もし世界が、君のいない未来を迎えるのなら

【ついたよ】
その連絡に、わたしはやっと外に出る。
信じてくれないであろうわたしの余生の話を高瀬くんにしたら、送り迎えをすると言ってくれたのだ。
そんなことをしても無駄だよ。
そう思ったけど、大切に思ってくれている気持ちが嬉しくて彼の提案を受け入れた。
十二月。もうすぐわたしの人生が終わることを示すその数字は、岩崎さんから話をされたときはまだまだずっと先の話のように聞こえたのに。
死はもう、目前に迫っていた。
「おはよう」
「おはよ。行こっか」
スマートにわたしの手を取り、歩き始める。
日に日に力強くなっていく彼との手繋ぎは、必死にわたしを引き止めているように感じる。
「正確な日付はわからないんだっけ?」
電車に乗り込み、わたしを席に座らせて高瀬くんが目の前に立つ。
「……うん」
八ヶ月後となると、十二月上旬ではあると思うのだけど。岩崎さんはただ無言でわたしたちの後ろに立っているだけで、何も言わない。
「そっか」
ガタガタと揺れる電車。もうすぐわたしが死ぬなんて、誰も思っていないだろう。
身体はいつも通り元気で、生きていく上で必要な食事も、歩行も。全て問題なくこなせている。
一人で出かけられるし、授業も受けていられる。胸の苦しさはあるけど、それは病気なんかじゃなくて、死の恐怖からくる精神的なものだ。
「あなたが死ぬ日が決まりました」
家に帰ると、わたしの部屋まで来た岩崎さんが正座して、わかりやすく暗くて歪んだ顔をわたしに向けている。
「……いつ……?」
「……十二月二十五日。クリスマスです」
ほぼ九ヶ月に近い時間をもらえていたわけだけど、今さらもう長いという実感は湧かない。
わたしがこの世を去るまで、あと二十日を切っていた。
「二十五日の、事故に遭いかけたあの時間、あの場所で。あなたは……。小晴さんはっ……」
驚いた。言葉に詰まったかと思ったら、岩崎さんはポロポロと涙を零しながら泣いていた。
「わかってるよ。もう、言わなくていいよ。ちゃんと、わかったから」
背中を撫でることもできない。
机をすり抜け落ちていく彼の名見たの行く末を見ながら、絶望に打ちひしがれそうな自分の心を必死に立ち上げる。
思い返すと、静かに泣いている岩崎さんとは裏腹に、わたしが高瀬くんにあと二ヶ月で死ぬんだと告白したとき、彼は泣かなかった。
ただ絶望に満ちた顔をして、でもどこか納得したように頷いた。
「あのとき独り言を言っていたのは、岩崎さんって人と話してたんだね」
そう、どこかスッキリしたように微笑むだけだった。
裏では泣いていたのか、どうなのか。
想像がつかないけど、きっと高瀬くんならわかってくれる。
泣きながら部屋を出て行った岩崎さんの後ろ姿を見届けながら、残り少ない時間での終活が始まった。