「一体どうなってるんだ。どうして澪がいない⁉」
公園の広場に設けられた舞台の裏で、澪の父親が係員である拓海に迫っていた。拓海は何とかなだめようと必死だ。傍らには心配そうな顔をしている母親がいた。
「いや、その。もう少し待っていただけませんかね……。きっと何か手違いが……」
「手違い⁉ 何だ、それは。それにあの放蕩息子の姿も見えない。まさか、うちの娘をたぶらかしたんじゃないだろうな⁉ 娘とも連絡が取れないし、警察に連絡させてもらう!」
舞台前では祭り客が集まっており、今か今かと待ちわびている。
「やっぱり、心配だったのよ。あの子と一緒にさせるのは。彼に対してはいい話はきかないし……」
母親もだいぶ弱っている様子だ。
「待ってください! 椋太さんは、澪さんを捜しに行っているんです。必ず連れて帰ってきます!」
志音が二人の間に分け入る。
「貴様らもあのろくでもない息子の仲間だろ。信用できるか!」
父親がスマホを取り出す。
「いや、だから待ってください!」
志音はスマホを取り上げようとして、自然ともみ合う形になる。湊も迷っていたが、やがて志音に加担する。
「お願いします……! もう少しだけ待ってください‼ 椋太くんは、きっと約束は守ります!」
懸命に湊も懇願する。拓海はどちらに加担していいのか分からない様子で、手を出したり引っ込めたりを繰り返していた。
「こら、離しなさい! もたもたして、娘に何かあったらどうするつもりだ!」
その時だった。急に辺りに突風が吹きつけ、舞台前で焚かれていた松明が消え、なぜか照明も消えた。皆が動きを止めた瞬間、再び照明が灯り始め、消えたはずの松明が息を吹き返したかのように大きく燃え始めた。
まるでそれが合図かのように。
「遅れてごめんなさい!」
澪が志音たちの前に姿を見せた。後から、椋太が悠然と合流した。
「澪!」
彼女の両親はすぐに彼女へ駆け寄る。
「心配したんだぞ。一体何をやっていたんだ」
「ごめんなさい。今から、舞を舞わせてください。お願いします!」
澪が頭を下げる。
「もちろんだよ、澪さん。みんな、君を待っていたんだ。さぁ、奏者の皆さんも準備、よろしくお願いします!」
成り行きを固唾をのんで見守っていた奏者たちが、拓海の声に、安堵したかのようにうなずき合い、舞台上へと進んでいく。
志音は肩で息をしながら汗を拭った時、視界の片隅に踵を返す蒼空の背中が見えた気がした。彼も来ているのだろうか、次に見たときにはもう姿はみえなかった。
湊は脱力したように、その場に座り込む。
「はぁ。こんなこと初めてだよ……。俺、修羅場苦手なのに」
湊の前に、椋太は手を差し出す。
「ありがとう、湊。そして、志音も。信じて時間稼いでいてくれたんだね」
湊は必要ない、と手を振り払うと自分で立ち上がる。素直じゃないね、と椋太が笑う。
「うん、本当によかった。澪さんが戻ってきてくれて」
志音が笑顔を向けた時。朗々と笛の音が響き渡り、鈴が薄闇を包むように鳴る。美和姫の舞が、始まる――。
公園の広場に設けられた舞台の裏で、澪の父親が係員である拓海に迫っていた。拓海は何とかなだめようと必死だ。傍らには心配そうな顔をしている母親がいた。
「いや、その。もう少し待っていただけませんかね……。きっと何か手違いが……」
「手違い⁉ 何だ、それは。それにあの放蕩息子の姿も見えない。まさか、うちの娘をたぶらかしたんじゃないだろうな⁉ 娘とも連絡が取れないし、警察に連絡させてもらう!」
舞台前では祭り客が集まっており、今か今かと待ちわびている。
「やっぱり、心配だったのよ。あの子と一緒にさせるのは。彼に対してはいい話はきかないし……」
母親もだいぶ弱っている様子だ。
「待ってください! 椋太さんは、澪さんを捜しに行っているんです。必ず連れて帰ってきます!」
志音が二人の間に分け入る。
「貴様らもあのろくでもない息子の仲間だろ。信用できるか!」
父親がスマホを取り出す。
「いや、だから待ってください!」
志音はスマホを取り上げようとして、自然ともみ合う形になる。湊も迷っていたが、やがて志音に加担する。
「お願いします……! もう少しだけ待ってください‼ 椋太くんは、きっと約束は守ります!」
懸命に湊も懇願する。拓海はどちらに加担していいのか分からない様子で、手を出したり引っ込めたりを繰り返していた。
「こら、離しなさい! もたもたして、娘に何かあったらどうするつもりだ!」
その時だった。急に辺りに突風が吹きつけ、舞台前で焚かれていた松明が消え、なぜか照明も消えた。皆が動きを止めた瞬間、再び照明が灯り始め、消えたはずの松明が息を吹き返したかのように大きく燃え始めた。
まるでそれが合図かのように。
「遅れてごめんなさい!」
澪が志音たちの前に姿を見せた。後から、椋太が悠然と合流した。
「澪!」
彼女の両親はすぐに彼女へ駆け寄る。
「心配したんだぞ。一体何をやっていたんだ」
「ごめんなさい。今から、舞を舞わせてください。お願いします!」
澪が頭を下げる。
「もちろんだよ、澪さん。みんな、君を待っていたんだ。さぁ、奏者の皆さんも準備、よろしくお願いします!」
成り行きを固唾をのんで見守っていた奏者たちが、拓海の声に、安堵したかのようにうなずき合い、舞台上へと進んでいく。
志音は肩で息をしながら汗を拭った時、視界の片隅に踵を返す蒼空の背中が見えた気がした。彼も来ているのだろうか、次に見たときにはもう姿はみえなかった。
湊は脱力したように、その場に座り込む。
「はぁ。こんなこと初めてだよ……。俺、修羅場苦手なのに」
湊の前に、椋太は手を差し出す。
「ありがとう、湊。そして、志音も。信じて時間稼いでいてくれたんだね」
湊は必要ない、と手を振り払うと自分で立ち上がる。素直じゃないね、と椋太が笑う。
「うん、本当によかった。澪さんが戻ってきてくれて」
志音が笑顔を向けた時。朗々と笛の音が響き渡り、鈴が薄闇を包むように鳴る。美和姫の舞が、始まる――。
