湊は一番離れた静かな部屋を選び、三人と管理人一人で共同生活を送ることになった。
 翌日改めて、三人でリビングに集まり、簡単に今後のことを話し合うことになった。蒼空の姿は今日はみえない。屋根裏部屋だろうか。
 先に口を開いたのは椋太だった。
「さて。堅苦しいのはなしにして、気楽にいこう。先に宣言させてもらうけど、実は俺、料理が得意なんだよね。だから料理当番は俺に任せてよ。食べてくれる人がいると思うと張り切れるからさ。料理はできたほうが姫たちからの受けもよかったし……何より人に喜んでもらうことが好きだからさ」
 椋太は自分の腕を軽く叩いた。
「……荒牧さんが料理得意なんて……なんか意外」
 湊が目を丸くする。
「素直な反応だね。……君の言いたいこと当ててあげようか。チャラいのに、って思ってるでしょ?」
「え、いや……」
 湊は慌てて目を伏せる。図星だったようだ。
「いいよ、別に。気にしてない」
 そう言って椋太は可笑しそうに笑む。彼は湊をわざとからかって距離を縮めようとしているのかもしれない。ただ、面白がっているだけかもしれないけれど。
 椋太は、それと、と付け加える。
「これから一緒に住むんだから、敬語とか、さん付けとはやめよう。へんにかしこまれるとこそばゆくてさ。いちおう、俺がここでは一番年上になるのかな。でもそういうの気にしなくていいから。大した人間じゃないし」
「うん、僕もそれに賛成するよ。……椋太さんが料理をしてくれるなら、僕と湊くんは他の家事を分担しよう」
「そうしてくれるとありがたいよ。で、簡単に紹介すると、俺は元ホストで現在無職、志音は町工場で働いていたけれど、辞めて求職中、そして……君は?」
 椋太は湊を見遣る。
「……いちおう、ウエブライターをしているよ。人と話さなくていいし、やり取りもほとんどメールだからちょうどいい」
 湊が短くそう言った時だった。あじさい荘の呼び鈴が鳴る。またあじさい荘の住人候補だろうか、と思いつつ志音は玄関の戸を開けた。門の外にはスーツ姿の男性が立っていた。年齢は三十代前半ほどだろうか。落ち着いていて、穏やかそうな人だった。
「あ、ほんとに人がいた……」
 相手はひとり言のようにつぶやいた後で、志音と目が合うと気を取り直したように言う。
「こんにちは。花野枝村役場の南雲(なぐも)と申します」
 志音が門を開けると、彼は名刺を渡してくれた。花野枝村役場、まちづくり課、主査南雲拓海(たくみ)とある。名刺は花野枝村自慢の青山と清流の写真が背景だった。
「あじさい荘の管理、運営を担当している者です」
 志音は、はたと思い当たる。前に蒼空が役場の人が訪ねてくるはず、と言っていたこと。
「この古民家あじさい荘は歴史的価値も高いので、役場で管理させてもらっています。……いろいろとお話したいことがあるのですが、少しお時間よろしいでしょうか」