学校にて
 
 教卓の上で教科書が閉じられたその時、まるでそこにチャイムを鳴らすスイッチがあったかのように、聞き飽きたメロディーが響き渡った。
「じゃあ授業終わりまーす。号令」
「起立。姿勢。礼」
「ありがとうございました~」
 ほんのさっきまでの気怠けな表情とは一変、自分が所属するグループのもとへ行き、生き生きと話し始める。
「あ、誰かこのノート職員室まで運んでくれないかー?」
 先生がそう呼びかけるも、すでに騒がしい教室では後ろまで声が通らない。私は前の席だから聞こえたんだけど。
「先生、私やりますよ」
 ここで立候補したらまた陰で色々言われるって分かっている。でも、呼びかけに気付いていながらも無視するのはやっぱり良くない気がして、またいつもと同じように声をかけてしまう。
「お、ありがとう。いつも助かるよー」
 受け取ったノートは流石37人分、ずっしりと重たく、貼り付けていた笑顔の仮面も剥がれ落ちそうになる。けれど、笑顔の仮面もノートも絶対に落とさないようにしながら、職員室までの道のりを歩く。

 教室の手前まで戻ってくると、中から私の苦手な女子3人組の声が聞こえてきた。
「今日も思ったんだけどさー、実央っていっつもこっちに合わせてきてウザくない?」
「分かる~!毎回へらへら笑っててさ、マジイラつく」
「無理して合わせてきてんのバレバレなんだよって感じ」
「「ね~w」」
「あ、そういや4組の杉本がね~」
 笑顔の仮面が剥がれそうじゃないかいつも以上にしっかりと確認して、教室に入る。
 ……やっぱり。あなたたちからはそう言われると思ったんだけどさ。
 こんな悪口はいつものこと。でもいつもよりこの言葉たちが私の核に刺さってきた。黒い霧のようなものが私の一番奥深くに立ち込めてくる。
 そうしているうちにも先生が教室に入ってくる。
「それじゃ授業始めるぞー。席つけー」
 みんな気怠気な表情が戻ってきて、しぶしぶ席に着き始める。
「じゃ号令」
「起立。姿勢。礼」
「お願いしまーす」
 授業は聞いていても黒い霧が晴れず、内容が頭に入ってこないままただ時間だけが過ぎていった。