蒼空に教えてもらった硝子工房は、あじさい荘から少し歩いた場所にあった。ログハウス風の家屋で、『ガラス工房あかつき』と書かれた看板が掲げられている。
窓際にはガラスでできた小さな人形や花瓶が飾られており、とても可愛らしく、それでいて幻想的な雰囲気だ。
志音はステンドグラスがはめられたドアを静かに開ける。ガラス細工が棚に美しく並べられ、午後の光を浴びて星屑のように店内を照らしていた。
志音が見惚れていると、エプロン姿の穏やかな雰囲気の青年が近づいてきた。
「こんにちは」
青年は優しい微笑みで、どうぞ、と中へ案内してくれた。
「自由に見て行ってください。硝子細工たちは光の加減で印象が変わります。気に入ったひとつが見つかれば、うれしいです」
志音は子どものように目を輝かせた。硝子細工たちは棚の上、壁、窓辺に、美しく鎮座している。青年が言ったように、角度によって色を変える硝子もある。作り手の呼吸を感じられるほどそれは繊細だった。ものをつくる歓びを、志音はもう一度教えてもらっているような心地がした。
と、とある棚の前で足を止める。小さな砂時計がぽつんと、店の隅に置かれていた。広い棚に一つだけ寂しそうに置いてあるので、少し不自然に見えて、志音はその砂時計を見つめる。半透明の青いガラスの中に、空の色を移したようなガラスの砂がじっと息をひそめている。
「この砂時計はね……」
志音が見つめているのに気づき、青年は大切そうに棚から取り出すと、少し切なげな顔をして言う。
「売り物ではないんだ。昔、対であったものでね。この工房で僕がまだ高校生の頃に、職人である父親と一緒に作ったものなんだけど……」
青年は懐かしむように目を細める。
「前に、この砂時計を気に入ってくれた子がいた。もう一つはその子にあげたんだ。……もう会えなくなってしまったけれど」
「そうだったんですか。もともともう一つあったから、なんだか寂しそうに見えたのかもしれません。……とてもきれいですね」
「寂しそう、か。君はそう感じたんだね」
青年は手の中の砂時計を光にかざした後で、志音に差し出した。
「……よかったら、もらってくれないかな」
「え、でも……」
こんなに素敵な硝子細工の砂時計を――もらってしまって本当にいいのだろうか、志音が戸惑うと彼は言う。
「決めていたんだ。この砂時計を誰かが気に入ってくれたら、その人にあげようって。これは、そういう砂時計で、そういう意図でここに飾っていた。そう思ってくれたらいい。……なんて、はっきり言ってしまうと、俺が昔に作った未熟なものだから、売り物にもならないんだ」
青年はそっと優しく志音に差し出す。志音も大切に、思いのこもった砂時計を受け取る。
「ありがとうございます。大事にします」
「うん、こちらこそありがとう、もらってくれて」
そうして去り際に、志音は言う。
「また、ここに来てもいいですか。僕は、ものづくりにすごく興味があって。こういうふうに、思いがあふれたものを見るのが好きなんです」
「うれしいことを言ってくれるね。もちろんオーケーだよ。――興味があるなら、次は工房も見せてあげるよ」
そうして、志音は砂時計を大事に手に包み込むようにすると、『あかつき』を後にする。心にじんわりと灯りがともったような、温かな気持ちだった。
窓際にはガラスでできた小さな人形や花瓶が飾られており、とても可愛らしく、それでいて幻想的な雰囲気だ。
志音はステンドグラスがはめられたドアを静かに開ける。ガラス細工が棚に美しく並べられ、午後の光を浴びて星屑のように店内を照らしていた。
志音が見惚れていると、エプロン姿の穏やかな雰囲気の青年が近づいてきた。
「こんにちは」
青年は優しい微笑みで、どうぞ、と中へ案内してくれた。
「自由に見て行ってください。硝子細工たちは光の加減で印象が変わります。気に入ったひとつが見つかれば、うれしいです」
志音は子どものように目を輝かせた。硝子細工たちは棚の上、壁、窓辺に、美しく鎮座している。青年が言ったように、角度によって色を変える硝子もある。作り手の呼吸を感じられるほどそれは繊細だった。ものをつくる歓びを、志音はもう一度教えてもらっているような心地がした。
と、とある棚の前で足を止める。小さな砂時計がぽつんと、店の隅に置かれていた。広い棚に一つだけ寂しそうに置いてあるので、少し不自然に見えて、志音はその砂時計を見つめる。半透明の青いガラスの中に、空の色を移したようなガラスの砂がじっと息をひそめている。
「この砂時計はね……」
志音が見つめているのに気づき、青年は大切そうに棚から取り出すと、少し切なげな顔をして言う。
「売り物ではないんだ。昔、対であったものでね。この工房で僕がまだ高校生の頃に、職人である父親と一緒に作ったものなんだけど……」
青年は懐かしむように目を細める。
「前に、この砂時計を気に入ってくれた子がいた。もう一つはその子にあげたんだ。……もう会えなくなってしまったけれど」
「そうだったんですか。もともともう一つあったから、なんだか寂しそうに見えたのかもしれません。……とてもきれいですね」
「寂しそう、か。君はそう感じたんだね」
青年は手の中の砂時計を光にかざした後で、志音に差し出した。
「……よかったら、もらってくれないかな」
「え、でも……」
こんなに素敵な硝子細工の砂時計を――もらってしまって本当にいいのだろうか、志音が戸惑うと彼は言う。
「決めていたんだ。この砂時計を誰かが気に入ってくれたら、その人にあげようって。これは、そういう砂時計で、そういう意図でここに飾っていた。そう思ってくれたらいい。……なんて、はっきり言ってしまうと、俺が昔に作った未熟なものだから、売り物にもならないんだ」
青年はそっと優しく志音に差し出す。志音も大切に、思いのこもった砂時計を受け取る。
「ありがとうございます。大事にします」
「うん、こちらこそありがとう、もらってくれて」
そうして去り際に、志音は言う。
「また、ここに来てもいいですか。僕は、ものづくりにすごく興味があって。こういうふうに、思いがあふれたものを見るのが好きなんです」
「うれしいことを言ってくれるね。もちろんオーケーだよ。――興味があるなら、次は工房も見せてあげるよ」
そうして、志音は砂時計を大事に手に包み込むようにすると、『あかつき』を後にする。心にじんわりと灯りがともったような、温かな気持ちだった。
