もし世界が、君のいない未来を迎えるのなら

一緒に学校へ行くこと。
一緒に帰ること。
一緒にご飯を食べること。
変わらずとも幸せな毎日は、まるで一日が十二時間まで縮んでしまったのではないかと思うほど、ハイスピードで駆け抜けていく。
「メリークリスマス」
有り得ない速度でやってきてしまった十二月二十五日。
両親は相変わらず仕事で、岩崎さんと二人で過ごしている中、昼前に高瀬くんが家に来た。
買ってきてくれたジュースやおかし、オードブルにケーキをリビングの机に広げる。
オシャレなワイングラスにぶどうジュースを注ぎ、コン、とぶつけて喉に通すと、少し大人になれたような気がした。
「今日、何時までいるの?」
早く帰ってほしいわけじゃないよ。
そう付け足さなくても、高瀬くんならわかってくれる。
「小晴が帰れって言うまで、ずっといるよ」
ソファの隣に座る高瀬くんと身体をぴったりくっつける。コタツに突っ込んだ足よりも、くっついているところがより温かい。
「人生最後にやりたいこと、全部やろうよ」
「うん」
「なにがしたい?全部、叶えるよ」
わたしの手を取ると、ぎこちなく指を絡める。
「なにがしたいかって言われると、思いつかないんだよね」
「本当に?」
「うん。だって今、高瀬くんが隣にいてくれるだけで十分幸せだよ。もう、他には何も望まないよ」
好きな人と手を繋ぐこと。くっついて、温もりを感じること。
顔を上げればすぐ横に好きな人がいる。
あなたに出逢えたことで、本当の恋ができた。
そうして人生の終わりがもうすぐやってくる。
迫り来る死に絶望するか、幸せに感謝するか。
わたしが後者になれたのは、高瀬くんと岩崎さんがわたしに寄り添ってくれたおかげだ。
「でもせっかくだから、一緒に映画観たいな。今度はホラーじゃないやつ」
テレビのリモコンを操作して、二人で選んだクリスマスの洋画を再生する。
リビングの椅子に座っていた岩崎さんは、気付いたら席を外していなくなっていた。
二時間足らずの映画を見終わって、止まっていた手を動かす。骨付きチキンよりも洒落たサラダをもそもそと口に運んでいる。
すごく楽しそうに笑っていたのに、時計を見ると人が変わったようにキラキラした笑顔は消えていた。
「ねぇ、わたしがいなくなったら、ちゃんとわたしのことは忘れてね」
「……え?何言ってんの?忘れるわけないよ」
わたしの言葉に、こちらを向いた彼の目は本気だった。
「忘れないよ。ずっと、小晴は僕の恩人であり、好きな人なことに変わりはない。小晴のことは、多分一生忘れない」
両手を握って、語尾を強調するのと同時に繋がれた手をぶんぶん振る。
「だからもう、そんなこと言わないで。お願いだから、せめてずっと僕の記憶の中にいて……」
高瀬くんの弱音は初めて聞いた。
いつも弱い姿は、必死に隠してきたのかな。
わたしに見せないように。悟られないように。
わたしの余生が、楽しくなるように。
恋をしている時間が、幸せで満ち溢れるように。
「……ごめん。もう、言わないよ」
気持ちを落ち着かせるためにグラスを持ち上げると、ジュースが波打って小さく揺れる。その音が耳に届くほど、この場は静まり返っていた。
「うん。そうしてほしい」
今にも泣き崩れそうなほど、じわじわと耐えてきたものが崩れてくる高瀬くんは、見ていられなかった。
落ち着くことはないまま、溜まってきた涙はポロリと瞳からこぼれ落ち、子供みたいにわんわん泣いた。
わたしの服をこれでもかとシワシワになるまで握りしめ、ポタポタとわたしの服を濡らしていく。
わたしのせいではあるけど、こんなに泣かれるとは思っていなかった。
「死なないでよ。……お願いだから、一緒に生きていこうよ」
鼻を強く啜りながら、鼻づまりのようなくぐもった声で懇願した。
そんな彼は、崩れ落ちるようにソファに頭を乗せて、何分も何分も、泣きつづけた。