八章

朝の光が森の木々を柔らかく照らしていた。昨日とは違う風の匂いがして、空気に少し緊張感が混ざっているのを感じる。

「さて、今日もどこか行くのさ!」

葉音ちゃんの声で全員が覚悟を決める。森は昨日の迷子になった経験で、危険だと覚えている。
だから私も心を整え、深呼吸をして森の中へ足を踏み入れる。

最初はいつも通りの道を歩いていたが、少し進むと小さな異変に気づいた。
枝や葉がいつもより激しく揺れ、足元には小さな妖の気配を微かに感じる。

「あれ、何かいる…?」

みるくの耳がぴくりと動き、尻尾が微かに震えた。

「ここは少し変だにゃ…」

すると突然、草むらから小さな妖が飛び出し襲ってきた。
朱音はとっさに足を踏ん張り、手をかざすと光がほんの一瞬、手のひらに宿り、そこから小さな狼が出て、小さな妖を攻撃した。攻撃すると狼は消え、小さな妖は森の奥へと慌てるように逃げていった。

「…私、今の…自分でやった?」

思わず息を飲む。昨日までなら、こんなこと絶対できなかった。
また式神を生み出せた。今必要な式神をすぐに。葉音ちゃんを呼び出す時は時間がかかったのに。

「すごいのさ、朱音ねえ!」
「すごい!能力を使いこなしてるよ」

葉音ちゃんと舞斗くんの声に我に返ると、みるくとくろが驚いたような顔をして、二人もすごいと呟く。この反応に、私がどれだけ急成長したのかが痛いほどに分かった。嬉しい反面、自分の力に少し恐れを抱いていた。

どれだけ森を歩いただろう。そう思うほどたくさん歩いた時、一際強い妖の気配を感じた。
みるくは耳をピクリと動かし、尻尾二本を同時にピンと立てる。みるくの反応に、全員が警戒していると突如背後から気配を感じる。嫌な予感がしながらゆっくり後ろを見ると、二つの頭を持つ大蛇がいた。
戦うか逃げるか迷っていると、くろとみるくが戦闘体制に入る。大蛇が牙を向いた瞬間二人が大蛇に向かって走り出し、同時に爪で二つの首を切った。
首が落ちる。そして、二人がこちらに戻ってくる。この二つが一瞬のように思えた。
とっさの事に私、舞斗くん、葉音ちゃんはポカンと口を開き、呆然としていた。
二人が同時にドヤ顔をしながら口を開く

「「どう?(みるく)(俺)、強いんだ(にゃ)」」


また強い妖が出るかもしれないので森を急いで抜けると、空は少し赤く染まり始めていた。
みるくが何かに気づいたのか、急に立ち止まり、空を見る。

「…みるく、何かあるの?」

みるくは何かを言い出そうとするとするが、ハッとした表情で何か隠そうとするように口を閉ざした。
胸の奥がざわつく。みるくには、まだ私たちに見せない秘密がある、そんな気がした。

その後も小さな妖や強い妖が何度か現れたが、朱音は自分の力を使い、仲間と連携して無事に対処できた。

「みんな、無事でよかった…!」

安堵の息をつくと、葉音ちゃんが手を叩いて明るく笑った。

「ほんとにすごいのさ、朱音ねえ!」

みるくも尻尾をゆっくり振り、嬉しそうに笑った。くろは普段は無表情で無愛想だが、今は少し笑っていた。

夕方、舞斗くんの家に戻ると、森の風は一層冷たく、少し不穏な空気を運んでいた。
その空気を吹き飛ばしたくて、お茶淹れパーティをしようと提案をする事にした。

「ねえねえ、毎日やりすぎだとは思うけど今日はみんなが淹れたお茶を飲み比べしてみたい気分だからお茶淹れパーティしようよ」
「いいね!」
「みるくも賛成!」
「あたいも!」
「俺も。お茶なら自信があるからな!」

とみんなが賛成してくれ、それぞれお茶を淹れた。

全員がお茶を淹れ終え、いざ飲むとなった。私はそれぞれ順番に飲んでみる事にした。
まずは私の緑茶。飲んでみると、苦味と渋みが出てしまっていた。
お次は舞斗くんの緑茶。飲むと、苦味と渋みがあまり出てなく、飲みやすくて美味しかった。
その次はくろの紅茶。苦いのを覚悟してそっと飲んでみると、全くではないが苦味も渋みも出ておらず、さっぱりとした後味で料理が苦手なくろとは思えないほど美味しかった。
お次はみるくのミルクティー。市販のミルクティーのような甘い味で、つい飲みたくなってしまう美味しさだった。
最後は葉音ちゃんのハーブティー。飲む前からハーブの香りが漂ってき、飲む前から美味しい。一口飲んでみると、ハーブの香りがふわっと口の中で広がり、今まで飲んだお茶の中で1番美味しいと本気で思えた。

「みんなのお茶美味しい!ありがと!」

お茶を飲み終えるとなんだか心が落ち着き、心のざわめきも落ち着いてきた。
夜の支度を終え、眠る準備をする。

おばあさんの影は、まだ遠くにある。
けれど、少しずつその存在の気配が近づいてきている。
こうして、朱音の新たな力の目覚めと、みるくの秘密のヒントが少しずつ明らかになった日が終わろうとしていた。