海へ行った翌週、律が仮編集をし終えると、今度は放送室を借りてナレーションの録音を始めることになった。
仮編集でざっくりと作られた動画を見ながら、タイミングを合わせて一華がナレーションを入れていく。決まった時間の中に決まったセリフをバランスよく言いきらなければならないから難しそうだ。
「じゃあさっそく始めましょうか」
「そうだね」
律が持参したノートパソコンを操作し、仮編集した動画の再生ボタンを押す。一華はマイクに向かって、ナレーションを入れ始めた。
「私はあの子を待っている。でもあの子は来ない」
最初のセリフを口にした瞬間から、スッと一華の目つきが変わり、普段の彼女ではなくなった。
——すごい。まるで別人みたい。
一華の声は穏やかでまっすぐで、心に突き刺さるみたいに鋭利だ。ナレーションのセリフはほぼ私がメモに書いた文章そのままだけど、一華がセリフを声に出すたびに、私の心を強く揺さぶる。
「あの子は私にとってどんな存在だったのだろう。私はあの子にとってどんな存在だったのだろう」
ナレーションを読み進める一華に、思わず見入ってしまう。
放送室の中は静寂に包まれ、一華の凛とした声音だけが響いている。
「ある日、教室でいつも通り購買で買ったパンを食べていたら、あの子の気配を感じた」
一華の声を聴いているうち、私はどんどん動画の中の世界に引き込まれていった。
やがて最後のセリフも録音し終えて、律が再生していた仮編集の動画も最後の場面でストップした。
ふっと体の力が抜けて、現実の世界に戻ってきたような感じがする。
「や~、一華すごかったぁ」
詩織がそう言って拍手し始め、私と律も思わず拍手する。
「女優のスイッチ入ってたねー」
「心に刺さるような声だった。映像の世界に引き込まれたよ」
私たちの反応を見て、一華は頬を染め、嬉しそうにした。
「作品に引き込まれるようなナレーションになっていたなら、よかった」
一華も緊張がほどけたのか、両手を伸ばして大きく伸びをした。
「これでナレーションも撮り終えたから、あとは詩織と相談しながらシーンごとにBGMを決めて、動画を編集して音を重ねて、完成だね」
そっか、じゃあもう私がやることって、ほぼないんだな。
そう思うと、なぜか少し寂しく感じるから不思議だ。
「たぶん、編集作業は一週間くらいで終わるよ。完成したら連絡するから」
「ありがとう律、よろしくね。私、来週は少し仕事を入れてあるから放課後集まれないけど、作業で迷ったことがあったらチャットのほうで連絡して」
「オッケー」
片づけをして、私たちは放送室から廊下に出た。
廊下の窓から、私は空を見上げる。
そして青空を流れる雲に、心の中で語りかける。
千咲、もうすぐ映画が完成する。完成しちゃうよ。
すると心の中の千咲が「へー。完成したら私にも見せてよ」と言って、ニカッと笑った。
翌週日曜日の夜に、律がチャットで連絡してきた。
「編集作業、おわったー!」
ついに作品が完成したんだ……!
私はスマホをポチポチして「お疲れ様」とメッセージを送る。
「ようやく完成したねー」
「明日の放課後って一華、仕事ない?」
「ないよ」
「じゃあみんなで多目的室に集まって、完成した映画を見ようよ」
「確かあの教室、プロジェクターも仕えたはずだから、それ使って見ましょ」
「え~めっちゃいいね」
私も「見るのが楽しみ」と送っておいた。
映画、どんな風に完成したんだろう。
明日が待ち遠しいな。
仮編集でざっくりと作られた動画を見ながら、タイミングを合わせて一華がナレーションを入れていく。決まった時間の中に決まったセリフをバランスよく言いきらなければならないから難しそうだ。
「じゃあさっそく始めましょうか」
「そうだね」
律が持参したノートパソコンを操作し、仮編集した動画の再生ボタンを押す。一華はマイクに向かって、ナレーションを入れ始めた。
「私はあの子を待っている。でもあの子は来ない」
最初のセリフを口にした瞬間から、スッと一華の目つきが変わり、普段の彼女ではなくなった。
——すごい。まるで別人みたい。
一華の声は穏やかでまっすぐで、心に突き刺さるみたいに鋭利だ。ナレーションのセリフはほぼ私がメモに書いた文章そのままだけど、一華がセリフを声に出すたびに、私の心を強く揺さぶる。
「あの子は私にとってどんな存在だったのだろう。私はあの子にとってどんな存在だったのだろう」
ナレーションを読み進める一華に、思わず見入ってしまう。
放送室の中は静寂に包まれ、一華の凛とした声音だけが響いている。
「ある日、教室でいつも通り購買で買ったパンを食べていたら、あの子の気配を感じた」
一華の声を聴いているうち、私はどんどん動画の中の世界に引き込まれていった。
やがて最後のセリフも録音し終えて、律が再生していた仮編集の動画も最後の場面でストップした。
ふっと体の力が抜けて、現実の世界に戻ってきたような感じがする。
「や~、一華すごかったぁ」
詩織がそう言って拍手し始め、私と律も思わず拍手する。
「女優のスイッチ入ってたねー」
「心に刺さるような声だった。映像の世界に引き込まれたよ」
私たちの反応を見て、一華は頬を染め、嬉しそうにした。
「作品に引き込まれるようなナレーションになっていたなら、よかった」
一華も緊張がほどけたのか、両手を伸ばして大きく伸びをした。
「これでナレーションも撮り終えたから、あとは詩織と相談しながらシーンごとにBGMを決めて、動画を編集して音を重ねて、完成だね」
そっか、じゃあもう私がやることって、ほぼないんだな。
そう思うと、なぜか少し寂しく感じるから不思議だ。
「たぶん、編集作業は一週間くらいで終わるよ。完成したら連絡するから」
「ありがとう律、よろしくね。私、来週は少し仕事を入れてあるから放課後集まれないけど、作業で迷ったことがあったらチャットのほうで連絡して」
「オッケー」
片づけをして、私たちは放送室から廊下に出た。
廊下の窓から、私は空を見上げる。
そして青空を流れる雲に、心の中で語りかける。
千咲、もうすぐ映画が完成する。完成しちゃうよ。
すると心の中の千咲が「へー。完成したら私にも見せてよ」と言って、ニカッと笑った。
翌週日曜日の夜に、律がチャットで連絡してきた。
「編集作業、おわったー!」
ついに作品が完成したんだ……!
私はスマホをポチポチして「お疲れ様」とメッセージを送る。
「ようやく完成したねー」
「明日の放課後って一華、仕事ない?」
「ないよ」
「じゃあみんなで多目的室に集まって、完成した映画を見ようよ」
「確かあの教室、プロジェクターも仕えたはずだから、それ使って見ましょ」
「え~めっちゃいいね」
私も「見るのが楽しみ」と送っておいた。
映画、どんな風に完成したんだろう。
明日が待ち遠しいな。
