馨と琴座 〜中編〜

 ――俺、琴座(らいら)のことが好きだ。

 私はそう言うと理性が戻ったのか、すぐさま電話を切ってスマホを枕の下に隠した。
 
 『言っちゃったよ、咄嗟に好きですとか言っちゃったよ。しかも何?〝俺〟って人生で初めて使ったわ。はぁ、今すぐ消えたい、溶けたい。』

 あまりの恥ずかしさに心の声が外に漏れ出していた。
 明日、学校休もうかなと、私は現実逃避を試みようと思ったが、起きてしまった物事なんてそう変わるわけじゃないから意味ないとすぐに理解した。でもどうしよう。明日からどう接すればいいの……。

 翌日、気がつくと時計は八時を回っていた。
 
「やべぇ!遅刻じゃん、急がないと!」
 
 私はクローゼットの中からワイシャツを取り出そうとすると、ボトンっとベッドからスマホが落ち、そのせいか電源がついてしまった。私はスマホが落ちたのに気づき、それを拾おうとした。
 そのとき、ふと画面を覗いてみると一件のメッセージが届いていた。
 
 ――今日の放課後、屋上に来てください。
 
 たしかにそう書いてあった。私は、学校に遅刻しそうなのにもかかわらず、「わかりました」と、琴座にメッセージを返した。そして、スマホをいつも使っている勉強机の上に置き、急いで学校へ向かった。
 私が学校についたのは、午前八時三十五分としっかりと遅刻してしまった。
 
 その日の放課後、私は琴座のメッセージ通り屋上にやってきた。そこには、誰一人いる気配はなく、ただビュービューと強い風が波のように吹いているだけだった。私は、琴座が来るまでの間、ずっと胸の圧迫感に襲われていた。いつもよりソワソワして落ち着かないし、なにより鼓動がうるさい――。
 何もすることがなく、ただ外の景色を眺めていた。
 屋上の入口の扉がギーっと錆びた鉄が擦り合う音をさせながら、開いた。私はその音を聞いた瞬間、頭が真っ白になった。そこには琴座の姿が見えた。私は「あっ来ちゃった。まだ心の準備ができてないのに。」と思いながらも、琴座はその短い髪を風でなびかせながらこちらに向かってきた。そして、私に深呼吸をさせる隙をよこさず、私に聞いてきた。
 
鳴磨(なるま)くん、昨日のLINE(ライン)のことなんだけどさ……。」
 
 はぁ、私はその言葉を聞いてこの後、彼女が何をいうかだいたい予想がついてきた。多分、フラレるなこれ。初恋、フラレるのか……。悲しいな。
 
「……よ……しく‥ね……します。」
 
 私は、自分の世界に入っていたせいか、彼女がなにを言っているのかうまく聞き取ることができなかった。
 
「ごめん、なんて言った?」
 
「だ、だから、よろしくお願いします!っていったの……。」
 
 彼女の顔は日が沈む太陽のごとく赤く染まっていた。

 夜、私はベッドの上で横になりながら、琴座と連絡を取っていた。琴座と付き合えるなんて、信じられない。嬉しい。絶対に幸せする。私は彼女ができたという高揚感に包まれていた。

 翌日――。
 いつものように学校に登校していると、琴座の姿を見つけた。
 
「琴座ー!」
 
 私は、ルンルンと足を跳ねらせながら琴座のもとへ行く。
 琴座のもとにつくと、私は高校生男子にしては少し高い朗らかな声で「おはよう」と言った。
 
 「おはよう、馨くん!」
 
 彼女は、私の方に顔を向け、満面の笑みを浮かべて言った。その笑顔は今までに見たことない顔だった。
 
 ――ドクン……。
 ただの挨拶なのになぜだろう。胸がはち切れそう。私は一瞬心臓が何かしらの病に(おか)されているのだはないかと疑ってしまった。

「馨くん?おーい。」
 
 気がつくと、私は道端に立ち止まっていた。眼の前には、彼女が心配そうな顔をしながら手を振っていた。私は無意識に彼女が振っている手に私の手を重ね合わせた。すると彼女は、呆れた表情をしながら私の手を振り払った。

 「そうじゃないって、てか遅刻しちゃうよ?」
「え?今何時?」
 琴座は自分の腕時計をほれと私に見せつけて言った。
「8時25分。」
「え、やばいじゃん急がないと!行くよ!」
 
 私は琴座の手を掴み学校まで走っていった。
 学校の校門につくと、キーンコーンカーンコーンと鐘がなり始めた。
 
 私達は、なんとか鐘が鳴り終わるまでにホームルームに間に合うことができた。

 ――放課後。私は琴座と一緒に帰っていた。
 
「あのさ、この前福引で水族館のペアチケットが当たったんだけど、今度の日曜に行かない?」
 
 私は立ち止まり、カバンの中からチケットが入った封筒を取り出し、それを琴座(らいら)に渡した。
「ありがとう!楽しみにしてる。」
「集合は、十一時に上蔵駅前集合ね。」
「わかった!」
 

 約束のデートの日、私は集合時間より少し、というかだいぶ早くついてしまった。当然、琴座の姿はない。あと、約2時間どうやって時間を潰そうか。私は、太陽が照りつける中、悶々と考えていた。外の暑さが肌に伝わり、徐々に水分が抜けていきそうな感覚に侵されていた。
 あつい、どこかの店で涼みたい――。と心のなかで呟いていた。あたりを見渡すといかにも涼めそうな小洒落たカフェが建っていた。私は躊躇することなく、店内へと入っていった。

 カフェに入ってそろそろ二時間が経つ。テーブルには、カフェラテを飲み干した後のマグカップが置いてある。私は、スマホで漫画を読んでいた。すると、〝ピロン〟とLINEの通知音が鳴り、画面の一番上に「あと、一、二分でつくよ」とメッセージアイコンが表示されていた。私はそれをタップし「了解!」と返信をして、店を出た。
 
 よし、初デートいい思い出を残すぞ!――。

 次回:馨と琴座 初デート編