それからひと月あまりが経った朝。蒼空はいつものように、屋敷を出て集落や商店が並ぶ道をのんびり歩いていた。
「いいかい、君はいつも通り、いろんな場所へ行っていい。その代わりちゃんと帰ってくるんだよ」
怜司の言葉を思い出し、ふとひらめいた。誰かに怜司の優しさを知ってもらう方法を。
蒼空はよく足を運んでいた尋常小学校に向かった。
そこで、蒼空は登下校をする子供たちを木の上から眺めていた。すると、一人の少女が浮かない顔で、とぼとぼと登校してきた。着物もところどころほつれていて、他の子と比べると元気がない。彼女はふみ、と呼ばれていた。蒼空は彼女を何度かこの場所で見かけていて、少し心配していた。というのも……。
少し離れた前には、三人組の少女たち。彼女たちはふいに立ち止まり、後ろをうつむきがちに歩いてくるふみを振り返る。
「ねぇ、なんであんたの髪、そんなにぼさぼさなの?」
ふみは何も答えず、ただうつむいたまま歩く。
「また無視してる。感じ悪い」
「だって、あんたの声小さいもんね。全然何言ってるか分かんないもん」
それでもふみは、くすくす笑う少女たちの横をうつむいたまま黙って通り過ぎる。
「何とか言いなさいよ」
少女たちの一人が、ふみに石を投げる。石はふみの背中に当たった。石を投げられていた怜司のことを思い出し、蒼空は腹が立つのを感じて、気が付くと少女たちの頭の上を交互に飛び乗っていた。
「きゃあ!」
「ちょ、なに⁉」
「やだ、降りてよ!」
喚く少女たちの髪を前足でひとしきりかきまぜた後、満足した蒼空は再び木の上に飛び移った。少女たちの髪は見事ぼさぼさになり、その光景をふみが驚いたように見つめていた。少女たちはふみに対して興味が失せたのか、肩を怒らせながら足早に去っていってしまった。
そう、ふみはいじめられっ子だった。
「いいかい、君はいつも通り、いろんな場所へ行っていい。その代わりちゃんと帰ってくるんだよ」
怜司の言葉を思い出し、ふとひらめいた。誰かに怜司の優しさを知ってもらう方法を。
蒼空はよく足を運んでいた尋常小学校に向かった。
そこで、蒼空は登下校をする子供たちを木の上から眺めていた。すると、一人の少女が浮かない顔で、とぼとぼと登校してきた。着物もところどころほつれていて、他の子と比べると元気がない。彼女はふみ、と呼ばれていた。蒼空は彼女を何度かこの場所で見かけていて、少し心配していた。というのも……。
少し離れた前には、三人組の少女たち。彼女たちはふいに立ち止まり、後ろをうつむきがちに歩いてくるふみを振り返る。
「ねぇ、なんであんたの髪、そんなにぼさぼさなの?」
ふみは何も答えず、ただうつむいたまま歩く。
「また無視してる。感じ悪い」
「だって、あんたの声小さいもんね。全然何言ってるか分かんないもん」
それでもふみは、くすくす笑う少女たちの横をうつむいたまま黙って通り過ぎる。
「何とか言いなさいよ」
少女たちの一人が、ふみに石を投げる。石はふみの背中に当たった。石を投げられていた怜司のことを思い出し、蒼空は腹が立つのを感じて、気が付くと少女たちの頭の上を交互に飛び乗っていた。
「きゃあ!」
「ちょ、なに⁉」
「やだ、降りてよ!」
喚く少女たちの髪を前足でひとしきりかきまぜた後、満足した蒼空は再び木の上に飛び移った。少女たちの髪は見事ぼさぼさになり、その光景をふみが驚いたように見つめていた。少女たちはふみに対して興味が失せたのか、肩を怒らせながら足早に去っていってしまった。
そう、ふみはいじめられっ子だった。
