「わたしのせいです。申し訳ございません」
「いや」

 理人はなにか別のことを考えているようだった。しばらくの間沈黙が続き、ようやく考えがまとまったのか、居住まいを正して美鈴を正面から見る。

「家族や許嫁だった男と関係を断ち切る覚悟はあるか」
「わたしは捨てられた身です。いまさら断ち切るもなにも……」
「あやかしの嫁になるということは、人の理からはずれるということだ。きみを助けるためだと言い訳をして、私はきみの許しもなく、きみをこちらの世界に引きずり込んだ」

 相変わらずなにを考えているのかわからない表情をしているが、言葉からわずかに後悔が見て取れた。でも、美鈴は朔太郎に手を差し伸べてもらってからずっと幸せだった。

「統領さまに拾っていただいたあの日から、身も心もあなたのものです」

 朔太郎が「そうか」とつぶやいたそのとき。
 外で爆発音が轟いた。

「なにごとじゃ!」
「陰陽師が攻めてきたのかもしれません」

 朔太郎とともに外に出ると、あたりは炎に包まれていた。
 方々から爆音とともにあやかしたちの悲鳴が聞こえてきて、美鈴は思わず耳を塞ぎたくなる。朔太郎は無表情のままだったが、きつく拳を握りしめていた。
 炎の中から小柄なあやかしが走ってきた。人間の男児のような見た目のあやかしは、朔太郎に縋りつくと「助けてください!」と叫んだ。
 朔太郎は着物に泥がつくのもいとわず膝をつき、あやかしと目線を合わせる。

「外にいるやつらに、私の屋敷に避難するように伝えてくれないか。強い結界が張ってあるから、よほどのことがないかぎりは敵は中には入ってこられない」
「は、はい……!」

 あやかしは炎があがっているほうへ慌ただしく駆けていった。

「大丈夫でしょうか」
「子どもに見えるかもしれないが一人前のあやかしだ。問題ない」

 あやかしが走り去ったほうを見る朔太郎は、統領の顔をしていた。

「さて」

 朔太郎はそうつぶやいて前方に目を向ける。
 そこには理人と寿香がいた。後方には鷹羽家の陰陽師が大勢立っている。