馨と琴座 〜前編〜
――まさか、私が恋をするなんて思ってもいなかった。
事の始まりは、中学三年生に上る前の春休み前日、教室で通知表を一人ずつ返していたときだった。私は、教室の一番うしろの列にヒョコンと座っていた。周囲に耳を傾けると、「この前の鬼滅がさ……。」だとか、「この前こいつがさ……。」とか授業とは思えない騒ぎ具合だった。私は、自分から話に行くのがとてもではないが、苦手だった。私が会話するときは周囲の会話に体を向けて、あたかも最初から聞いていますよという表情しながら、会話に混ざるときぐらいだ。私は窓に顔を見せつけていると一人の黒髪ボーイッシュの女子生徒が私に話しかけてきてくれた。
「ねぇ、鳴磨くんはさ、鶴折れるの?」
「わっ。」
心臓が止まるかと思った。急に話しかけられて、何の話かさっぱりわからなかったのだからどう返していいかわからない。私は咄嗟に「何の話?」と聞き返すと、その子は丁寧に説明してくれた。
「さっきまでさ、美晴と折り紙折れるか折れないかの話をしてたんだけどさ、鳴磨くんは折れるのかなって思って聞いてみた。さっきまで聴いてくれてたでしょ?」
「あぁ、そだったのね。うん、鶴折れるよ。」
私は、流れ行く情報が自然と理解できるほどに、追いつくようになってきた。しかし、今更と思いながらも問題が起きた。
――今、目の前で話しているこの女子生徒は誰なのか。
思い出せない。もうすぐ思い出せそうな所まで来ているのに……。私は諦めて尋ねることにした。
「めちゃくちゃ、自然に話してたけどさなまえなんだっけ。」
私は、美晴の隣りにいる女子生徒の方を向きなだら、問いかけた。すると、その子は首をかしげて、「酷いなぁー」と言いながら笑っていた。
「鳳 琴座。鳳凰の一文字目のやつに、琴座はお琴の琴に星座の座。呼ぶときは、琴座でいいよ。」
かすかな笑みを浮かべていた。そして、琴座は続けるように言った。
「鳴磨くん、名前の漢字ってどういうの?」
「鳴磨 馨。鳴り響くの鳴るに、靴を磨くの磨く。馨は香ばしいとか、美味い匂がするときとかに使う難しい方の馨。」
私は、琴座の紹介を自己紹介を真似するように答えた。
「かっこいい名前だね。」
琴座はふと、私に言ってくれた。私は、ちょっぴり嬉しかった。なにせ、中学に入って初めて、女子から話しかけてきてくれたのだから。
そう思っていると、授業の終わりを知らせる鐘がなった。私は、その後琴座とは話さず学校が終わり、春休みが過ぎた。内心私は、琴座とLINE交換してればよかったと思っていた。
――春休み明けの四月の始業式。私は校庭に張り出されていたクラス分け表を確認しに向かった。すると、三年三組の名簿のところに鳳琴座という名前を真っ先に見つけた。そして、下から名簿を遡って行くと、自分の名前を見つけた。私は、満ち足りていた。すると、校門から見慣れた女子生徒が私のいるところまで走ってきた。琴座だった。
なぜだろう、私の体中にあるアドレナリンが働いているのか、自分の心臓が〝ドクン、ドクン〟と鼓膜に聞こえるくらいまで、心拍数が上昇していた。
そういえば、春休みに似たようなことが恋愛アニメをやっていたのをふと思い出す。その時、人は恋をするときなぜだか、対象人物を見るだけで、心拍数が急激に上昇する病にかかるらしい。私は理解した。
――私は今、恋をしている。
「今年もクラス一緒だ!よろしくね!馨くん。」
その声で私は強制的に現実世界に戻された。視界が整うと目の前には、琴座の姿が見えた。
「わぁ!」
私は腰が抜ける落ちるように尻餅をついてしまった。琴座は、「大丈夫?驚かせちゃってごめんね。」と心配の声をかけ、手を差し伸べてくれた。私は、目の前で手を差し伸べている琴座がなんかキラキラしているように見えた。心のなかでなんて優しい人なんだろうと呟いた。私は、琴座の手を取り立ち上がった。その後、私の顔面は夕日の太陽のごとく、真っ赤になった。
その日の帰り、琴座に「LINE追加していい?」と私に尋ねてきた。願ってもない幸運だった。私は、二つ返事でオーケーを出した。
「帰ったら、クラスラインから追加しておくね!」
「わかった。」
そして、琴座はスキップをしながら家に帰っていった。それを見て私は、「スキップしながら帰るとかどんだけかわいいんだよ。」とついに自分が琴座に恋愛感情を抱いていることを受け入れてしまっていた。私はそんなことを気にする間も無く、家に帰った。
家について、早速私は部屋に閉じこもり、スマホの画面を眺めた。すると、ピロンっと一件の通知が画面に表示された。通知先はLINEだった。私は、ベッドの上で飛び跳ねながら、アプリを開いた。
私は、その通知内容を見た瞬間、スマホを壁に投げつけた。
「どうして、琴座じゃなくて公式からなんだよぉぉ゙ぉ゙。くっそぉ。」
何故か、頭が真っ白になった。さっきまでの希望が、一気に冷めるような感覚だった。
そう嘆いていると、壁にぶつかったスマホからピロンと通知音が鳴った。私は「また、公式からでしょ……。」と肩を落としながらすこし画面にヒビが入ったスマホを拾い上げる。電源をつけるとまたもやLINEの通知だった。私は、ほら絶対公式じゃんと言いながらアプリを開くとローマ字でRairaと書かれたユーザーネームとペンギンが持っているスケッチブックによろしくお願いしますと書かれたスタンプが届いていた。再び、心拍数が上がってきた。もうこのメッセージだけで胸が締め付けられるような思いになった。でも、メッセージを返さなきゃ。私はそう思って、スマホの画面を開き、震える指を器用に使いながら「よろしくね」とメッセージを返信してみた。既読はすぐに付いた。
私は心拍数が上がるなか、早くメッセージが来ないかなとまるで構ってもらいたい犬のように尻尾を振って待っていた。すると、琴座から衝撃的な文章が送られてきた。
――馨くんってさ好きな人いるの?
そのメッセージが来たとき、私は氷のように硬直した。
えっ。どうして琴座はそんなことが気になるんだろう。会って日が浅いのに……。私はそう思いながら、咄嗟に「どうして?」と聞き返してしまった。
「純粋に気になったから。」
躊躇がなかったのか、琴座の返信速度が光の速度並みに早かった。
私は返答に困っていた。いるにはいるんだけど、最近知ったばっかだし、それを好きな人と決めつけていいのかわからない自分もいるし、ここでいいえとか言うとせっかくのチャンスを逃してもいいのかと思う自分もいた。
私は悩みに悩んで「いるよ。」と答えた。
またすぐに既読がつく。そして、息をする間もなく返答が来た。
「誰?」
『えっ。まって、私今日中に好きバレしちゃうの!?』
私は回答を誤ってチャンスを逃すって考えると焦りが止まなかった。なんて返せばいいのか……。考えていくうちに、私はもう考えるとは何かがわからなくなるまで真っ白になってきた。
そして、私は考えるのをやめて電話をかけた。プツッとつながると、私は応答させる間も与えず琴座に告げた。
――俺、琴座のことが好きだ……。
中編に続く……。
――まさか、私が恋をするなんて思ってもいなかった。
事の始まりは、中学三年生に上る前の春休み前日、教室で通知表を一人ずつ返していたときだった。私は、教室の一番うしろの列にヒョコンと座っていた。周囲に耳を傾けると、「この前の鬼滅がさ……。」だとか、「この前こいつがさ……。」とか授業とは思えない騒ぎ具合だった。私は、自分から話に行くのがとてもではないが、苦手だった。私が会話するときは周囲の会話に体を向けて、あたかも最初から聞いていますよという表情しながら、会話に混ざるときぐらいだ。私は窓に顔を見せつけていると一人の黒髪ボーイッシュの女子生徒が私に話しかけてきてくれた。
「ねぇ、鳴磨くんはさ、鶴折れるの?」
「わっ。」
心臓が止まるかと思った。急に話しかけられて、何の話かさっぱりわからなかったのだからどう返していいかわからない。私は咄嗟に「何の話?」と聞き返すと、その子は丁寧に説明してくれた。
「さっきまでさ、美晴と折り紙折れるか折れないかの話をしてたんだけどさ、鳴磨くんは折れるのかなって思って聞いてみた。さっきまで聴いてくれてたでしょ?」
「あぁ、そだったのね。うん、鶴折れるよ。」
私は、流れ行く情報が自然と理解できるほどに、追いつくようになってきた。しかし、今更と思いながらも問題が起きた。
――今、目の前で話しているこの女子生徒は誰なのか。
思い出せない。もうすぐ思い出せそうな所まで来ているのに……。私は諦めて尋ねることにした。
「めちゃくちゃ、自然に話してたけどさなまえなんだっけ。」
私は、美晴の隣りにいる女子生徒の方を向きなだら、問いかけた。すると、その子は首をかしげて、「酷いなぁー」と言いながら笑っていた。
「鳳 琴座。鳳凰の一文字目のやつに、琴座はお琴の琴に星座の座。呼ぶときは、琴座でいいよ。」
かすかな笑みを浮かべていた。そして、琴座は続けるように言った。
「鳴磨くん、名前の漢字ってどういうの?」
「鳴磨 馨。鳴り響くの鳴るに、靴を磨くの磨く。馨は香ばしいとか、美味い匂がするときとかに使う難しい方の馨。」
私は、琴座の紹介を自己紹介を真似するように答えた。
「かっこいい名前だね。」
琴座はふと、私に言ってくれた。私は、ちょっぴり嬉しかった。なにせ、中学に入って初めて、女子から話しかけてきてくれたのだから。
そう思っていると、授業の終わりを知らせる鐘がなった。私は、その後琴座とは話さず学校が終わり、春休みが過ぎた。内心私は、琴座とLINE交換してればよかったと思っていた。
――春休み明けの四月の始業式。私は校庭に張り出されていたクラス分け表を確認しに向かった。すると、三年三組の名簿のところに鳳琴座という名前を真っ先に見つけた。そして、下から名簿を遡って行くと、自分の名前を見つけた。私は、満ち足りていた。すると、校門から見慣れた女子生徒が私のいるところまで走ってきた。琴座だった。
なぜだろう、私の体中にあるアドレナリンが働いているのか、自分の心臓が〝ドクン、ドクン〟と鼓膜に聞こえるくらいまで、心拍数が上昇していた。
そういえば、春休みに似たようなことが恋愛アニメをやっていたのをふと思い出す。その時、人は恋をするときなぜだか、対象人物を見るだけで、心拍数が急激に上昇する病にかかるらしい。私は理解した。
――私は今、恋をしている。
「今年もクラス一緒だ!よろしくね!馨くん。」
その声で私は強制的に現実世界に戻された。視界が整うと目の前には、琴座の姿が見えた。
「わぁ!」
私は腰が抜ける落ちるように尻餅をついてしまった。琴座は、「大丈夫?驚かせちゃってごめんね。」と心配の声をかけ、手を差し伸べてくれた。私は、目の前で手を差し伸べている琴座がなんかキラキラしているように見えた。心のなかでなんて優しい人なんだろうと呟いた。私は、琴座の手を取り立ち上がった。その後、私の顔面は夕日の太陽のごとく、真っ赤になった。
その日の帰り、琴座に「LINE追加していい?」と私に尋ねてきた。願ってもない幸運だった。私は、二つ返事でオーケーを出した。
「帰ったら、クラスラインから追加しておくね!」
「わかった。」
そして、琴座はスキップをしながら家に帰っていった。それを見て私は、「スキップしながら帰るとかどんだけかわいいんだよ。」とついに自分が琴座に恋愛感情を抱いていることを受け入れてしまっていた。私はそんなことを気にする間も無く、家に帰った。
家について、早速私は部屋に閉じこもり、スマホの画面を眺めた。すると、ピロンっと一件の通知が画面に表示された。通知先はLINEだった。私は、ベッドの上で飛び跳ねながら、アプリを開いた。
私は、その通知内容を見た瞬間、スマホを壁に投げつけた。
「どうして、琴座じゃなくて公式からなんだよぉぉ゙ぉ゙。くっそぉ。」
何故か、頭が真っ白になった。さっきまでの希望が、一気に冷めるような感覚だった。
そう嘆いていると、壁にぶつかったスマホからピロンと通知音が鳴った。私は「また、公式からでしょ……。」と肩を落としながらすこし画面にヒビが入ったスマホを拾い上げる。電源をつけるとまたもやLINEの通知だった。私は、ほら絶対公式じゃんと言いながらアプリを開くとローマ字でRairaと書かれたユーザーネームとペンギンが持っているスケッチブックによろしくお願いしますと書かれたスタンプが届いていた。再び、心拍数が上がってきた。もうこのメッセージだけで胸が締め付けられるような思いになった。でも、メッセージを返さなきゃ。私はそう思って、スマホの画面を開き、震える指を器用に使いながら「よろしくね」とメッセージを返信してみた。既読はすぐに付いた。
私は心拍数が上がるなか、早くメッセージが来ないかなとまるで構ってもらいたい犬のように尻尾を振って待っていた。すると、琴座から衝撃的な文章が送られてきた。
――馨くんってさ好きな人いるの?
そのメッセージが来たとき、私は氷のように硬直した。
えっ。どうして琴座はそんなことが気になるんだろう。会って日が浅いのに……。私はそう思いながら、咄嗟に「どうして?」と聞き返してしまった。
「純粋に気になったから。」
躊躇がなかったのか、琴座の返信速度が光の速度並みに早かった。
私は返答に困っていた。いるにはいるんだけど、最近知ったばっかだし、それを好きな人と決めつけていいのかわからない自分もいるし、ここでいいえとか言うとせっかくのチャンスを逃してもいいのかと思う自分もいた。
私は悩みに悩んで「いるよ。」と答えた。
またすぐに既読がつく。そして、息をする間もなく返答が来た。
「誰?」
『えっ。まって、私今日中に好きバレしちゃうの!?』
私は回答を誤ってチャンスを逃すって考えると焦りが止まなかった。なんて返せばいいのか……。考えていくうちに、私はもう考えるとは何かがわからなくなるまで真っ白になってきた。
そして、私は考えるのをやめて電話をかけた。プツッとつながると、私は応答させる間も与えず琴座に告げた。
――俺、琴座のことが好きだ……。
中編に続く……。
