ごにょごにょと言い訳をする。自分でもはっきりした答えを持っていなくて黙り込むと、莉央はぴしゃりと言った。
「正直すぎるし、そもそも道花には向いてないよね」
「ひどっ」
「何? 朝から説教?」
ショックを受けたことを隠せずにいると、後ろから、荷物を置く音と一緒にそんな声が飛んできた。
「あ、紬、おはよ~」
「道花がかわいくて笑ってただけ」
「思ってもないことを……」
莉央がからかうように言うから、そちらをじろりと見た。でも、これは道花が苦手なからかいとは違う。
「かわいいといえば、こないだの合コンもだよね。面白くない……何コレ……って顔してて」
「あれやばかった」
くっくっくっと二人は顔を見合わせて笑う。人のことを面白がりすぎだ。苦手なからかいではなくても、文句はつけたくなる。
「だってあんなの、何が面白いのかわかんないよ! 二人、ほんとに楽しかった?」
「え~、楽しかったよ」
「雰囲気イケメンくんもいたじゃん。あれは当たりの回だよ」
嘘をついているようには見えない二人を、信じられないという気持ちで見返す。
あの日、二人は確かに、いつもの二人とはほんの少し違って、キャッキャッと高い声を出し、初対面の男の子との会話を楽しんでいた。
道花は、はぁっとわざとらしく溜め息をついた。
「コミュ力が違いすぎるよ……」
「道花、それが道花のいいとこだよ。自信持って?」
褒められているのか蔑まれているのか、よく分からない微妙なラインで慰められて、道花はまた莉央をじろりと見た。
*
「やばいやばい遅れる!」
食堂でだらだらしゃべっていたら時間ギリギリになって、道花は紬と並んで慌ててグラウンドに向かっていた。ちらりと見ると、人は集まっているけれどまだ講師は来ていないようだ。間に合った。
しれっと集団に混じってさっきからここにいましたという顔をしていると、そのすぐあとに、サッカーボールを手に持って講師がやってきた。
スポーツ科学科には実技の授業がある。この学科では保健体育の教員免許がとれるようになっていて、他にも野球やバレーなんかがある。中学や高校の体育の授業と似ているかもしれない。
最初は軽くストレッチをしてパス練から。
本気の部活とも高校の授業とも違うゆるい雰囲気で、みんなリラックスしている。主要スポーツの基本ルールを学ぶための科目のはずだが、実質は友だちとのおしゃべりタイムだ。
「道花って高校の部活バスケだったよね?」
道花がゆっくりボールを蹴ると、それを辿々しく足で止めた紬がそう聞いてきた。
「そうだよ」
「バスケはとらなかったの?」
「もう十分ルールとか分かってるからさ。違うのやってみたいなと思って」
少し声が硬くなってしまったけれど、紬は気づかなかったようだ。
「たしかに。この緩さだしね」
笑って納得する紬に聞き返す。
「紬は柔道だったっけ?」
「そうそう、私は球技が」
その言葉とともに、紬の足はスカッと音がしそうな勢いでボールの横を滑った。
「あー! ほら! すぐこうなる!」
「ごめん!」
「いやいや、私球技がほんとだめで」
ボールを抱えて戻ってくると、紬はうんざりした表情で言った。
「就職、なに目指したらいいか分かんないや。教職もとってるけど、球技こんなんだときっと駄目だよね」
「え~? 関係ないんじゃないかな、自分がプレーするわけじゃないし……あ、でも部活持たされるとそうはいかないか。やったことなくても指導しないとだもんね」
「やだー」
大空に向かって叫ぶように言うから、ふはっと吹き出してしまった。
同時にピー、とホイッスルが鳴り、パス練習をやめてゴール前に集合した。
「高校の同級生でさ、騎手になるって言って馬術学校行った子がいてー」
「へぇ、馬術!」
三チームに分かれて試合が始まった。残り二チームが試合をしている間、残りのメンバーは見学だ。目線はボールを追いながら紬が話し始めたので、耳を傾ける。
