その夜。
 いちとはつに背中を押された美鈴は、朔太郎の寝室を訪れることにした。
 なぜか無駄に繊細で豪華な仕立ての寝間着を用意されたときは、開いた口がふさがらなかった。いつもの寝間着でいいと二人に言うと、「つまらないですわ」と口をそろえて叱られたのだ。
 服だけではなく、髪もいつも以上に手入れされる。美鈴は首をかしげつつも、言われたとおりにするしかなかった。
 朔太郎の寝室の戸の前に立ち、「失礼いたします」と声をかける。
 すぐに戸が開き、驚いた顔の朔太郎が立っていた。

「美鈴……か?」
「はい。夜分に申し訳ございません」

 朔太郎は美鈴の存在を認めると、眉を吊り上げた。予想どおりの展開になってしまい、美鈴は身のすくむ思いだった

「部屋に戻りなさい」
「申し訳ございません。でも」
「人間は寝る時間だろう」

 朔太郎はぴしゃりとそう言い放つ。
 あまりにも冷たい言い方だった。心のどこかで気にしていた種族の違いに言及されたようで、美鈴は傷つく。
 あやかしからすると、人間はかなりか弱い存在らしい。たかだか数十年しか生きることができず、生きている間も怪我や病気に絶えず見舞われている。少なくともこの屋敷のあやかしは、人間を守る存在だと認識しているようだった。
 直接言われたことはないが、夜に寝ていないと怒られたり、過度な心配を受けたりしたとき、別の存在だと線を引かれているようで悲しかった。
 美鈴は涙をこらえて朔太郎を見る。
 朔太郎は一瞬動揺したものの、怒ったままの表情で美鈴を見下ろした。

「どうせいちとはつにそそのかされたんだろう」
「ち、違います!」